元魔王は深く反省する。


「な、なんですって……? もう一度言ってみなさい」


「おねぇちゃん」


「……もう一度」


「おねぇちゃん?」


「あ、貴女ねぇ……私の事を詐欺師呼ばわりしていた癖に……」


 あの時はこの女にかなり追い詰められた。

 精神的に鬱になりそうなくらい。


 それが、それがこれである。


「どうしたのおねぇちゃん」


「ぐはぁっ!!」


「おいメアどうした!?」


 セスティが心配して駆け寄ってくるがショコラが居るから下手に手を出せずにあたふたしている。


「な、なんでもないわよ……」


「おねぇちゃん? この呼び方が気に入ったの?」


「べ、別にそういう訳じゃ……」


 おねぇちゃん。何故だろう?

 どうしてその単語が私の心をこんなにも締め付ける?


 それだけ私が人との強い繋がりを求めているって事なのだろうか。


 ロザリアとガーベラの事を思い出す。ロザリアはガーベラの事をいつもお姉様と呼んでいたっけ。


 私にはそれすらも羨ましかった。

 だから私は……彼女からガーベラすら奪った。


 私はロザリアにとって略奪者であり、許されざる存在だ。

 だからこそ私はロザリアをあんな状態から救ってやらなきゃならない。


 私の過去に、決着をつけなければならない。



「おねぇちゃん、聞いてる?」


「だから私は貴方の姉なんかじゃ……」


「いや、あながち間違ってないかもしれないぞ」


 急にセスティがそんな事を言いだした。


「なんでそうなるのよ!?」


「だってお前はうちのおふくろの娘なんだろう?」


「……貴女はそれを認めるの?」


 私が、本当にキャンディママの娘になっていいの?


「そりゃ構わないさ。おふくろだってそのつもりだからな。……だとすると、だよ」


 そこでセスティは私とショコラを見て顎に手を当て、妙な事を言いだした。


「俺はおふくろの長男だ。お前がおふくろの娘になるって言うなら年齢的に俺の妹だし、ショコラの姉だぞ」


「なっ!? 私が貴女の妹ですって!?」


「そうなるだろうが。ちなみにこの国にいる俺の親父の娘って事に……」


「それは嫌っ!! そもそもキャンディママとあのおじさんはもう別れたんでしょう!? なら私の父親になんてならないじゃない!!」



 セスティは、「確かにそれもそうだな……」と呟き、おじさん父親説に関しては否定してくれた。


 あのセクハラ親父が自分の父親になるなんて考えたくもない。

 ブルブルっと寒気が走って小刻みに震える。


「ほら、やっぱりおねぇちゃんだった」


「そ、それは分かったから離れなさいっ! まったく……」


 どうした事か、突然私に兄と妹が出来てしまった。


 セスティには何度も助けられているし借りもある。兄と思えなくもない。

 家族としては心強い気がする。


 でもこの妹はかなり危険なのでは……?

 姉の貞操を狙ってくる妹ってどうなの……?



「お姉様ずるいですずるいですシリルにもお願いしたいですわ~!」


「……そう言えば無機物」


「無機物じゃありませんの!」


「シリル……?」


「わたくし無機物ですわ!」


 この無機物はショコラの言う事には絶対服従してるみたいだけどいったいどういう関係なんだろう?

 お姉様と呼んでいるが……。

 ロザリアを彷彿とさせる呼び方である。


「えっと、シリル……でいいかしら? 貴女とこのショコラはどういう関係なの? お姉様って言ってたけれど」


「わたくしとお姉様の関係ですか!? それはもうぐずぐずでずぶずぶの関係ですわ♪」


「……?」


 ぐずぐずでずぶずぶ……?


「おねぇちゃん、気にしないで。こいつは私の愛人だから。性欲処理奴隷みたいなもん」


「セスティ! 貴女の妹イカレてるわ!!」


「残念だけどお前の妹にもなったけどな」


 馬鹿な……!

 こんな倫理観がぶっ壊れてる子が妹だなんて……。


 私はどうにも信じられずにセスティに視線を向けるが、「諦めろ」と一言で切り捨てられた。


 どうかしてる。愛人、までは百歩譲って認められるかもしれないけれどその後こいつなんて言った?

 性欲処理奴隷!? 私にはいまいち性欲とか分からないけれど、それが人間にとって当たり前の感情だって事くらいは分る。

 だとして、それってあれじゃないの?

 恋に落ちた二人が、とか愛し合う二人が、とかがその延長線上で結ばれた時になんやかんやあるものなんじゃないの!?


 それなのにこいつは無機物……いや、敢えてシリルと呼ばせてもらう。シリルの事を性欲処理の奴隷って言った。


 性欲を処理する為だけの奴隷?

 それってただの道具みたいな物よね?

 自分の性欲を満たすための道具としてしか扱われないなんて哀れ過ぎる……!


「シリル、もう貴女の事を無機物なんて呼ばないわ。私が悪かった」


「えっ、あ、はい……ありがとうですの。でも急にどうしたんですの?」


 どうもこうもない。ただ不憫なだけ。それでも好きな人に求められたいって気持ちの方が勝ってるって事よね……?


 でも……。


「シリルは本当にそれでいいのかしら……?」


「わたくしですの? わたくしはお姉様と一緒に居られて、愛して下さればそれで満足ですわ」


「そ、そう……愛って、いろんな種類があるのね……知らなかったわ。貴女、凄いわね」


「……? はぁ、これは喜ぶところ、ですの?」


 また一つ勉強になった。

 でもこれは知らなくても良かった世界の話かもしれない……。

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