第9話 前から

目が覚めた。まだ24時間もここで生活してないのになぜかよく眠れた。ふと横を見るとそこにはまだ見慣れない少女の顔が目の前にあった。鈴だ。ムカつくが鈴は黙っていれば可愛いのだ。少し動揺しながらも落ち着いてそっと離れ、軽く掃除と昨日の鍋の残りを温め始めたら、寝ぼけた鈴がきた。すると鈴は急に大声で

『鍋じゃん!美味しそう!』

と子供のようにはしゃいでいた。昨日も食べただろ...と小声でゆうとしばらく黙り、そうだっけ?と昨日の元気な鈴に戻った。

二人で朝食を食べたあと、この森のことをもっと知るために散歩をした。昨日は暗くて気づかなかったがすごく自然が豊かだ。しばらく歩くと誰が作っているのかもわからない畑があった。すると鈴は勝手に野菜を収穫し始めたので僕は

『いや人の畑はダメでしょ』

と注意をしたが鈴は

『あのね、気づいてないの?この世界多分私と君しかいないよ?』

驚いたが言われてみればそうだ。昨日から鈴以外の誰にも会っていない、人どころか動物や虫もいない、この世界は本当にどこなんだ?森を抜けるとそこはどうなっているんだ?考えれば考えるほど分からなくなる。そんな事は気にせず鈴は収穫した野菜を両手いっぱいにもって僕に微笑んだ。 二人で野菜を運ぶ帰り道、僕は前を歩く鈴の後ろ姿を見ていると急に鈴が振り返り僕に

『なんで泣いてるの?』

と言ってきた。いや泣いてないと否定しようと目の下を触るとなぜか濡れていた。

『汗だよ』

僕がそう言うとあら、そう、と鈴はまた歩いた。真冬なのになんで汗かいてるんだろ。わかんないや。と特に気にせず歩こうとした瞬間、一つだけ思い出した。

僕は鈴を前から知っている。

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