第499話、皆仲良しで嬉しい錬金術師

何だか良く解らないけど、リュナドさんとメハバが仲良くなれたっぽい。

リュナドさんの態度が今までで一番優しくて、メハバも笑顔を見せている。

友達が皆仲良くなってくれて嬉しい。


「ふふっ・・・」


それに二人の会話内容は殆ど意味が解らなかったけど、一つだけ解る事がある。

私の為に、私の事を考えて、二人は何か決めてくれたっぽいと。


それが何なのかは結局良く解らないけど、それでも嬉しくて顔がにやける。

特にリュナドさんの言葉で頬が緩むのが止まらない。顔が戻らない。

最後まで私の為にって、そう言ってくれた事が嬉しくて堪らない。


そうだ、今なら仮面を外しても大丈夫なんじゃないかな。何となくそんな気がする。

部屋にいるのはリュナドさんとメハバ、後は優しい目をしている侍女さんだけだし。

彼女も二人の仲が良くなった事を喜んでくれてるんだろうと思うと嬉しい。


そんな嬉しくて幸せなでポワポワした気分のまま、仮面を外して外套に仕舞った。


「――――――」


するとメハバと侍女さんが目を見開いて私を見たので、どうかしたのかと首を傾げる。

リュナドさんも一瞬驚いた顔をして、けどすぐに穏やかな表情を私に向けた。


「良いのか、仮面外して」

「うん、二人なら、良いかなって」


そっか、単純に仮面を外した事を心配されたのか。

一瞬何かやってしまったかと思ったけど、ただの優しい想いにまた嬉しくなる。

本当に優しいなぁ。にへへ、私の周りには優しい人がいっぱいだなぁ。


「こ、光栄です、そう思って頂けるなんて。素顔を見せて頂けた事大変嬉しく思います」


するとメハバは何だか大げさな事を言い出した。

むしろ今まで私が仮面をつけっぱなしだった事がおかしいだけだよね。

そうしないと外での生活が辛いからだけど、余り普通でない事は解っているし。


いや、素顔を見せても大丈夫と思ってくれた事が嬉しい、って事なのかな。

さっきの会話を考えるとそうかもしれない。私の為にって話してくれてた訳だし。


「うん・・・ありがとう、私も嬉しいよ」

「――――――」


だからにっこり笑って返すと、メハバは目を見開いて固まってしまった。

あ、あれ、なんで。私おかしな返事はしてないと思うんだけど・・・。


「これは、危険ですね。仮面が必要な訳です」


少し不安になっていると、彼女は思案する様子でそんな事を呟いた。

また突然何の話だろうか。さっきもそうだけど今日の彼女はちょっと良く解らない。

危険なんか何にも無いんだけどな・・・仮面は人が怖くて付けてるだけだよ?


『『『『『キャー♪』』』』』

「え、は、はい?」


良く解らない言動に私が首を傾げていると、精霊達が突然大きく鳴き声を上げた。

そしてメハバの周りを踊りだし、数体はいつの間にか出した楽器を弾いている。

弾いているというより叩いているかな。今日は全部打楽器だ。


良く解らないままに皆精霊達の行動を見守っていると、少しして満足そうに踊りを止めた。

いや、本当に何だったんだろう。この子達の行動は時々良く解らない。


『ふうん。ポンコツはポンコツ同士波長が合うのね』

「あ、人魚」


何だかやり切った感の精霊達に皆で首を傾げていると、唐突に人魚が目の前に現れた。

今日は最初に会った時と同じで足は魚の状態だ。もう精霊達への警戒は良いのかな。


「今までどこに居たの?」

『ずっと傍に居たわよ。成り行きも一応全部把握してるわ』

「あ、そうなんだ」


全然気配を感じなかったし、魔力も全然解らなかったけど、ずっと傍に居たらしい。

人魚のこれ本当に凄いと思う。下手な隠匿系の魔法なんか目じゃないよね。

ただその間は何も出来ない、って事が欠点な程度かな。でも観察には有能そうだよね。


危険生物を至近距離で観察する時とか凄く便利そう。人間には絶対出来ないけど。


『『『『『キャー!』』』』』

『なによ、あんた達基本はポンコツじゃないの』

『『『『『キャー!!』』』』』

『私はただ傍に居たいだけで、別に役に立つ気なんて無いもの。そんな事関係ないわね』

『『『『『キャー・・・!』』』』』


精霊達が何か抗議し始めたけど、人魚は意に介さない様子を見せている。

そのせいか精霊達は更に気に食わなさそうに鳴き、地団太を踏んでいる子も。

何か悔しい思いをしてるっぽいのは解るけど床を砕いちゃダメだよ。ヒビ入ってる。


私が床のヒビにあわあわしていると、リュナドさんが人魚に声をかけた。


「なあ、こいつらさっき何て言ってたんだ?」

『え、貴方は言葉が解るんじゃないの?』

「いや、普段は全然解らん」

『えぇ・・・良くそんなので相棒なんて言ってられるわね・・・』

「ぐうの音も出ねぇ」

『キャー!』


リュナドさんが反論を諦めると、何時も一緒の子が大きく文句の鳴き声を上げる。

でも私もちょこちょこ何言ってるか解らないしなぁ。解っても理解できない時もある。

後で詳しく聞いてみたら全然違った事もあったし、大体は解ってない気がする。


幸いは一応注意は聞く事だけど、それも忘れてはしゃいでる時があるし。

家精霊の注意は明確に無視してる時がある気がする。アレは多分わざとだと思う。


『仲間が出来たって喜んでただけよ。仲間が出来た踊り? とか言ってたけど、特に意味は無いでしょ。魔力の流れも儀式的な力も感じなかったし』

「あー、ただの何時ものやつか」

『『『『『キャー!』』』』』

「はいはい、大事な事だったのね。俺が悪かった」


リュナドさんが認めて謝ると、精霊達は満足そうにうんうんと頷いて返していた。

なるほど、何時もの喜びの舞だったのか。精霊達にとってもメハバは仲間認定と。

それは良い事だと思う。彼女には精霊がもう付いてるみたいだし。


仲間だと思っているならきっと守ってくれるだろう。


「精霊様が私を・・・ありがとうございます」

『『『『『キャー♪』』』』』


メハバも嬉しかったらしく、しゃがんで精霊達と指先で握手をしていた。


「では名残惜しいですが・・・そろそろ失礼致しますね。私は私の成すべき仕事をして来ます。セレス様は今しばらくお休みください。あれだけの事をされたのですからお疲れでしょう」


暫く精霊達と触れ合っていた彼女は、スッと立ち上がりそう告げた。

王女様だもんね。私には解らない仕事が色々ありそうだし引き止められない。

それに疲れが有るかと言われると、有るとしか言い様がない調子を感じるし。


昔は寝たら疲れが取れてたのになぁ。家精霊の力に慣れ過ぎたせいなのかなぁ。

でも今更あの心地良い眠りを捨てるのは無理だけど。


「うん、ありがとう。いってらっしゃい」

「はい、行ってまいります」


笑顔で見送りの言葉を告げると、彼女はきりっとした顔で返してきた。

今までで一番凛々しい顔だったと思う。なんかちょっと違和感。


『『『『『キャー♪』』』』』


あ、半分くらいの精霊が彼女に付いてった。

仕事の邪魔にならないかな。仕事してる横で遊びだしそうなんだけど。

でもリュナドさんは特に何も言わないし、多分良いん、だよね?


「・・・まあ良いか」


多分大丈夫だろう。お互い友好的な感じだったし。私は計画書でも詰めておこうかな。

今後の作業は私一人じゃどうしようもないし、書類にしておけば説明しなくて良いだろうし。

うん、それが一番大事。いっぱいの人の前で細かく説明とか無理。


ー------------------------------------------


ポンコツ王女がポンコツ精霊を伴って出ていった。

いえ、伴ってと言うよりも、勝手について行っただけね。

何が気に入ったのか知らないけど、やっぱりポンコツ同士波長が合うんでしょ。


『メハバは残念だから見ててあげないと!』

『そうだね、残念だもんねー』

『あはははは! 残念ー! あはははははは!』

『昨日も何もない所でこけてたよねー』

『壺に肘ぶつけて落としかけてたー』


何の暴露大会なのかしらね。本人が何を言われているのか解らないのが救いなのかしら。

そうして声が遠くなっていったところで、セレスが鞄から紙の束を取り出した。


「ええと・・・あれ、ペンが・・・あ、有った」

「・・・セレス、休まなくて体は大丈夫なのか?」

「少し疲れがある感じはするけど、これぐらいなら大丈夫」

「そう言うなら信じるが・・・無理はするなよ?」

「ん、軽く纏めたらもうちょっと寝るから・・・そうだ、リュナドさんも一緒にお昼寝する?」

「・・・その時考える」


こっちはこっちで甘ったるい空気だしてるわね。リュナドを揶揄いたくなるわ。

ずっと二人を眺めてるのも悪くないどころか、むしろかなり楽しいんだけど・・・。


『リュナド、私はちょっと出て来るわね』

「え、お前ひとりで出て大丈夫なのか?」

『姿を隠せば何の問題も無いわよ』

「・・・まあ、良く考えたら俺がお前の行動に口出しする意味もないか」

『ふふっ、そうね。わたしはただここに『在る』だけの存在だからね』


私は特に何もしない。ただ眺めているだけ。ただ好きな人の傍に居るだけ。

ただそれだけの存在が私で、それ以上でもそれ以下でもないわ。


「良く解らないが・・・まあ、気をつけてな」

『ええ』


気を付けて、か。本当にお人良しよね貴方。余りにも過ぎるわ。

私に対して苦手意識があるくせに、それでもそんな相手を気遣うなんて。

それは貴方の本質なのかしら。それとも力を持つが故の余裕なのかしら。


どちらにせよその人間性を愛しく想いながら、私はその場から姿を消す。

そうしてぼやっとした意識のまま、目的の地へと向かった。

この状態の私は世界に溶け込んでいる様な物で、ならその移動は一瞬で終わる。


『あ、さかなー!』

『さかな何でー!?』

『主は!? 何でさかなだけなの!?』

『アンタ達はどこに居てもうっさいわね』


セレスが魔法で工事をした水場へ降り立つと、警備で残った精霊達がやかましく叫ぶ。

それを一瞥してから水を見ると、既にそこそこの水が溜まり始めているのが解った。

この調子ならそこまで時間もかからず大きな湖が出来るでしょうね。


『さかなさかなー。さかなは海の魚なの? 川の魚なの?』

『不味いから泥水の魚だと僕は思う』

『あれってそのまま食べると泥の味しかしないんだよねー。さかなも下処理がんばってー』

『・・・アンタ達を下処理してやろうかしら?』

『『『にげろー!』』』


少し水を発生させてやると、凄い勢いで逃げて行った。

けどある程度距離を置いた所でこっちの様子を伺っている。

なんか小さい鏡取りだしてキラキラやりあってるのは暗号のつもりなのかしら。


『はぁ、疲れる・・・ホント会話にならないわねアレは』


今からもっと疲れる事をするんだから、気疲れなんて止めて欲しいわ。


『・・・ご褒美よ、王女殿下。リュナドから言葉を引きだした、ね』


本当は何もする気なんて無かった。もう私は何も出来ない何でもない者だから。

ただ愛しい人の傍に居て、愛しい人の生きざまを見るだけの存在だもの。

けれどだからこそ、愛しい人の想いを見て嬉しくなるのは仕方ない。


そう、仕方ない。嬉しかったんだから。良い物が見れたのだから。

だからほんの少しだけ、セレスとリュナドが手を出したこの周囲に少しだけ。

この程度の事ならきっと、褒美としてはやり過ぎじゃないだろう。


何よりも誰も私が手を出したなんて思わないはず。これはセレスの成果だと。


「しかしキラキラキラキラうっとおしいわね・・・まぶしっ!?」


その間もずっと光を反射させていた精霊は、その光を私の目に向けて来た。


『ふふふ・・・いい加減にしなさいよあんた逹!』


とりあえずしめておいたけど、何となくあいつら懲りない気がする。


『さかなきらーい』

『さかなのいじわるー!』

『不味い魚のくせにー!』


うん、懲りてないわあいつら。あともっとこっち来て文句言いなさい。

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