116・魔王様、集まる
セツキが来訪してからしばらく、私はスケジュールを考えながら仕事に応対にと大忙し。
アクアウォルフの肉をごちそうしてくれてから二~三日で帰ってくれたのは助かったかも知れない。
次の月に南西地域の魔王全員で話し合いすることも伝えていたし、ちゃんとそこのところを汲み取ってくれた結果なのかも知れないけど。
セツキが帰った後はカヅキやリカルデ達と今後の軍事訓練について話し合い、兵士たちの考えをより理解できるように時たま訓練場に遊びに行ったりもした。
カヅキが私が来たことに喜んだのか、やたらと気合を入れた指導をして兵士たちを困らせたり、悩みや相談事を聞くことになったり……。
住民達との交流に重点を置いた12の月ルスピラの前半と違い、後半は兵士達との交流に重きを置くことに。おかげでオークやゴブリン族達は以前より連携が取れてるように思う。
そうしていつの間にか時は過ぎ、1の月ガネラに差し掛かる。
ビアティグに指定した月……私を含めた六人の魔王が、フェアシュリーで一堂に会する日になるのであった。
――
――フェアシュリー・ジュライム アストゥの城――
ここに来るのもいつぶり……って
他の国の魔王達の移動なども考えてフェアシュリーに集合といったことになったのだ。
私としてもそれに不満はない。というか私の国はケルトシル・アールガルムの二国以外とは遠いわけだし、大体中心に近いフェアシュリーに集合するというのは妥当だろう。
それにしても――
「久しぶりにラントルオで移動ということになると、暇を持て余し気味になるわね。もう少し速度が欲しくなってくるわ」
「ティファさま、それはスピード狂のような発言ですよ?」
アシュルが呆れたような顔でこっちを見ているが、仕方がないだろう。
ほんの少しの期間ワイバーンに乗っただけだったのだが、グルムガンドに行って帰ってくるだけで二日ぐらいで済む。
ラントルオだとその十倍かかるし、恋しくなるのも仕方のないことと言える。
無駄な障害物もない。風魔法で風による抵抗を感じず、常に最良の状態で飛行する。
そして速さもスタミナもラントルオ以上ときたもんだ。魔法のおかげで私達乗り手の方も心地よい程度の風が伝わってくるぐらいの配慮もしてくれるし、知能の高い魔物の凄さを垣間見たほどだった。
「フレイアールが育ってくれればまた同じように感じる事が出来ますよ」
「そうね。あの子の成長は本当に楽しみにしてるわ」
今回、フレイアールはディトリアでお留守番だ。
流石に魔王達の会合に連れて行くのはまずいだろうと判断したのだ。
その事を告げた時には相当寂しそうな声をあげていたが、あまり甘やかしすぎるのもよろしくない。
そういうわけでなんとか納得させて今現在ここに居るのだ。
ちょうど鳥車を停車して、ニンベルが迎えに来たというわけだ。
「ティファリス女王様、お久しぶりです」
「ニンベル、久しぶりね」
前回ここに来た時はニンベルは別の場所にいたようで結局会うことはなかった。
相変わらず上品な人……というか妖精だ。正直、アストゥよりもニンベルの方が女王と呼ばれてもなんら違和感ないくらい。
「ティファさま、この方は……?」
「アシュルは会ったことなかったわね。彼女はニンベル。アストゥのお付きの妖精族よ」
「よろしくお願いします」
やんわりと微笑むニンベルは、本当に大人の雰囲気というか……とても私達では真似できない様子だ。
アシュルの方も好感を得たようで、嬉しそうしているようだった。
「他の魔王様方は既に揃われていますので、ご案内しますね」
「お願いするわ」
どうやらもう全員揃っているようだ。
前回は私が一番最初に来たと思ったんだが、それだけでこの会談に重きを置いているというわけか。
ということは私の方もそうのんびりしている暇はないだろう。あまり待たせすぎるのもいけないしね。
――
ニンベルに案内され久しぶりに通された会議室には
アールガルムのジークロンド。
ケルトシルのフェーシャ。
フェアシュリーのアストゥ。
クルルシェンドのフォイル。
そしてグルムガンドのビアティグと……南西魔王勢揃いといった様子だ。
本当はアストゥとフォイルだけの予定だったのだけれども、なにせビアティグが――魔王が三度、それぞれが違う方法で操られたのだ。
こちらもより密な関係になるべきであり、今回明らかになった悪魔族の話を全員で共有していくということで私が呼びかけ、集まってもらったのだ。
と言っても開催場所はフェアシュリーだから関係者以外から見ればアストゥが呼びかけたように見えるだろう。
私が来た途端、一斉に全員がこっちを見てくる。
嬉しそうだったり、尊敬するような視線だったり……ビアティグの方は相当情けない顔をしている。
だけどそれも仕方のないことだろう。
帰ってきた直後からずっと操られていたそうだけど、あんな風に反エルフ・魔人族派の連中が城の中をはびこっていた所からすると相当長い期間になる。
フェアシュリー・クルルシェンドの使者にも手荒いことをした上に、私をあれだけ冒涜した使者……ああ、今思い出した。
ライオン――確かレウンと言ったか。あいつを消し飛ばした時に近くにあったあの袋、あれが私のことを侮辱してきた使者が詰まった袋だったはずだ。
というか王の間にあんな薄汚い袋があること自体考えられない。
意図せずして私は制裁を加えていたわけか……まあ、別に良いか。
グルムガンドとこれから付き合うことを考えたら、あんな男みたいなのが平気でのさばってることを許すつもりはない。
遅かれ早かれ消える運命だったんなら、苦痛なくいなくなることが出来てむしろ良かったと言ったところだろう。
とにかく、そんな馬鹿共が色々とやらかした後始末をビアティグはしなければならないのだ。
さぞかし居心地が悪いだろう。それを甘んじて受けるような諦めの表情を浮かべてはいたが、私の顔を見て更に情けない顔をしていた。
正直言って、以前のような覇気がない。一番最初にフェアシュリーで出会った頃の男とは思えないほど見る影もない状態だ。
「ティファリス女王、こんにちはですニャ」
「ええ、元気そうでなによりね」
一番最初に私に声を懸けてきたのはやはりフェーシャだった。
なんというか、ここで物怖じせずに普通に「こんにちは」とか言えるのは流石フェーシャだと言えるだろう。
若干緩い感じだけど、それだけリラックスしてるということだろう。
私が言うのもなんだけど、これだけゆったりと構える事ができるこの子は、きっと南西魔王の中で一番の大物になる素質を秘めているんじゃないかと思う。
「ティファリス女王、久しぶりだな」
「そうね。いつぶりかしら?」
「ヌシがフェアシュリーに会合行ったきりだ。あの時はまさかここまでの器だとは思わなんだ。また随分と成長したな」
「……ありがとう」
そんなお爺さんが孫の成長ぶりを見て「大きくなったなぁ……」みたいな風に感慨深げにしみじみと呟かないで欲しい。
私は貴方の孫娘ですかと言いたくなる気分を押し殺してとりあえず一言だけなんとか絞り出す。
「ティファリスちゃん、あの時は本当にありがとう! フェリアも喜んでたよ」
「それは良かった。こっちもフラフとウルフェンが世話になったからね。あの二人、あれから迷惑かけてなかった?」
「ううん、二人ともとてもいい子だったよ! 楽しんでいるようだったしね」
だったら良かった。二人がそんなことするとも思えないけど、一応聞いておきたかったのだ。
私としても二人がどんな風にここで過ごしてきたのかちょっと知りたかったのだ。
「ティファリス女王、あの時はどうもです」
「フォイル、あれからどう? ドワーフ族のガンフェット王はなにか言ってきてる?」
「いいえ、良好です。おかげさまでこっちとも貿易してくれるようなりましたし、順調ですよ」
「セルデルセルは?」
「あそこはロマンが優秀なんで、尚更問題ないですわ。ただ、性癖アピールがちょっと、なぁ……」
あはは、と乾いた笑いを浮かべていたけどそれはもう仕方のないことだと言えるだろう。
確か永遠に老いることのない少女である聖黒族に仕えることを夢に見ているとか……既に叶っているんだけどわざわざ自ら言う必要もない。
自分で罠を踏むような自殺行為をするほどの変人でもないし、ロマンやディアレイのような変態とも違うんだから。
生粋の変態だけど、その手腕は確かだから困る。出来る変態ってのはその存在だけで扱いに悩まされるものだけど、そこのところはフォイルに任せるしかないだろう。
「ティファリス女王……」
「……情けない声あげないでしっかりしなさい。貴方の友人はどう?」
「あ、ああ……無事見つけることが出来た。腕輪の方も魔法医の光魔法をかけながらだと外すことが出来た。ティファリス女王のおかげだ」
最後に声をあげたのは居辛そうにしているビアティグ。
ルブリスの方はなんとかなったようでなによりだ。それに光魔法で外せるということは少なくとも外からの抵抗力はそんなに強くないのだろう。
いざとなれば光属性の魔法・魔導で『隷属の腕輪』を解呪することも十分可能だということを教えてくれただけ儲けものだったと言える。
私がふと視線を向けた時に似たような虎の獣人の男が頭を下げて感謝しているようだった。
多分、彼が件のルブリスなんだろう。ビアティグと似たような白い虎の種族だけど、彼のほうがより端正というか……男前の顔つきをしているように見える。
少なくとも今のビアティグよりはずっと男の顔だろう。
さて、一通り魔王達とも挨拶したし、そろそろ本題に入りにいこう。
それぞれが引き連れてきた従者の方もずっと待機しているようだし、待たせ過ぎるのも悪いというものだ。
細長い大きなテーブルに5人が向かい合うように座ってる中、私一人が全員を見渡せる位置に座ることになった。
「それじゃあ会談、始めましょうか。フェーシャ王とジークロンド王には申し訳ないけど、まずはビアティグ王及びグルムガンドについてどう扱うか決めていこうと思うわ」
重苦しく溜めて、話す。
誰も反対意見はないみたいだし、一番最初に話し合うことはやはりこれだろう。
私が話し終えたのと同時にビアティグは立ち上がり、言いにくそうにだがはっきりと話し始めた。
「……まず、謝罪を。この度は各国の魔王たちに迷惑をかけ、本当に済まなかった」
頭を下げたビアティグの様子をアストゥは驚いた表情で見つめているようだった。
それだけこの場で素直に謝ったのが意外だったということだろう。
「それで、だが……本来なら何かしらの賠償をしなければならないのだけれども、今の俺の国の状況ではそれも不可能そうだ」
なるほど、言いにくそうにしていたのはこういう理由だったのか。
しかし……この場で言うということはよっぽど複雑な事情があるんだろう。
一体どんな事情なんだろうか……?
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