239・強くてかっこいい竜人の王

 迫り来る『メテオーズ・アブソリュート』によって生み出された僕の身体よりもずっと大きくて冷たい氷の隕石は、押し潰そうとしているかのように子どもの隕石と一緒に落下してくる。


 生半可な魔法じゃこれを弾き返すことなんて無理だろうね。

 多分『マウンテンプレッシャー』よりももっと強力な魔法が必要になってくる。


 そんなことを魔力を丹念に練り上げながら考えてた。

 ちなみにレイクラド王は自分の魔法の射程外にいて、巻き添えを喰らわないようにしている。


 その上で僕が確実に死ぬまで安心出来ないんだろうか、他のことには一切目を向けずに黙ってこっちを見ていた。


 最初は逃げないように時折熱線ブレスを放ってきたけど、今はもうそんなことなかった。

 ただの傍観者。だけど……僕があれを防いだらいつでもその牙を剥けるようにじっくりと研ぎ澄ませながら

 見守っている、そんな感じだ。


 ――いいよ、僕を倒せるって思うんだったら、やってみなよ。

 僕は母様の期待に必ず応える。ラスガンデッドもエンドラッツェも救ってみせるし、必ず生きて帰る。


 君たちとはね、想いの強さが違うんだよ――!


『我が眼前に立ち塞がりし、全ての愚かなる者よ。――滅びよ。

 我が威光、あまねく貴様らに知らしめてくれる! 【カオティック・イグニッションロア】!』


 まるで歌うように高らかに口上を述べ、最大限にまで高めた魔力の全てをこの世界に顕現させる。

 僕の身体の周囲を回るように赤と黒の球体が交互に現出していく。


 その中央。僕の正面にそれら全てが力を送るように炎と闇の力が流れ込んでいって、一つの巨大な魔力の塊を創り上げていく。

 作る――そんな単純な言葉では済まさない新たな『創造』。


 今僕の目の前には混沌とした赤と黒が混ざり合って……炎は闇の力を得た。

 僕もその時を待つ。この魔法が示す通り――混沌の力に点火する時を。


 レイクラド王は警戒するように槍を構え、僕と距離を取っていて……やがてその時はやってきた。


【グルルルオオオオオォォォォォォォ!!!!】


 産まれた。そこにいたのは一匹の巨大な闇色の炎竜。

 これが……僕の魔法『カオティック・イグニッションロア』……。


 まるでこの世に生まれいでたことに対し、心底感謝をするかのように、魔法の竜は雄々しく咆哮を上げる。

 言うなれば『誕生の咆哮バース・ロア』とでも言えばいいのかな?


 あの魔法竜の咆哮一つで僕の周囲にあった氷の隕石群は次々に砕け散っていて、空気が震えるほどだった。


 ――うわー、なんだかすんごいのが産まれてきちゃったなー。


 大地に被害が及ばない上空だから、掛け値なしの僕の全力を注いだと言ってもいい……んだけど、まさかここまでになるなんて思いもしなかったよ。

 あ、でもまあいいよね? だって今回は大地が水晶化するわけじゃないし、フワローク女王にもマヒュム王にも、迷惑かかってないし……母様もきっと許してくれるよね!


『征け! 我が魔力で顕現せし、力宿し竜よ!』

【グルゴアアアアアアァァァァァァ!!】


 僕の言うことが聞こえているようで、まっすぐ魔法竜は『メテオーズ・アブソリュート』で生み出された星をも砕く巨大隕石に向かって咆哮しながらその細長い身体をゆらゆらと上下に動かしながらレイクラド王が突撃してきた時よりもずっと速い動きで迫っていって――その瞬間、世界が震えた。


 轟音。世界の全てを搔き消すような衝撃。

 あまりのことに僕ですらまともに空を飛び続けることができず、歯を食いしばりながらなんとか体勢を整えようとするんだけど……ようやくまともな体勢が取れたときには大分離されてしまっていた。


 ああ、びっくりしたぁ……。

 いくらなんでもこんな衝撃が飛んでくるとは思っても見なかったよ。


 改めて周囲の様子を見てみると、空中ではすごく悲惨なことが起こっている。

 黒炎が氷の隕石とぶつかって火の粉を撒き散らしながらごおごお……というよりガオンガオンって音が響き渡ってくる。


【ガルグルウウウ……ゴオオアアアアア!!!】


 魔法竜の最後の咆哮。その瞬間――再度轟音が響き渡って、僕の視界が大半が黒く燃え上がって……氷の隕石を飲み込んでしまった。


「ま、まさか……単体での『フュージョンマジック』だと……?」


 魔法竜も氷の隕石も、何もかもきれいに消え去って……残ったのは本当に晴れ渡るきれいな空。

 レイクラド王……惚けるのはいいけどさ、その隙を僕が許すとでも思ってるのかな?


『【フリーズコロナ】……【バニシングレイ】!』


 さあ、今度は僕の番だ。

 氷の太陽をこの世界に再度顕現させた僕は更に魔力を漲らせてもう一つ――太陽の周りに回る他の星のように輝く光の球が出現して……明確な敵意の元、その光球は周囲に星屑のようなキラキラと光る小さな玉が撒き散らされて……レイクラド王に幾つもの光の線が撃ち出していく。


 その光の線は途中で完全に消えて――いや、薄くは見えるよう。

 だけど……僕のように観察する余裕のないレイクラド王がどうかな?


「くっ……『シールドコール』!」


 レイクラド王は危険を察知したのか、魔力の盾を張る魔法を使ってるけど、この冷気と重力……そして光の線。

 二つの魔法が襲いかかるのに、彼は耐えきれるかな?


「くっ、うううぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 盾で防げない角度で襲いかかる光の線は、レイクラド王を容易く貫いて、血飛沫どころかそれら全部を消し去っていく。

 それを苦悶の表情を浮かべながら耐えているレイクラド王の姿を見て、改めて思った。


 ――不利な状況の中にいてもなお、諦めていない。この人は本当に、強くてかっこいい……王の中の王なんだ。


 引き寄せられながらも懸命に防御するレイクラド王の為に、僕はトドメの一撃を与えてあげることにした。

 一気に下降して彼を見上げる。


 僕の本気の一撃。魔力を練り上げ、圧縮し、凝縮し、濃縮させる。

 純粋な破壊の力。何も残さず、あらゆる全てを、消し飛ばす――!


『コオオオオォォォォォォ――……』


 魔力が僕の眼前で綿密に濃密に稠密に合わさって……それを解き放つ。

 光のように透き通っているようで、白く輝いているような光がレイクラド王にまっすぐ向かっていって――。


 ――その瞬間、ゾクリと悪寒が走った。


 レイクラド王は獰猛な笑みを浮かべていて……その瞳は諦めるとか、死を覚悟したとかいう殊勝なものなんかじゃなかった。


「『クイック』!」


 魔力の盾で身を縮めて守りを固めていたレイクラド王は一転して加速し、素早く棒の魔法の射程から離脱する。

 ……まだそれだけの事を――!


「……どうやら今のままでは我はお主に勝てぬようだな」

『ほう、実力の差を理解するか……ならばどうする? ここで白旗でも上げるか?』

「ククク……クックックッ……ハァーッハッハッハッ!!」


 僕の問いかけに心底おかしいというように笑ってくるもんだから、思わずムッとした表情で僕はレイクラド王を睨む。

『すまんな』と一声かけてくれてはいたけど、すまんとかいう問題じゃない。


「言ったであろう? 『今のままでは』と。

 我も……全力を持ってお主を殺す。ゆくぞ……『竜神・封身解放』!」


 レイクラド王が魔法を使ったと同時に、光の繭のようなものに包まれて……その姿が徐々に大きくなっていく。


 やがてそれは羽化するようにひびが入って――現れたのは一体の巨大な竜。

 淡い緑色の全身に金色の目をしていて、その顔はとても威厳に満ち溢れていて……僕と同じくらい大きな竜だった。


 やっぱりまだそんな切り札を隠し持っていたなんてね。

 いいよ、こうなったらとことんまでやってあげようじゃないか。

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