密かに応援するのもやぶさかではない
「ははーん、なるほどね! 俺、てっきりカリンちゃんが、まだあの日のことを怒ってんのかと勘違いしていたよ。あはははは……」
鈴木先輩は生徒会室のいつもの席につくと、スポーツ刈りぐらいに髪が伸びた頭をボリボリかきながら笑った。
「やだなぁ、センパイ! カリンはそんな過去のことをいつまでも引きずったりはしませんよー、えへへへへ……」
それは花梨さんにしては珍しく、空気を読んだお手本のような返答だった。
「でもセンパイ、わたしのことを『カリンちゃん』って気安く呼ぶのは止めてくださいね?」
「あっ……はい。すんません……」
……これ、フツーに過去のことを引きずっているよね。
「あー、ところで……鈴木君の担当したクラスの、七夕企画の反応はどうだった? 2年のクラスに説明してきたのよね?」
こんなとき、いつも場の雰囲気を変えるきっかけを与えてくれる工藤さんは、生徒会室の癒やし担当だ。
「んー、いつもの感じッスよ? みんな『へー』という感じッスね!」
「へーって感じって……あなた、仮にも伝統ある星埜守学園生徒会執行部の一員なのだから、もっとちゃんと報告しなさい!」
「あっ……はい」
癒やし担当の工藤さんにも叱られてしまう鈴木先輩って……。
きっと先輩にとって今日は運勢が最悪な一日なんだと思う。
先輩は背筋をピンと立てて座り直す。
「……えっと、俺が教室に入って、七夕にちなんで新しい企画を始めるという説明をしたところ、みんな『へー』という顔をして、七夕イベントの概要を説明し終わったころには、また『へー』という感じでしたね。まあ、強い関心を示した奴は、各クラスに数人ってところっスかね?」
「結局、『へー』なのね……」
「そういう先輩たちの方はどうだったんです? 二人は1年生の教室を回ったんですよね?」
「え、私たち?」
やれやれと額に手を当てていた工藤さんだったが、逆に質問されて驚いた様子。
「ウチらの方も、やっぱ『へー』って反応が多かったんじゃないかにゃ?」
「テルまで鈴木君の真似をするんじゃないわよ! ここは神聖なる生徒会室なのよ?」
「にゃはは、ミキちゃんそんなに眉間にしわを寄せてると、1年の二人が怖がって逃げちゃうぞー?」
「えっ!?」
工藤先輩は慌てた様子でボクと花梨さんを交互に見てきた。
でもボクは決して工藤さんを怖かったりはしていない。それは花梨さんだって同じだと思う。
何しろボクらはただ先輩たちの会話のスピードについて行けずに、ぽかんと口をあけて見ていただけだったのだから。
ちょっとした違和感を感じながら――
「ううっ……まあ、『へー』っていう言い方はともかく、確かに私たちが回ったクラスの1年生も、決してイベントに前向きな雰囲気ではなかったわね」
「でしょう? まあ、今回のイベントはそんなもんっスよね? 各クラスから二人か三人参加希望者が来ればいいとこっス!」
「そうねぇ……」
「そうっスよ!」
工藤さんはふうーっと深くため息を吐いた。
これで七夕イベントについての情報交換は終わったことになったらしく、先輩たちは参考書を開いたり、書類の整理を始めたり、会長席の机を拭いたりと、それぞれの日常に戻っていく。
今、違和感の正体がハッキリと分かった。
「はあーっ? 何なのよ、これ!?」
となりの花梨さんが声を上げた。
ただならぬ気配を感じたらしく、先輩たちが一斉に目を向ける。
「このイベントは、かいちょーが生徒のためと思って企画してくださったものなのよ? それなのに各クラスから二人か三人参加希望者が来れば良いですって? あなたたち、本当にそんな程度の反応でいいと思っているの?」
「か、花梨さん……先輩に向かってその言い方はさすがに……」
花梨さんを止める役を演じながらも、ボクは心の中で花梨さんを応援していた。
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