281・戦乱の空
――フレイアール視点――
僕は地上で繰り広げられている戦いを空で見下ろしながら今の状況を観察していた。
最初はヒューリ王率いるユーラディス軍は母様率いるリーティアス連合軍に対してすごく有利に戦いを進めていた。
特に僕が空でワイバーンや空を飛べる程の力を持った竜人族を抑えていた左翼は、中々攻めあぐねていて……右翼の方は割と拮抗していたかな。
これは多分、フェーシャ王のおかげなんじゃないかと思う。
彼は自分が英猫族だって言ってたし、僕の記憶が正しかったら英猫族は『
それを駆使して威力の高い魔法を連発しているのだろう。
この戦いに関しては、戦争としてはこれ以上ないくらいの活躍を見せてるんじゃないかなと思う。
ユーラディス軍の兵士たちは全員生ける屍――所謂
見ていたらわかったんだけど、あれは生きている……というより、魔法の力で生かされているって考えた方が正しいような気がする。
左胸の核が周囲の魔力の源を吸収して、それが血を送るように魔力を身体中に送ってるように感じる。
媒体が壊れない限り、永遠に復元することが出来るのはそれのおかげだろう。
空中にいるワイバーンが右半身を焼き払われた時、回復魔法で全部元通りになっていたのには本当に驚いた。
あれは本当に左胸に宿っている核をどうにかしないとどうしようもないのだろうと思う。
『どうした? 考え事か?』
僕が少し思考の渦に飲まれていた時、隣で一緒に戦っているレイクラド王が声を掛けてくれた。
『済まぬ。ついあの者たちを見てしまうとな……』
『……世界の理にまつろわぬ兵士。
よもやヒューリ王がこのような非道をしていたとは』
レイクラド王は少し物憂げな表情というか、声音で呟いていた。
だけど、彼の気持ちが少しはわかる。
未だに過去の思い出を引きずって……それに流されてしまうような方だから、今のこの状況が我慢できないんだろう。
僕だって、あんまりいい気分はしない。
このヒューリ王のやってることは、結局現在の否定。未来への拒絶なんだもの。
今を生きている種族が気に入らない。
だから死者を復活させて、生者を同じ世界に引きずり込もうとしてるんだ。
それは絶対に許しちゃいけない。
ヒューリ王が何を考えてこんな事をしてるのかは知らないけど、これは生きてる今の世界への冒涜以外他ならない。
でも……聖黒族の使者がこの国にやってきたって話を聞いて、ヒューリ王も同じ種族だって知って……一概に否定できないんじゃないか? っていう気持ちがあるのもまた事実。
僕が知る限り、聖黒族は大半が自分たちの国と共に自爆して跡形もなく消し飛んでいたはずだ。
だから、死体が残ってるってことは……それはどれだけ他の種族に玩具にされてきたかってことを物語ってるだろう。
精強な男も、気高い女も、全部が壊れるまで弄ばれたことだろう。
彼らからしたら、これは復讐なのかもしれない。
過去のことを忘れ、自分たちを蔑ろにし続けた種族たちに積もった恨みは数しれないだろうと思う。
そんな中で、生き返らせてくれたヒューリ王は彼らからしてみれば、救世主に違いない。
確かに彼らは可哀想だと思う。
母様が酷い目に遭っていたら、きっと僕は怒り狂っていただろう。
だけど……それでも、世界っていうのは今を生きている者たちの為にあるべきなんだ。
例え過去にどんな事が起こったとしても……僕たちがそれこそ凄惨な死に方をしていたとしても、全く関係のない者まで巻き込んでいい理由なんてどこにもないんだ。
だから――
『来たぞ』
『わかっている』
レイクラド王が注意散漫になっている僕を叱るように敵がやってきたことを教えてくれた。
目の前を見ていると、そこにはワイバーンが数十匹に竜人族がその倍以上。
更に竜騎兵……とでも言えばいいのかな? 飛竜に乗った様々な種族の兵士たちが僕たちを倒そうと向かってきている。
っていうか、そんなのの死体まで集めてたなんて……どれだけ用意周到なんだろう。
僕はまず口の方で魔力を溜めて、それを
敵の軍は一斉に散開して、僕の攻撃を回避していたけど、全員が逃げられるわけもなく……何体かは消し炭にすることが出来た。
『ふむ、今までのよりも精鋭を選りすぐってきたか』
『……だが、これでは我らは止められぬ。そうであろう?』
どこか不敵に笑うレイクラド王の言葉に、僕も笑顔で応える。
飛竜が何百匹いようと、ワイバーンが何千匹いようと、今の僕たちは止めることが出来ない。
だって、彼らは今を生き物としての摂理を捻じ曲げ、生にしがみつくために戦ってる。
でも、僕らは未来を信じて、明日の為に戦ってるんだ。
想いの強さが違う。
今から一歩も動けずに立ち止まってるようなのなんかに……常に前へ進み続ける僕たちに勝てるわけがない。
それを今から……証明してあげるよ。
『愚問だ。我の力、亡者共に知らしめてくれよう』
『ならば……征くぞ、我が友よ』
僕たちは二人同時に魔力を練り上げ、互いに競うように高めあい……まずは僕から魔法を発動させる。
『潰れよ! 【マウンテンプレッシャー】!』
空中に出現するのは山が崩落したかのような巨大な岩の塊。
なにも消し飛ばすだけが彼らを葬る方法じゃない。
こうやって核ごと押しつぶせば結局同じことだ。
今、僕たちがいる戦場は空中で激しい争いを繰り広げてる最中で、地上の方は飛び火を恐れて近くから退避している。
だから味方ごと押しつぶす事もないってことだ。
『凍れ……【フリーズコロナ】!』
続けてレイクラド王が放ったのは周囲を凍てつかせる冷たい太陽。
巨大な岩がゆっくりと迫ってきて、空には青く輝く氷の星が周囲に冷気を撒き散らして……まるでこの世の終わりのような光景にさえ思えてくる。
……まあ、今からそれを更に僕が加速させるんだけど。
二つの魔法に警戒しているユーラディス軍に思い知らせてあげるよ。
ここからが僕の真骨頂だってね……!
『【コキュートス・メテオリト】!』
僕は以前レイクラド王がやったのと同じように『マウンテンプレッシャー』と『フリーズコロナ』の魔力を分解して一つに練り上げ……彼の魔法とは違う魔法を生み出した。
練り上げられたそれは、無数の隕石となって降り注いでいく。
それらは一つ一つが恐ろしい冷気を纏っていて、周囲を凍らせながら進んでいってるように見える。
レイクラド王の『メテオーズ・アブソリュート』のように大きな隕石は降ってこなかったけど、それを補ってあまりあるほどの数が空から豪雨のように落ちてくる。
逃げ惑う敵兵の一人がその隕石に当たった瞬間、刹那の時もない内に全身が凍りついて、砕け散ってしまった。
飛竜や一部の竜人族は当たった場所が凍って、そのまま砕け散ってしまう。
これは多分、周囲に撒き散らされてる凄まじい冷気が瞬時に敵を凍らせて、中央の隕石の部分が直後にぶち当たってそれを砕く魔法なんだろう。
なんというか……結構えげつない魔法のように思う。
地面に墜ちてしまったら、後はただ降り注ぐ隕石にその身を晒すことしか出来ないだろう。
とてもじゃないけど、僕も強力な魔法で相殺しないとあっという間にやられかねない。
なんでだろう、僕が作る『
『流石だな。これならば回復する暇を与えること無く撃ち落とす事ができるだろう』
とりあえずレイクラド王の言葉に意味深に頷いておいて、僕たち二人は魔法の効果範囲外からその様子を眺め続けるのだった。
……あんなところに飛び込むような勇気は流石に持ち合わせてないかな。
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