249・竜神との会談

 さて、まず何から聞くか……。

 色々な質問が頭の中を飛び交っていて、なにを最初に聞こうかと悩んでる私を見かねたのか、先に口を開いたのはレイクラド王の方だった。


「お主が一番知りたいのはヒューリ王の情報であろう? 何をそんなに迷っている」

「確かにそうなんだけど……私としてはなんでラスキュス女王が戦争を始めたのか……ということも気になってるのよ。

 初めて会った彼女は、とてもこんな戦争をしそうな人物には見えなかったわ」


 彼女はどこか掴みづらい印象があったけど、少なくともこんな無謀な戦いを仕掛けるような事はしないと思っていた。

 上位魔王のセツキは私から見ても相当強い。


 ラスキュスと戦ったわけではないけれど、少なくとも彼女の国が戦闘種族と言われるほどの鬼族を相手にただで済むとは思わなかったはずだ。

 現に彼女の元にいた契約スライムはほぼ人型の……上位魔王に匹敵するほどの力を持っているスライムたちもこちら側に避難していた。


 なんでリアニット王もラスキュスも私のところに重要そうな人たちばかり集めさせるんだろうか……。

 ある意味狙ってるんじゃないかと思わざるを得ない。


 勝てない可能性を考えてわざわざ戦力を削り、民たちを最初から避難させるなんてことをするラスキュスのことだ。

 尚更、今回の戦争に賛同した理由がわからない。


 それにレイクラド王も……もっと聡明な魔王だと思っていた。

 いくら竜人族が空に対して圧倒的な優位を持っていて、頑強な肉体に豊富な魔力。

 更に熱線ブレスを使いこなす者すらいる……って言っても相手は元上位魔王のマヒュムと現上位魔王のフワロークだ。


 現に彼女は対竜人用の道具を準備していたし、私がフレイアールやアシュルを救援へと向かわせることも十分に考えられたはずだ。

 それを含めてここまでの危険を冒す価値が……果たして今回の戦争にあったのだろうか?


「……我はラスキュス女王とは長年の付き合いであるからな。

 あの者が支援を求めれば、我は断ることはしない。それだけ親密な関係であったと言えるだろう。

 そしてラスキュス女王は……彼女は恐らくヒューリ王が彼に似ていたからであろう」

「彼? 似ている?」


 ついでに自分の理由も教えてくれたレイクラド王だけど……どうにもそこら辺りは嘘くさいっていうか……なにか隠してるような気がする。

 その追求を逃れる為にわざと先に言ってラスキュス女王の情報を引き出してきたようにも見えるけど……仕方ない。ここは乗ってあげよう。


 例え彼の事を聞いても答えてくれるという確証はないんだし、放置しておいたほうがいいだろう。

 それよりもラスキュスとヒューリ王の事についてだ。


「彼、というのはラスキュス女王と契約した聖黒族の魔王の事だ。

 ヒューリ王はその彼の面影を感じることが出来る。

 血を引いてる……ということはありえないだろうがな」

「契約した魔王……」


 それはあの国ごと聖黒族の全員を巻き込んで自滅することを選んだ魔王のことだろう。

 陵辱され、蹂躙されて玩具として惨めに哀れに生き延びることよりも、高潔な魂を宿したまま死ぬことを決断した魔王……そして、ラスキュスだけは生きていて欲しいと願い、国から逃した人でもあったっけか。


 その魔王の面影を感じることが出来るってことは、少なくともレイクラド王はヒューリ王のあの青い鎧の中に隠れていた素顔を見たということで……つまりヒューリ王は……。


「上位魔王に戦争を仕掛け、唯一勝利を収めた最後の国の魔王は……聖黒族、というわけね」

「その通りだ。我もあの者の姿を確認した。艷やかな漆黒の髪に白銀の瞳。

 そして目の前で使われた魔法のことも含めれば、間違いなく聖黒族の魔王だ」

「だからあの時、鎧と兜で顔を隠してたわけね」


 聖黒族というのは非常に珍しい存在で、私だって姿は晒しているけど魔法は出来る限り闇属性のみにしている。黒髪に白銀の目を持つ魔人族は珍しいが確かに存在するということを活かしていると言えるだろう。

 ヒューリ王はそれを鎧と兜で姿を隠していたというわけだ。


「聖黒族であり、仕えていた主に似ている……。ラスキュス女王の感情を激しく揺さぶられただろう。

 そこで持ちかけられた同盟・戦争の提案……そしてヒューリ王の目的が、ラスキュス女王の望んでいた世界の在り方に似ていた。

 ……手を組むには、十分な理由となるだろう」

「ラスキュス女王の望んでいた世界?」


 なんだか質問ばかりしているような気がするけど、それだけ私はあのスライムの女王の事を知らない……そう言えるだろう。

 会ったのは『夜会』の時と初めてスロウデルに向かった時だけだし、仕方ないと言えるけれどね。


「彼女は前々から聖黒族が……あの魔王が死を選んだことを悔やんでいた。

 もし力があれば、そう思うこともあったろう。

 彼女は『聖黒族が普通に暮らせる世界』を誰よりも望んでいた。

 それを叶えるには……今ある種族全てを滅ぼしても足りないだろうがな」


 言い終えたレイクラド王は深い、深いため息を付いていた。

 確かにその望みを叶えるには、相当な努力と血の道を行くことになるだろう。

 本来なら叶うことのない道……それを目指そうと決めたのはヒューリ王の存在というわけだ。


 彼は恐らく『聖黒族が暮らせる世界』とかはどうでもいいのだと思う。

 そもそも現存二人しかいない聖黒族のためにわざわざ自分の正体を明かすとは思えない。


「ということはヒューリ王の目的は……『全ての種族を滅ぼすこと』にでもあるっていうの?

 馬鹿らしい。そんなことしてたらいくら時間があっても足りないわよ」

「いや、ヒューリ王の目的は『今ある国全てを取り込む』ことだ。

 自分より強い可能性のある魔王を殺し、国を制圧すれば後はやりたい放題だからな」


 レイクラド王は私の結論を否定するけど、それもまた馬鹿げている。

 だからこそラスキュスもレイクラド王も周囲の国々を攻め落として取り込みながら上位魔王の国を目指していたんだろうけど、それこそ察知されたら小国同士が組んで粘られるはずだ。

 いくら大国とはいえ、疲弊した国が他の国に万全の状態で戦いを挑まれたら打ち倒される可能性だってあるはずなのに……。


「レイクラド王はその事について……どう見てるの?」

「……正直、我らはわからぬと言ってもいいだろう。

 我もラスキュス女王も、大半が自分の想いで動いていた。

 だからこそ国にはすぐさま降伏するように促すこと、ラスキュス女王のように民を別の国に避難させるという手もとった。しかし……」


 最初から出来ない可能性を念頭に置いてるからこそ、レイクラド王は彼と契約スライムのライドムが倒れてすぐ降伏するようにしていたし、ラスキュスは先に国民を避難させていた……というわけだ。


 逆にヒューリ王はそういうことは一切していない。彼は出来ない可能性なんて考えてないんだろう。

 ある意味国全体で事に当ってることが厄介だ。


「本当に、知らないのね?」

「うむ。負けた以上、我もここで嘘を口にしても仕方がないからな」


 その通りだ。

 ここで嘘をついても何の意味もないし、信用するもなにもないだろう。


「そうね。よくわかったわ」


 今回ここにレイクラド王を呼んで良かった。

 ヒューリ王の素性。ラスキュスとレイクラド王が彼に賛同し、戦争に参加した理由も知れた。

 逆にわからないことも出てきたけど、後はこっちの仕事ということだろう。


 ヒューリ王の目的が『全ての国を支配すること』であるならば、私との衝突は避けられないだろうし、それまでは出来るだけのことをやるだけだ。

 相手が何であれ、私は負けない。


 ――この国の魔王である限り、決して。

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