第460話、精霊に忠告する錬金術師

国王との謁見から少し経ち、流石に私も落ち着きを取り戻した。

なので出来れば砂漠の調査に向かいたいんだけど、王女がまだ戻って来ない。

勝手に出て行って良いんだろうか。それなら私一人で行って来るんだけど。


「リュナドさん、王女置いてって、良いと思う?」

「・・・どうかな。状況的に一枚岩じゃねえだろうしな。傍に精霊付けとくなら問題無いとは思うが、あの王女様危なっかしい感じするからなぁ。一緒の方が安心ではあると思うが」

『『『『『キャー?』』』』』


確かにあの王女様、私みたいに慌てて失敗しそうな感じが凄くある。

となると確かに余り一人にさせない方が、危なくないのかもしれないね。

精霊達を付ければ安全かって言われると・・・この子達時々やらかすから心配だし。


「なら、呼びに来るまで、待ってようか」

「あいよ」

『『『『『キャー♪』』』』』


ポスっとベッドに座って彼の判断に頷き返すと、彼は元々そのつもりの様子だった。

精霊達は特に何も考えていないだけだと思うけど、ご機嫌に応えて踊っている。


やっぱり彼は面倒見が良いよね。ちゃんと周りの事をよく見ている。

私が心配したのはただ行って良いのかどうかだけで、彼は王女の身の心配だったもん。

こういう所が悪い所なんだろうな。私は私の事しか考えてない。


「ありがとう、一緒に来てくれて。リュナドさんが居てくれると、本当に助かる」

「・・・突然だな。ま、それが俺の仕事だからな」

「うん。それでも、ありがとう」


突然な発言だっただろうか。そうかもしれない。でもそれでも構わない。

想った時にしっかり伝えておかないと、また彼に伝わらないで終わってしまう。

もう少し、伝えて欲しい。彼のささやかな願いを、私は常に意識しておかないと。


それにたとえ仕事だとしても、それでも彼への感謝は何も変わらないのだから。

王女の仕事を受けたのは私で、本当なら彼は来なくていいはずだもん。

何時も私がお願いしたから来てくれている。その感謝は絶対に忘れちゃいけない。


「王女、戻って来るの、時間かかりそうなのかな」

「国王達と話しに行くって言ってたからな。場合によってはかなり伸びるんじゃないか?」

「そっか。ならリュナドさん、鎧脱がないの?」

「・・・脱いだ方が良いか?」

「と、思ったけど」

「・・・そうか」


だってリュナドさん、普段からその鎧着てるのは好きじゃないよね。

戦う時はその鎧の方が良いけど、普段は軽装の方が楽って言ってるし。

のんびり待ってる間ぐらい、鎧脱いじゃって良い気がするけど。


何よりリュナドさん、暑そうだよ。絶対脱いだ方が良いと思うよ。

そう思ったのは彼も同じだったのか、納得した様子で鎧を脱ぎ始めた。

全部脱いだら部屋に端に置き、フゥと息を吐いて用意されていた水を口にした。


「あー・・・涼しい」

「やっぱり、暑かったよね」

「流石にな。セレスは大丈夫なのか?」

「鎧よりは涼しいよ。通気性有るし。それに外は外套が有る方が、日差し避けになるし」


単純に暑いだけなら兎も角、あの日差しに当たり続けるのは余り良くない。

そういう意味では外套は着たままの方が良いし、下手に脱ぐより着ている方が涼しい。

ただそんな事よりも一つ気になる事が。リュナドさんがこっちに近付いて来ない。


「・・・リュナドさん、何か遠くない?」

「いや、流石にこれは、汗臭いかなって、思って」


汗をかいた匂いは確かにしているけど、生物なのだから仕方がないのでは。

そんな事言い出したら、私だってそこそこ汗かいてしまっているし。

もしかして私も汗臭いのだろうか。自分だとちょっと解り難い。


「私も汗臭い、かな」

「い、いや、セレスは、んな事は無いと思うが・・・」

「そっか。なら良かった」


リュナドさんに嫌がられてないのであれば良かったと、ほっと一安心して息を吐く。

もし彼に臭いって避けられたら、流石に私もちょっと辛かったと思うし。

匂い消しの石鹸、新しいの作る事を考える所だった。


「私も気にならないよ」

「・・・そうか?」


彼にそばによって首筋の匂いを嗅ぎ、確かに汗臭さは無いとは言えないと思う。

けどこれはリュナドさんの匂いで、そう思えばむしろ好きかもしれない。

うん、彼の匂いなら好きだ。その思いのままに彼にギュッと抱き付く。


「リュナドさんの匂いなら、私は、好きだよ」

「そ、そっか」

「ん」


ああ、やっぱり鎧越しじゃない、彼の体温が伝わるのは良いなぁ。

ギューッとしてるとじんわり暖かくて落ち着く。

むしろ彼が汗をかいている事で、もっと彼に包まれている気すらする。


「にへへ・・・大好き」

『『『『『キャー!』』』』』


ギューッと彼に抱き付いていると、精霊達も『僕もー!』と群がって来た。

ただリュナドさんに抱き付く子は居らず、皆私に寄って来るのだけど。


「ん、私も、君達の事大好きだよ」

『『『『『キャー♪』』』』』


そう答えてあげると、それだけで嬉しそうに鳴いて踊り出す精霊達。

私が思っている以上に想ってくれている事は、もう知っている。

現金な想いかもしれないけれど、私にとってはもう君達も大切な家族だよ。


「だから、もし何か頼まれても、無茶しちゃ駄目だよ?」

『『『『『キャー!』』』』』


はーいと答える精霊達を見て、ひとまずは安心して息を吐く。

ただ先に出て行った子にも、これは事前に言っとくべきだったかな。

そう思い、ここに居ない子達にも伝えて置いてねてと、更に念押ししておいた。


多分今何体か駆けて行ったけど・・・伝えに言ってくれたんだよね?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『あー、見っけたー』

『ん、あれ、どうしたの?』

『もう交代の時間ー?』


留守番だったはずの僕が駆けて来るのが見え、僕達皆首を傾げる。

まだ僕達諜報部隊のお仕事、何も出来てないんだけどな。

もうちょっと探検してから交代したい。


『でんれー! 主からのめーれーです!』

『何々!?』

『主から!?』

『何やるの!?』


主からの頼まれ事なら、諜報員なんてどうでも良い。

一体何だろう。早く、早く教えて!


『何かを頼まれても、無茶しちゃ駄目、だってー』

『・・・それだけ?』

『それだけー』

『なーんだー・・・』


てっきり主に頼まれたのかと思って、物凄く張り切ったのに。

そんなの最近主が僕達に良く言う事じゃないか。

言われなくたって僕達は、主の為にしか無茶なんてしないのに。


『他には何かないのー?』

『僕達の事大好きって言って撫でてくれたよー』

『『『なんだって?』』』

『あ・・・じゃあ僕他の僕にも教えて来るからー!』

『『『こらー!』』』


僕達が居ない所で何してるんだ! ずるいぞー! 逃げるな―!


『僕悪くないもん! あの部屋に居た僕達皆撫でて貰ったもん!』

『『『僕達は撫でて貰ってないもん!』』』

『居ないのが悪いんでしょ!』

『『『なんだとー!』』』


全力で逃げる僕を殴ろうと追いかけるも、知らない道なせいで追いつけない。

先回り出来るほど地図がまだ出来上がってないから、普通に追いかけっこだと捕まえられない。


『あー、逃がした!』

『くそー、覚えてろー!』

『僕達は何か役に立ってもっと褒めて貰うもんねーだ!』


結局僕を見失ってしまい、ただ悔しい思いをしただけだった。

くそうと思いながらベーっと舌を出し・・・ふと周りを見て気が付いた。


『・・・ここ何処?』

『どこだろ』

『地下?』


明かりが無くて真っ暗だから、多分地下なんだと思う。

ただ人間が通れるような道じゃなくて、小動物しか通れそうにない。

通路というよりは、空気穴じゃないのかな。多分。


『地図作り再開するー?』

『今何処か解んないけど・・・とりあえずこの先行ってみる?』

『だねー』


取り敢えずそのうち外に出るでしょーと、小さな通路を進んで地図を描いていく。

暫く進んでいくと、半分以上が土に埋もれた部屋に出た。

何か祭壇みたいな物が有って、それも土に半分以上埋もれている。


『何だろこれ。竜神の時みたいなやつかな』

『それっぽいけど・・・力を感じないよ?』

『何にも居ないねー』


祭壇をペシペシ叩いてみるけど、何にも反応は帰って来ない。

元々は何か居たのかな。ただ祭壇が有るだけなのかな。

今居ない以上は解らないけど、一応地図には追加しておこう。


『ねー、何か綺麗な石見つけたー』

『お、ほんとだー。きれー』

『見た事無い石だー!』


祭壇の下に、小さな石が落ちていた。他に似たような石は無い。

飾られてたのかな。でも落ちてたし、拾っても良いよね?


『・・・食べてみよっか』

『わけっこー』

『じゃあ僕先に齧る――――』

『『駄目! 僕が先!』』


僕が先に見つけたのに! 何で僕が先に齧っちゃ駄目なのさ!

やだよ僕が先に食べるんだい! 絶対に渡さないぞ!


『もう僕達にはあげないもん!』

『『あ、まてー!』』


だーっと部屋から出て小さな通路を逃げまどい、兎に角走り続けて外に出る。

気が付いたら後ろには誰も居なくて、僕の手にはキラキラな石が有った。


『勝った・・・!』


石を掲げて勝利を誇る。これでこの石は僕の物だ!


『それじゃ、いただきまーす・・・かひゃい』


え、なにこの石。僕がかみ砕けない!? 固い!? なにこれ!?


『はぎゅ! はぎゅ! かひゃい~~!』


僕が石を食べられないなんて! そんな事が有る訳無い!

なのにどれだけかみ砕こうとしても、この石全然砕けない!


『むぅ~~~。でも捨てるのも悔しい・・・暫く持ってよっと』


何度か噛んでればその内噛み砕けるかもしれないし。

他の僕にばれないように、こっっそり持っとかないと。


『――――』

『んえ?』


今誰か呼んだ? キョロキョロ周りを見回しても、周囲には誰も居ない。

てっきり僕が追い付いて来たのかとも思ったけど、そういう訳でもなさそうだし。


『・・・気のせいかな。ま、いっか。探索の続きだー♪』

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