238・黒い球は鬱陶しい

 ――フレイアール視点――


 どうにか僕はラスガンデッドの……ええと、そう! フワローク女王とマヒュム王が無事なのを確認することが出来た。

 それにしても危なかったー。あの、レイクラド王がもう少しで二人を殺すところだったんだもん。


 僕に気付いたレイクラド王は、そのまま槍を構えて僕の方に突撃を仕掛けてきた。

 なるほど。僕の事を放っておいたら竜人族が蹂躙されるとでも思ったのかな?


 でも残念。もう遅いよ。


『【サウザンド・ランス】!!』


 繰り出されるのは魔力によって象られた千の槍。

 その全てをワイバーンに乗っている者。竜化して自力で空を飛んでいる者。地上で戦っている者。

 千で捉えられる限りの竜人族に狙いを着けて……一気に解き放ってあげた。


『【サウザンド・ランス】!』


 それをもう一度、更にもう一度……レイクラド王が僕に対して熱線ブレスを放つけれど、そんなひょろいものが僕に当たるとでも思っているのかな?


 ひょいっと空中で弧を描くように避けてあげると、続けざまに『サウザンド・ランス』で次々と千単位で竜人族を串刺しにしてやる。


 槍……と言っても普通の突撃槍の二倍近い大きさの物体が雨となって次々と降り注いでいっているんだ。

 どんな種族であれ、ただの兵士から逸脱することが出来なければ、僕の練り上げた魔力の槍に貫かれて無事じゃ済まないだろうね。


「この世最後の始竜が……一体でここまでの死を振りまくかっ」


 僕の近くでぶんぶん飛び回ってるレイクラド王は光よりは遅いけど、矢よりはずっと速い――程度速さで僕の首を頭を……致命傷になりそうなところを狙い突撃を仕掛けてきている。


 うーん……正直胴体を狙ったほうがまだ可能性があるんじゃないかな?

 いくら速いって言っても、僕の目では十分に彼の姿を捉えることが出来ている。

 だったらレイクラド王の相手なんてしてる場合じゃないよね。


 母様に言われたのは親睦を深めているラスガンデッドとその近くにある……えっと、エン……そう! エンドラッツェだ!

 その二国を助けるようにって言われてるんだもん。


 それなら僕が今すべきことは侵攻してきている国の魔王を倒す……んじゃなくて被害を与えている兵士たちの排除だと思うんだ。


 確かにレイクラド王を倒したら軍は混乱するかも知れない。

 だけど、もしそうならなかったら? 僕の役目は二国を救援であって、レイクラド王を倒すことじゃない。

 僕は別に強い相手と戦う事にこれっぽちも興味はないしね。


 それよりも面倒なのはあの黒い球体かなぁ……。

 ドワーフの筋肉ムキムキの、ちょっと暑苦しい男が上空に何か丸い物を放り投げると、風……の魔法か何かが発動して一気に上空に飛び出して……最終的に大きくて黒い球体が解き放たれる。


 あれに触れたワイバーンは球体の中央――核に徐々に引きずり込まれて、少しずつ圧縮されているように見えた。

 多分、重力を操る魔法の類で、中央に向かって引き寄せられるように作られてるんだろう。


 おまけに近くを通っただけで軽くそっちに引っ張られるような感覚がするんだから始末が悪いよね。

 僕って、この状態だとすごく身体が大きいから色んな所からこっちにおいでって言われているように錯覚しそうな程だよ。


 まあ、近寄っても僕なら……ああ、多分レイクラド王も、だけど影響はそれぐらいだと思うから問題ないんだけどねー。


 それに彼は僕よりもずっと小さいから小回りが効くし、その威力は――。


「おのれ……あくまで我を無視するか。それならば……『フリーズコロナ』!」


 冷たい太陽が僕の眼前に具現化して、周囲に異常な冷気を振りまいていく。

 だけどこれは……『フリーズコロナ』は失われた魔法のはず……。

 なんでそれをこの男が使えるんだろう?


「ふっ、それだけ意外だったか? これは我らが竜人族の魔王が代々伝えてきた我らの源初たる始竜の魔法だ。

 お主だけが使える魔法ではない!」


 ……なるほど。

 僕と同じ魔法が使える存在なんて初めて出会ったよ。

『フリーズコロナ』は敵対者を徐々に引き付けていく魔法。


 エルフ族の契約スライムとの戦いのときはあいつがその対象だったけど、今使ってるのはレイクラド王……つまり対象はこの僕、というわけだ。


 いくら僕が強いからって、この『フリーズコロナ』の力からは逃れられない。

 徐々に引き寄せられる僕の身体に冷たいなんて簡単に言い表すのもおこがましい程の暴力的な冷気に包まれていく。


『ふん、なるほど……どうしても我と遊びたいか……よかろう。

 ならば……お前からその魂を刈り取ってくれるわ!』


 どうやら、レイクラド王とは戦わないといけないみたいだね。

 誰かと強さを競うなんてあまり必要な行為には思えない。


 だけど母様が僕に命じてくれた事を妨害しようというのだったら……誰であっても容赦はしない。

 例えそれが……僕と同じ魔法を使う同類だったとしてもね!


『崩落せよ! 【マウンテンプレッシャー】!』


 巨大な土の塊が『フリーズコロナ』と衝突して、土とか冷気とか氷とか……色んなものを撒き散らしながら互角のぶつかり合いを見せている。


 魔力と魔力のぶつかり合いを繰り広げている二つの魔法にレイクラド王は近寄って――まさか、それも使えるっていうの……?


 本当にあのときの再現と言っていいこの戦い……しかも僕がやられてる側って……とことんやってくれるじゃないか。


 僕が見誤っていたよ。

 レイクラド王くらいなら障害にならないって思ってた。

 だけど、母様が僕に任せてくれた救援をなす為に必要なことは……彼を倒す必要が出てきた。


 多分、彼一人でも十分にこの砦を落として二国を制圧することが出来る。

 それだけの実力があるって判断したよ。


『マウンテンプレッシャー』と『フリーズコロナ』を分解するように魔力を練り上げ、レイクラド王はこの世に新しい魔法を作り出す。


「『メテオーズ・アブソリュート』!!」


 重力を宿した冷たい太陽は核を土……岩のようなものに変えて、一つの巨大な隕石と周囲に無数の隕石を従えるようになって僕の方に降り注いでくる。

 その全てが恐ろしいほどの冷気を秘めていてる。


 正直『フリーズコロナ』なんか比じゃないくらい冷たい。

 寒いっていうか極寒よりなお酷いところにいるみたいで、凍えるというより冷たさで痛い。


 それが一斉に僕の方に向かってきてるのはいいんだけど、これって彼の軍にも直撃するんじゃないかな?

 すごく寒くてちょっと動きが鈍ってきた。

 対するレイクラド王は物凄く元気で、雨のように降り注いてくる氷の岩の塊は、とてもじゃないけど僕の図体じゃ回避することはむずか――いや、出来ないかな。


 一度熱線ブレスを吐いてみたんだけど……この恐ろしい冷たさの中、熱量がどんどん奪われていって……『メテオーズ・アブソリュート』で喚び出された隕石の一つに当たる頃には最初の半分もない威力しか無くなっていた。


 自分で喚び出された魔法が元になってるとはいってもちょっと強力すぎるんじゃないかな?

 だから嫌なんだよね……この自分と相手の魔法を混ぜ合わせて新しい魔法を生み出す魔法――『フュージョンマジック』は。


 発動するときは魔法名が違うけど、前に僕が使ったのも今レイクラド王が使ったのも根っこは同じ……なんだよね。

 素材となる魔法が強力なほど、真価を発揮するものなんだけど……ちょっとこれは不味いかも知れないね。


『は、ははっ……よもや我が秘技を扱うとはな……』

「我を見くびったこと……後悔させてくれるわ」

『ふん、たかだかこれだけで我を降した気でいるとは……その驕り、正してくれるわ』


 確かにレイクラド王が今使っている魔法は強力だ。

 降り注いでいく隕石は、地表に衝突する前に消えてるから変に回避行動を取る必要がないのはありがたいけど……いい加減に痛いんだよね。


 僕にぶつかる隕石の雨は身体を抉って、出血してすぐ凍らせてくれる。

 本命である氷の隕石が徐々に降下してくるのを見届けながら、冷静にそれを見据え――壊す為の魔法を練り上げ……解き放つ。


 上空なら、何の枷も、ないからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る