208・魔王様、戦力を整える
アシュルを通して宣戦布告をした私は、まず攻める為の戦力をかき集めることに終始することになった。
と言っても、あくまでリーティアスの戦力だけだ。
私が――というより、私を信頼している者達を集めなければ今回の作戦は成功しない。
フェリベル王にはあそこで啖呵を切ったけど、『極光の一閃』はかなりの威力だ。
しかもパーラスタからセツオウカまでの超遠距離攻撃が出来る……まるで魔導のような恐ろしい武器。
下手をすれば進軍している最中にリーティアスを狙い撃ちにされてヤカサカの二の舞……いや、恐らくリーティアスという国自体を失うことになってしまうだろう。
そうならないように、手を打つのだ。
私の国を守る為に。
「ティファリス様、ここにおられましたかミャ」
「ケットシー、準備はどう?」
私の部屋を訪ねてきたケットシーは色々と書類を持って忙しそうに入ってきた。
この子にも随分色々な仕事を押し付けてしまっている。
今度ゆっくりと休暇を取らせてあげないといけないだろう。
「大丈夫ですミャ。
ティファリス様が事前に情報を教えてくれたおかげで、大分準備は整いましたミャ」
「そう、兵力は?」
「戦力はおよそ五万程度ですミャ。
防衛力も二万程度残しておりますミャ」
そう聞くとここも随分と大所帯になったものだと改めて感じる。
前は500人くらいでエルガルムと戦ったんだからね。
妙に懐かしい気持ちになりながら、私は詳しい話を聞いていく。
「ワイバーン・フレイアールで戦力をある程度運ばせて、パーラスタ付近で陣を張る……それで良いですかミャ?」
「ええ。先にアイテム袋を持ったアシュル・カヅキと魔力の高い者を向かわせて。
向こうでは敵軍も待ち構えてる可能性が高いし、ワイバーン達を使う以上、見つかることは避けては通れないでしょう。
ならばこそ、最大戦力をまず向かわせる」
「はいですミャ。そちらの方も準備しておりますミャ。
ですが……本当にティファリス様は行かないのですかミャ?」
疑問そうに小首を傾げるケットシーはどこか可愛らしい。
だけど、これは今回私が決めたことだ。
自分の意思でこの国に残ると選択した。そうしなければリーティアスは守れないだろう。
「私がこの国を留守にしたら、フェリベル王はすぐに『極光の一閃』を使って全てを消し飛ばすでしょう。
そうならないように私はここに留まる必要があるのよ」
フェリベル王には教えてやらなければならない。
自慢そうに新しい玩具を振り回していい気になっている間は、まだ大人になりきれていない子どもでしか過ぎないのだと。
彼の戦いを徹底的に否定して、フラフを救う……そのためには私はここを動いてはいけない。
「でも……それだとどうしても士気に関わってしまいますミャ。
今ティファリスのところに集まってる兵たちは少なからず貴女様に惹かれて集まった者たちですミャ。
中にはカヅキさんやアシュルさんを慕っている者もいますが……」
「わかってる。だからこそ、パーラスタに行く前に激励をかけるのよ。
ここで出来るだけ鼓舞して、そのままの勢いで押し切らせる。
ケットシー、私にはそれが出来るだけの力があるわ」
真摯な視線で彼女を見つめると、ごくりと喉をならして若干気圧された様子のケットシーは深く頷いた。
「わ、わかりましたミャ。
明日から徐々にパーラスタに戦力を送り込むことになりますミャ。
まずは先に向かう兵士たちにティファリス様のお声を……」
「わかってる。私が直接指揮を取るわけじゃないんだから……せめて出来るだけ皆には言葉を伝えるようにする」
「はいですミャ。それで現場の指揮は……カヅキさんでよろしいのですかミャ」
「ええ、彼女に前線での指揮を務めてもらうわ。
ただ、アシュルとフレイアールにはその枠外にいてもらうことになるだろうけど」
アシュルとフレイアールがカヅキの言うことを聞くとは到底思えない。
それなら最初から指揮の外にいさせた方がいいと判断したというわけだ。
だったらアシュルに指揮を……と思う部分もあるけど、彼女はそっちの方面には全く向いていない。
恐らく皆無と言ってもいいだろう。
だったら最初からカヅキに担当させて、アシュルには存分に暴れまわって欲しい。
今の彼女であれば、どんな大軍が襲ってきても問題ないだろうからね。
それからしばらくの間、私はケットシーと一緒に色々と作戦を練っていると、扉を叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
私が声を掛けると、扉を開けて出てきたのは……なんとベリルちゃんだった。
「ベリルちゃん? どうしたの?」
「あ、あのね……」
言おうかどうしようかと悩んでいるようだけど、あいにく今の私にベリルちゃんと話す時間はあまりない。
ケットシーとの話の真っ最中だったわけだし、特に重要な用事がないのだったら後にして欲しいのだけれど……。
「今、ちょっと立て込んでるから出来れば後にして――」
「あの! わたしもパーラスタに連れて行ってほしいの!
ティファちゃんの役に立ちたくて……」
驚いた。
いくら私の為とはいえ、パーラスタの魔王はベリルちゃんの実の兄。
とてもじゃないけど、本気で戦えないだろうと思っていたのに……。
私は真剣な目つきでベリルちゃんをまっすぐに見つめる。
「ベリルちゃん。今から戦いに行くのはパーラスタ……貴女のお兄様が治める国なのよ?
そんな国に本気になって戦えるの?」
「戦えるよ。わたしにはティファちゃんが第一だから。
貴女が一番大切。貴女を傷つけようとする人は……たとえお兄様でも許さない」
その表情から、私はベリルちゃんなら本当に……間違いなくフェリベル王を倒す。
彼女は心底そう思っているのだろう。
その目はとても冷たい――薄暗い闇の中にすらいるような気がするほどだった。
「わかったわ。
ベリルちゃんははアシュルやフレイアールと同様、指揮の外で戦ってもらうことになるけど、いいわね?」
「うん。わたしもフェリベル――上位魔王の片割れだから。部下とかそういうのは要らないからね」
「わかったわ。そう言ってくれて助かる」
私の了承を引き出せたのが嬉しかったのか、さっきまでの冷たい視線は嘘のように、いつもの優しい光を宿した目をしていた。
「ティファちゃん、ありがとう。
わたし、頑張るからね」
「ええ、頼りにしてるわ」
「……ティファちゃんは、わたしが必ず守るから」
それだけ言って、ベリルちゃんは部屋から出ていってしまった。
呆然としていたケットシーが、怪訝そうに私に問いかけてくる。
「……よろしかったですかミャ?
あまり言いたくないですけど……彼女はエルフ族ですミャ」
「だからよ。同種族を――家族を手に掛けるとはっきりとあの子は言ったわ。
だから信用した。彼女のあの目と決意を、ね」
ケットシーに私の伝えたいことが多少伝わったのか、仕方がないといった感じのため息を一度ついた。
「わかりましたですミャ。
彼女はアシュルさんと一緒に向かわせる形でよろしいですかミャ?」
「ええ、それで構わないわ」
ベリルちゃんはきっと頼りになる。
だけど……兄と妹で戦わせるのが本当に正しいことなのか……それは私にもわからない。
その日はそのまま、ケットシーやフェンルウと話をしたり、訓練場の兵士たちの様子を確認しながらカヅキと話をしたり……。
やることは色々あったが、ひとつずつこなしていくうちにあっという間に時間が過ぎていって……。
次の日。
とうとう私達がパーラスタに攻め入る日となった。
そこで私は先攻する兵士たち全員に激励をして、彼らを旅立たせる。
それを見送りながら……必ずこの戦い、勝利してみせると改めて決意するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます