第466話、精霊に応えただけの錬金術師

突然落ち込み始めたリュナドさんは割と早く立ち直った。

何で落ち込んでいたのかは結局解らず、けれど元気が出たならそれで良いかな。

その後とりあえず一旦城に戻ろうという話になり、王女達にもその事を告げた。


ただその際の彼の機嫌が悪くて、もしかしてまだ怒っているのかも。

そう思うと自分の為を解っていても下手に話しかけられず、城に戻るまで無言で過ごした。

城に着く頃には日が落ち始めていたから、戻るには良い頃合いだったかな。


多分私一人の判断なら、あのまま野営に入っていた気がする。


部屋に戻った後はリュナドさんの機嫌も直っていて、ホッとしながらその日は眠りについた。

砂漠で乾燥しているせいか夜は寒かったけど、そのせいかやけに彼の体温が心地良かった。

そうして翌朝離れがたい気持ちを振り切って、何とか起き上がって伸びをする。


「ふあぁ~・・・」

『『『『『『キャー・・・』』』』』


私が起きたからか精霊達も続々と起き上がり、いつもの子が頭の上にもそもそと登る。


「おはよ」

『『『『『キャー』』』』』


ツンツンと突きながら声をかけると、精霊達も「おはよー」と答える。

それから服を着替えようとして、特に脱いでいない事を思い出した。

リュナドさんと一緒だから、いつもの寝間着は来てないんだ。


でもよく考えると、彼になら別にあの寝間着でも良いんじゃないかな。

彼の為なら子供も構わないと思った訳で、それならあれぐらい平気であるべきでは。

ただそう思った瞬間顔が熱くなり、彼の寝顔を見るのもちょっと恥ずかしくなった。


「・・・いや、ダメだ、うん、これじゃ、だめだ、次は、頑張ろう」


彼は優しいから私を許してくれた。けどそうじゃない日が来るかもしれない。

その時の為にも慣れておかないと。恥ずかしくて無理なんて、言ってられない。


「ふああ~・・・ん、おはようセレス、早いな」

「――――――っ、おは、よう」

「・・・え、なに、どうした、俺何かやった?」


想像だけで恥ずかし気っていると、起きたリュナドさんに声を掛けられ焦ってしまった。

そのせいで喉が変につまり、声もうまく出なくて、表情も何だかおかしい気がする。

ただそんな私に対して彼は自分が悪いのかと、どこまでも私に甘い事を言う。


「・・・何も、無いよ」

「いや、何もないって感じじゃ、無いんですけど・・・」

「・・・本当に、リュナドさんは、何もないよ。私の問題、だから。ごめん」


申し訳なさと恥ずかしが相まって、喉の奥が苦しくなりながら謝った。

すると彼は困ったように頭をかいて、うーんと唸る様子を見せる。


「まあ、そう言うなら、それで良いが・・・俺に出来る事があるなら言ってくれよ?」

「・・・ん、ありがとう」


彼は私を気遣うようにそう告げ、私も嬉しく思いながら礼を返す。

とはいえこればっかりはどうしようもない。私が頑張るしかない事だ。

次は心を落ち着けて頑張ろうと気合いを入れていると、コンコンとノックの音が響く。


即座に仮面を着けるとリュナドさんが応え、扉が開かれると使用人が入って来た。


「陛下が朝食をぜひご一緒にと申しております。ご案内いたします」


え、何それ。陛下って、あの王様の事だよね。断っちゃ、ダメなのかな。

王女とならともかく、知らないおじさんと一緒に食事は出来ればしたくない。

そう思いリュナドさんに目を向けると、彼は小さく頷いてから使用人へと目を向けた。


「・・・解った。少々待ってくれ。今着替える」

「承知しました」


あ、あれ、断ってくれないの? いやでも彼が受けたって事は、断らない方が良いのかな。

リュナドさんがそう判断したなら仕方ない。勿論できれば行きたくないけど。

その後使用人には少し待ってもらい、リュナドさんが軽装鎧を装備してから部屋を出た。


出来れば食事ぐらい、ゆっくり食べたかったなぁ。

でも昨日は保存食しか食べてないし、精霊達はちゃんとした食事を食べたいかな?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝起きたら突然セレスが不機嫌だった。流石にちょっとビビる。

とはいえ俺に怒ってる訳じゃないらしいが・・・どこまで本当だろうかね。

まあ最近のセレスの態度を考えれば、俺に怒ってるなら素直にそう言う気はする。


俺には関係ないという辺りが気になるが、無理に聞き出しても俺に怒りが向きそうだな。

とりあえず機嫌が直るまでそっとしておこうと思っていたら、ノックの音が響いた。

どうやら国王が顔を合わせたいそうだ。朝食はその口実だろう。


セレスは返答をせずに俺に顔を向け、自分の返答の権限が無いという素振りを見せる。


今回は王女たち以外の前では、完全に俺の下についている体で動くつもりらしい。

了解したと頷いて返してから使用人に返答し、軽く装備をしてから部屋を出る。

セレスも外套を纏って後ろにつき、案内されるままに城を進む。


「どうぞお入りください」

「・・・これは」

『『『『『キャー・・・』』』』』


そうしてたどり着いた食堂らしき場所に通され、奥に国王と王子、それと王女も座っていた。

料理は既に用意されていて、ただその料理が王族が食べる物とは思えない。

穀物をふやかしたらしき物と少量の野菜、そして明らかに保存食の乾燥肉。


精霊達はもっと豪華な食事を期待していたのか、あからさまにがっかりした顔を見せている。


「精霊公、どうかされたか」


思わず呆けていると、国王が不思議そうに訊ねて来た。

この食卓の何がおかしいのかと、そう問われている様に聞こえる。

つまりこれがこの国の日常であり、上層部がこれじゃ下はもっと酷いはずだ。


・・・わざと見せつける為に、朝食に誘ったんだろうな。


お前が手出しをしている国はこんな国だ。搾れる物など何も無いぞと。

そして本当にセレスの言葉通りに事が運ばなければ、この国は何もできなくなる。

おそらく国王達はそうなる前に行動を起こすだろう。いざとなれば自分を殺してでも。


これはそういう意思表示であり、本気でやれるのだろうなという問いかけだ。


「いえ、失礼した。わざわざお誘い頂き感謝します」

「そう言ってくれると助かる。さ、早く座ると良い」


王女が少し申し訳なさそうな表情をしていて、笑顔の国王が大分胡散臭く見える。

ただ表面上は友好的なだけに、こちらも礼を失した行動は出来ない。

謝罪を口にして言われる通り席につき、辺り障りない話をしながら食事に手を付ける。


『『『『『『キャー・・・』』』』』


・・・味が無い。素材の味だ。保存の肉こそ塩の味はするが、こっちは濃すぎる。

精霊達は心底残念そうな顔で、けれどチマチマと食べている。


「申し訳ないな。我が国ではこれでも贅沢な方なのだよ」


そんな俺の心の内を見透かしたように・・・いや、最初から予測していたのだろう。

申し訳なさそうに謝る国王の様子は、保身と保険のように思えて仕方ない。

歓迎はしたいのだが出来ず、そして何も手伝えはしないという予防線。


確実な成果が見える結果が無ければ、手を貸す気は無いという事だろう。

まあこっちにとっちゃ、邪魔しないなら今の内は別に良いんだが。

とはいえこんなことをしてくるって事は、あんまりのんびりも出来ないって事だろうな。


「お気になさらず。頂けるだけでありがたく思います」

「そう言って頂けると、こちらもありがたい」


何がありがたいだ。この状況じゃそう告げるしか――――――。


『キャー・・・』

「・・・ん、そうだね、美味しくないね。持ってきた保存食の方が、美味しいと思う」


ぴしっと、場が凍り付いた。国王は愛想笑いのままだが、王子の表情は不愉快そうだ。

そりゃそうだろうな。今のはどう考えても、茶番に付き合う気は無いって言ったんだし。

セレスさん、不機嫌そうな理由、もしかしてこれを予測してだったんですかね。


気持ちは解らなくは無いが、それならできれば先に言ってくれ。俺関係あるじゃん。

つーかわざわざこのタイミングで怒らせるって、邪魔になるだけだと思うんだが・・・。

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