第468話、原因を調べに向かう錬金術師
王子が少し低い声で怒ってきて凄く焦ったけど、国王が彼を落ち着かせてくれた。
その事にほっと息を吐くも、やっぱり私の行動は間違いだったのかな。
国王は自分達の気遣いが足りなかったと言ってくれるけど・・・。
「・・・どうしたら、良かった、かな」
自分の中では答えが出なくて、また怒らせてしまいそうでリュナドさんを頼った。
彼なら良い答えを教えてくれるんじゃないかと、恐る恐る彼に訊ねて。
すると彼は少し考える様子を見せ、口を開き―――――カランと音がした。
精霊が、石に吸い込まれる様に、消えた。
「全員動くな・・・!」
反射的に立ち上がり全力で全方位に警戒をして、誰も動かない様に警告を口にする。
今のはあの石が原因の可能性が高い。なら何をするにしてもそのまま放置は危険だ。
これ以上の被害が出ない様に、封印石と結界石を発動させて二重で隔離する。
「―――――っ、はぁー----」
ギリッと歯を食いしばっている力を抜き、感情を落ち着かせる為に深く深く息を吐く。
助けられなかった事を嘆くのも、こんな事になった存在に怒るのも後回しだ。
落ち着け。頭を回せ。あの子はまだ助かるかもしれないんだから。
消滅した感じじゃなかった。石に吸い込まれた様に見えた。それなら、まだ。
ううん、解ってる。望みが薄い事は理解している。だから悲しくて腹立たしいんだ。
家族を守れなかった。助けられなかった。その事が辛くて悔しい。
けれど助けられる可能性がある以上、嘆いている場合じゃない。
「・・・誰か、この石に、見覚えは?」
まだ抑えられない感情が声に混ざる。何時もと違い怒りと悔しさで声が掠れる。
それでも段々頭は冷静になってきて、石から視線を外さずに返答を待つ。
「――――し、知らぬ。私は何も知らぬ。何が起きたのかも解らぬ。本当だ・・・!」
石を視界に入れたまま、答えた国王の顔をチラッと見る。
その表情は普段の私のようで、真っ青になって慌てていた。
多分その言葉通り、何が起きたのか解らなくて驚いているんだろう。
彼が何か知ってれば話は早かったけど、そう上手くは行かないらしい。
「・・・国王陛下、王子殿下、本当にご存じないのですね?」
「ほ、本当だ! 私は何もしていない! お前もやっておらぬだろう!?」
「あ、は、はい、ぞ、存じませぬ・・・」
念の為なのかリュナドさんが再度問うと、国王に問われた王子も知らないと答えた。
そして周囲の使用人達にも問いかけ、けれどやっぱり皆知らないと答える。
皆国王と同じ様な表情で、一人として余裕がない様子だ。
何も解らなくて混乱しているんだろう。なら誰も頼りにならない。
「っ・・・誰も、知らない、か」
何も解らないという事実に、焦っても仕方ないのに気持ちが焦る。
奥歯が欠けるんじゃないかと思うぐらい、また無意識に歯を食いしばってしまった。
だからこれじゃだめだ。落ち着け。まだあの子は、死んだとは決まっていない。
まだ助かるかもしれないのに、怒りで思考を止めたら助けられない。
『キャー』
「っ・・・この石、城の地下に、あったの?」
そこで精霊がこの石を知っていると、城の地下で見つけたと教えてくれた。
城を探検している時に、今吸い込まれた子と一緒に拾った石だと。
一人で持ち逃げしたから、それからずっと持ってたんだって。
『キャー』
「・・・本当?」
『キャー!』
「・・・そう」
それに、消えた子は、まだ『居る』って言ってる。
消えてないって。僕達は減ってないって。
その事実に少しだけ、ほんの少しだけホッとした。
「ま、待ってくれ! 精霊が何を言ったのか解らぬが、本当に何も知らぬ! 何もしておらん! お主らに害を与える意味が無い! 先程とぼけた態度をとったのは謝罪する! だからどうか信じてくれ! 頼む! 本当に何も知らんのだ!」
そこで何故か国王が更に慌てた様子でそんな事を言ってきて、少し驚いてしまった。
別に疑ったつもりは無いし、既に頼りにならない事は解っているつもりだ。
だから別に謝らなくたって良いんだけどな。彼に怒っている訳じゃないし。
あ、私が怒ってるのを見て、それで慌ててしまっているんだろうか。
優しい気遣いをしてくれる彼ならありえそうだ。必要の無い謝罪をさせて申し訳ない。
その事実に少し落ち着きを取り戻し、けれど心のどこかにチリチリした物は残っている。
「・・・謝罪は、要らない」
「――――――な、ならば出来れば私の首で許して頂きたい! どうか、どうか・・・!」
「ち、父上・・・!」
え、謝らなくて良いって言ったのに、何で更に謝ってくるんだろう。
というか国王の首なんて私要らないし、許すも何も貴方には怒ってないのに。
むしろ私が失礼をしてばっかりで、謝るのは私の方だと思うんだけど。
いやそれよりも今はそんな場合じゃなくて、一刻も早く原因突き止めたいのに。
王女も何故か悲痛な表情を私に向けているし、一体どうしたら良いのか解らない。
オロオロと慌てるばかりで答えが出ず、助けを求めてリュナドさんに顔を向けた。
すると彼は険しい表情で石を見つめていて、ただ私の視線に気が付いて顔を上げる。
「セレス、先ずはどうするべきだ」
「・・・とりあえず、城の地下を、調べたい」
「そうか・・・」
あの石を調べる事も必要だけど、その石があった場所にも理由が有るのかもしれない。
出来ればその場所も調べておきたい。精霊達が知ってるなら案内して貰おう。
私の答えを聞いた彼は、納得したように呟くと視線を国王へと向けた。
「国王陛下、自由に城を動く許可を頂けますか」
「――――、解った、それで収まるのであれば、許可しよう」
「感謝致します」
リュナドさんは軽く頭を下げ、許可をくれた事に礼をする。
慌てて私も同じ様にして、お礼と謝罪の両方の気持ちを込めた。
「ではセレス、行くぞ。精霊達も頼んだ」
「・・・ん」
『『『『『キャー!』』』』』
リュナドさんが先導するように立ち上がって歩き出し、素直に頷いてついて行く。
石は封印結界を操作して、手を触れない様にして持ち運ぶ。
精霊達は気合いの入った様子で彼に応え、さっきの二体は案内の為か一番前に出た。
「ま、待って下さい、私も同行させてください!」
そこで王女も付いて来たいと言い、判断はリュナドさんに任せた。
だって私昨日から失敗してばっかりだし、今は精霊の事で余計に判断力が無い。
「命を落とす危険もあるぞ。それでもついて来るのか」
「城の地下にその様な物が有るのでしたら、私には知る義務があります」
「・・・良いだろう。前に出るなよ」
「はい、ありがとうございます」
命の危険は・・・そうだね、ありえる。精霊が何も出来なかったんだから。
王女の事は頑張って守ろう。彼女まで失ったら、私は私を許せない。
ただ地下に行く前に念のため、リュナドさんは竜の装備に着替えに向かった。
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精霊が消えた瞬間、私でも解る程の威圧感と恐怖を叩きつけられた。
カタカタと歯が震えてしまい、体は鎖で巻かれたかの様に動かない。
怖い。とにかく怖い。あそこに居る人が、錬金術師が、怖くて堪らない。
動くな? 動ける訳が無い。この恐怖の中で動ける度胸がある人間なんてそう居ない。
すると彼女は周囲に聞こえるほど歯を食いしばり、その怒りを示すように息を吐く。
まるで猛獣の檻に入れられている気分だ。横目で侍女を見ると彼女も同じように見えた。
当然父も兄も同じ様に固まっていて・・・いや、兄は父よりも混乱している様に見える。
兄はどこか錬金術師の事を舐めていた。だから余計に慄いているんだろう。
「・・・誰か、この石に、見覚えは?」
唸る様に問う錬金術師に、父が慌てて答えた。けれどその言葉を信じて貰えない。
精霊公と確認しあうように視線を合わせ、再度父に、そして使用人達にも問う。
当然誰も知らないと答えるけれど、やはり信じて貰えない。
「っ・・・誰も、知らない、か」
惚ける気かと問うような声音と言葉は、間違いなく父と兄へ向けたものだ。
先程とぼけた事を抜かした以上、お前達の言葉に信用など無いぞと。
隠し立てするなら許す気は無いと、恐怖を与えながらの忠告をした。
『キャー』
「っ・・・この石、城の地下に、あったの?」
『キャー』
「・・・本当?」
『キャー!』
「・・・そう」
そこで彼女の威圧感が少し落ちたのを感じ、逆にそれが恐怖に思えた。
解り易く怒りを見せていた時と違い、もう怒りすら向ける意味も無いという風に見える。
だって精霊達の言葉から予想するに、原因はこちらに在ると言っている様なものだもの。
当然父は慌てて弁明をし、先程の謝罪も口にした。
本気で何も知らないと訴える為に。
けれどのその言葉は遅く、もう謝罪など受けるつもりは無いと返される。
・・・これで、終わりなのだろうか。こんな事で終わってしまうのか、この国は。
錬金術師を信じた。助けてくれると信じた。けど、突等に、国が終わろうとしている。
彼女の事を信じたのは間違いだったのだろうか。やっぱり私は間違いだらけだったのだろうか。
何もかもが間違いだらけでも、あの人を信じた事だけは間違いじゃないと思ったのに。
「・・・とりあえず、城の地下を、調べたい」
ただ彼女が口にしたのは、城を自由に動くための許可。
当然父は出さざるを得ず、そして即座に彼女達は動き始める。
まるで最初からそのつもりだったかの様に――――――違う、そのつもりだったんだ。
勿論精霊が消えたのは予定外なんだと思う。じゃなかったらあんなに怒るはずがない。
けれどその不慮の出来事すらも利用して、城の地下を調べに向かおうとしているんだ。
何の為に。勿論精霊を助ける為に。けれど、きっと、最初から知っていたんだ。
この城の地下に、何かがあると。精霊達に調べさせていたんだ。
「ま、待って下さい、私も同行させてください!」
慌てて二人に声をかけると、二人とも足を止めてくれた。
そして危険があると教えてくれて、なら余計に私はついて行きたい。
きっと知らなければいけない事だ。きっと私の望みと無関係じゃない。
彼女は言っていた。この国は本来緑あふれる様な土地じゃないと。
ならその理由があるはずだと、ずっと調べていてくれたんだ。
少しでも疑いそうになった自分を殴りたい。やっぱりこの人は凄い人だ。
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