第23話、充実した毎日を送る錬金術師。

「ん~~、あさぁ・・・朝食だー♪」


この街に住み着いてから、そこそこの日数が過ぎた。

完全な引き籠り生活は出来ないけど、それでも最近は半引き籠り生活が出来ている。


「毎日美味しい食事が有って、時々気ままに何かを作って、お昼寝して・・・良い毎日・・・」


勿論ライナに怒られない様に、適度にお仕事は貰いに行っている。

酒場にはちょくちょく行くし、ライナにも日々の報告はしてるし、むしろ最近は褒められた。


お仕事も順調で、マスターは最近客が増えて喜んでいるらしい。

そのせいか昼にも酒場に居る人間が増えて、私としては少し困る。


そういえば最近は魔獣の素材じゃなく、討伐の依頼も偶に受ける事がある。

どうせ調合で材料にするからついでの仕事になるし、お肉も要るから割の良い仕事だ。

ただ討伐の時は現地の人の話を聞かなきゃいけない時が有るから、それだけが困るけど。


「この前の蛇は美味しかったな・・・もぐもぐ・・・そのうち使おうと思って置いてる素材、溜まっちゃったし、マスターに譲るのも手かな・・・もぐもぐ」


ただ討伐依頼が増えた事で、少しだけ素材が余ってる。小さな一室には段々収まらない量に。

勿論素材が欲しいという話なら渡しているけど、討伐自体が依頼の時はそういう指定は無い。

だから全部私の好き勝手に使わせて貰っているんだけど、ちょっと保存場所に困っている。


「ただ酒場に行くのは、もう少し後が良いなぁ・・・」


私は学んだんだ。早く仕事を終わらせるから頻繁に外に出なきゃいけないのだと。

最近は報酬を後日渡す、という事が無くなっていた。

その代わりなのか報酬と同時に仕事が渡され、またすぐに人目に晒されないといけなくなる。

そんな日々を過ごしていくうちに、とある事に気が付いた。




期日もっと先なんだから、もう少しゆっくり仕事をすれば良いのでは?




そうすれば外に出る回数も減るし、私も人目に怯える回数が減るじゃないかと。

ただ別に期限ギリギリとかじゃなくて、半分ぐらいの期日には間に合わせている。

本音を言えば限界までのんびりしたいけど、それは流石に罪悪感が募るので出来ない。


そういう風にやりだした最初の頃は、店に来る頻度が減ったが何か有ったのかとマスターに少し心配されたけど、その時は上手く説明出来ずに帰ってしまった。

私の都合で待たせる事が申し訳なくて、でもやっぱり私も少しのんびりしたい。

罪悪感と欲求に揺られ、言葉が出ずに酒場から逃げ出してしまった。


「あれは本当に、ライナが居なかったらどうなってたか・・・もぐもぐ」


後日ライナ経由で私のやり方を聞いたマスターが、納得した様子で迎えてくれて助かった。

確かに少し投げ過ぎていた。こちらも調整するからもう少しゆっくりで良い。

そう言ってくれたので、最近の私は気兼ねなくのんびり仕事が出来ている。


移動用の道具も有るので、移動に日数かかる事も無い。

その分も部屋で引き籠れるので、とても心地いい時間を過ごしている。


「もぐもぐ・・・もしかすると、追い出される前より良い環境かもしれない」


お母さんに叱られる事も無いし、大好きな親友にも会える。

マスターは気遣いの上手い人で仕事がしやすいし、優しい頼りになる門番さんも居る。


そういえば門番さんには最近会う事が増えた気がする。

街中の警邏をしている時や、酒場で顔を合わせる事がちょこちょこある。

私の近況や調子を挨拶と一緒に聞かれるぐらいだけど、彼に話しかけられるのは少し嬉しい。


ただでも、やっぱり、ライナと違ってまだちゃんとお喋り出来ないけど。

優しくて頼りになる人だと解ってはいるんだけど、まだまだ少し緊張してしまう。

でもでも、ちゃんと面と向かってお話出来る貴重な人だ。これからも頑張ろうと思う。


酒場で出会った時は宿まで送ってくれるし、本当に感謝だ。

彼の背に隠れていると、人の目が怖くないから本当に助かる。

なのでこの間お礼にと、お守りに自動発動の結界石をプレゼントしておいた。

持ち主の危機を感じた魔力の流れに反応して、自動で防御してくれるお守りだ。


・・・あれ、私、意外に人付き合い出来る様になってない? なってない!?


「あ、そういえば、二人の名前知らない」


仲良くなったつもりでテンション上がってたけど、即座に落ちてしまった。

名前も聞いてないとか。私は一体何をしているんだろう。


「マ、マスターの名前はライナに聞こう。門番さんの名前は・・・じ、自分で、聞くしか、ないよね・・・いや、大丈夫、きっと大丈夫だ」


取り敢えず気を取り直す為に少し運動して、その後は魔獣討伐で減った道具を補充する。

夜になったらライナのお店に向かい、近況報告と雑談をしつつ食事を食べる。

やっぱりライナの食事は美味しいなぁ・・・ひあわせ・・・。


「そういえばセレス、あれから本当に出会ってないのよね、噂の魔獣と」

「え、う、うん、会ってないよ。門番さんにも言われたから、出会ったらどうにかするつもりだけど。真夜中や早朝に出るって話なら、一回ぐらい会いそうなんだけどなぁ」


ライナの聞く魔獣とは、何時だったかマスターに教えて貰った魔獣の話だ。

あれを教えて貰ったのはもう結構前の話なのに、私は一度もであった事が無い。

話を聞くに私の活動時間帯に出没し、発見時もこの辺りが多いと聞く。

だけど一度も出会った事無いんだよなぁ。


「私も空飛んで移動してるから、見つかりそうなものなんだけど」

「・・・え、待ってセレス、何それ、私聞いてないけど」

「あ、あれ、言ってなかったっけ? け、結構前に空飛ぶ絨毯と高く飛べる靴作ったんだ。この靴が有ると、険しい山道もすっごい楽なんだよ! ただ魔力使うし慣れが要るけど。あと普通に素材探しの間は地道に歩かないといけないから、そこは流石に役に立たないかな」

「・・・せ、セレス、あんたって子は」


あ、あれ? ライナが頭を抱えてる。え、私何か変な事言った?


^------------------------------


あーもうこの子は。この子はもう!

順調にやってると思ったら何してるのこの子は!

ここ最近の魔獣騒動の原因、何でその情報と自分の状況で自分だって気が付かないの!

おかしいでしょ! 気が付くでしょ普通!


・・・いや、落ち着こう。セレスはそういう所ズレているのは解っているんだから。

この子はそういう子だ。うん、落ち着こう。

取り敢えず言うべき事を言って、やるべき事をやるのが優先だ。


「あ、あのね、セレス。少し聞きたいんだけど、最近門は通ってる?」

「へ? と、通ってないよ。空から移動してる。誰とも会わなくて済むし、路地から飛んで山まで行ってる。帰りも暗闇に紛れて帰ってきて、そのまま宿に直行してるけど」


あ、これだ。原因これだわ。最近兵士さんに良く声を掛けられる、って言ってた原因だこれ。

多分セレスが仕事を受けているのに、どうやって受けているのかが解らないからだ。

材料はどこから来てるのか。いつの間に出て行っていつの間に帰って来たのか。

記録や記憶が無いのに結果だけあるから、兵士が調査してるんだ。


これは不味い。早めに対処しないと、セレスがお尋ね者になりかねない。

ああもうこの子、のほほんとした顔で首を傾げて、全然事の重大さに気が付いてないんだから。

どおりで最近うちの食堂にも兵士が来ると思った。

おかしいと思ったのよ、最近いきなり良く来るようになったから。


「セレス、貴女、自分が何やってるか解ってない様だから言うけど、犯罪犯してるからね」

「・・・え、え? え!? な、何で!?」

「あのね、何の為に門が有ると思ってるの。あの門は街の出入りをする為に『通らないといけない門』なのよ。それを飛び越えて、無断で出入りしてたなんて・・・このままだと捕まるわよ」

「うえええええ!? ど、どうしよう、どうしようライナァ!」


どうしようは私が言いたい。ああ、頭痛い。

いや、マスターからの話では、セレスの出した利益は結果的に街を潤してると聞く。

実際街に人が増えて来た様子は有るし、その線でどうにか出来ないだろうか。


セレスはこの街には他に居ない貴重な錬金術師だ。

特殊な薬や道具を卸してなくても、薬師としても街に根付き始めている。

他の街からも頻繁に客が来るようになったと、この間マスターも言っていた。

調査に乗り出している兵士に声をかけ、事情を話してどうにか出来ないだろうか。


多分だけど、現状なら利益を上げている分、まだ何とかなるはずだ。

最悪でもセレスの私財の大半を没収、という程度で許して貰えると思う。

ああでも、もしかしたら魔獣の件も既に疑われてるのかも。

考えれば考える程頭が痛くなって来る。いや、もう仕方ない。やるしかない。


「セレス、明日詰め所に行くよ。例の良く話す兵士さんにその事話すの。私もついて行ってあげるから」

「ふえぇ、お、怒られないかなぁ・・・」

「そこは流石に覚悟しなさい。悪い事したんだから仕方ないの」

「ふえええぇぇぇぇ・・・!」


泣きたいのは私もだよ、セレス。ああもう、手のかかる親友だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る