魔王様は妹の魔の手を防げない。


 俺達はなんとも言えない気分になりながらラボを出た。


「あっ、みなさんもう終わったんですか?」


「ヒールニント……そんな所で何やってるの?」



 タイミングが良すぎて俺は声を出せず、真っ先に問いかけたのはメアだった。

 ラボのすぐ外で、ヒールニントがペリギーを撫でまわしていたのだ。


「えっと、ペリギーさんが皆を探していたんでここまで案内したんです。……ね、ペリギーさん」


「えっ?」


「そうですよね、ペリギーさん?」


「え、えぇそうですそうですその通りです。皆さんがラボで大事な話をしているからと彼女にここで待つよう言われたんです」


 ……? ペリギーとヒールニントとは随分珍しい組み合わせだが……。

 ペリギーが中に入ろうとするのを止めてくれていたんだろうか。


「で、俺達に何か用だったのか?」


 なんだか慌てているペリギーの様子がおかしかったので急用かと思い確認してみると、思ったよりもいい情報が手に入った。


「その、実はですね……王国の東方面に魔族が集結しているようだ、という連絡がありまして、取り急ぎそれを魔王様にと」


 ペリギーは未だに魔王という表現を使う。

 めりにゃん、メア、そして俺と、自分が仕える相手が変わってしまっているので優先すべきが誰なのかを測りかねているらしく、結果的に俺とめりにゃんに絞り込んだようだがどちらも魔王という扱いなのでその表現が便利、という事なんだろう。


「セスティ、この国の東というと砂漠があるだけじゃぞ」


「うーん、俺もこっから東方面はあまり詳しくないからなぁ……調査隊を送る所から始めないといけないかもしれんなぁ」


「……砂漠?」


 めりにゃんと今後の打ち合わせをしようかと話をしていたら、ずっとおとなしかったショコラが妙に反応を示した。


「なにか心当たりでもあるのか?」


「……私、砂漠の中にある集落を知ってる。シリルが居たとこ」


 あぁ、そう言えばショコラはみんながバラバラになってた時にそっちに行ってたのか。


「だったらショコラとシリルに案内してもらって俺が直接行った方がいいかもしれないな」



 漠然と調べなきゃならないなら調査隊派遣も考えなきゃだったけど、中継地点があるのが分かってるならそこでの聞き込みも出来るし俺達が行った方が話が早い。


「じゃあちょっとシリル呼んで来るから待ってて」


 そう言ってショコラは城の方へ走っていった。



「……魔族が関わってるならあの子が居るかもしれないわよね?」


 メアの言うあの子、というのはロザリアの事だろう。


「ああ、だから今回も一緒に来てもらうぞ」


「……そこにロザリアが居ると確定してる訳じゃないから私と貴女は一緒に行動しない方がいいと思うわ。戦力は一か所に集中させない方がいい」


「言いたい事が分かるが……それだったら今回はメアが留守番するか?」


「冗談じゃないわ。私が行かないでどうするのよ」


 ロザリア本人が来る可能性はある。そろそろ回復していてもおかしくないし、今回はメアに譲ってもいいかもしれないな。


「なぁ、お前妙な事は考えるなよ?」


「妙な事って何よ」


 リンシャオがあんな事になったばかりだから、いろいろ気になってしまう。


「ロザリアを助けたいって気持ちは分るけど、その為に自分を犠牲にするような真似はするなよ」


「……何言ってるのよ。私があの子を助けたい? 冗談じゃないわ。決着をつけたいだけよ」


「素直じゃねぇな」


「うるさい」


 ラボの前でそんなやり取りを繰り広げていると、中からアシュリーが出てきて呆れたように呟いた。


「こんな所で騒がないでちょうだい。……でもメア、もしロザリアが……メリーが来てたら私に必ず連絡してちょうだい」


「なんで私がそんな事しなきゃいけないのよ……まぁ、でも……あの子が本当に来てたら連絡入れるくらいはしてあげるわ。一回しかしないからね? ちゃんと通信出られるようにしておきなさいよ」


 本当にどこまでも素直になれない奴だ。

 リンシャオが死んだ時はあんなに素直に泣きついて来たっていうのに。


 そんな事をここで言うと殺し合いが始まりそうだから言わないけれど。


「お姉様ぁぁぁっ!! ちょっと、待ってくださいましっ!!」


 なんだか騒がしい声が聞こえてきたのでそちらを見ると、小走りでこちらに戻ってくるショコラ、そしてそれをひーひー言いながら追いかけてくるシリルの姿が見える。


「シリル連れてきたよ」


「おう、ありがとな」


「じゃあ早速いこっか。ジラールとブライどっちに行く?」


 どっち行くかって聞かれてもジラールもブライも分んねぇよ。それに……。


「すまん、今回俺は留守番になったからメアと一緒に行ってくれるか?」


「……えっ、そうなの……? 別に、それはそれでありかな……」


「ちょっと、貴女の妹から妙な悪意を感じるんだけど気のせいかしら?」


「気のせいではないと思うけれど俺にはどうする事も出来ないから、せいぜい自分の身は自分で守ってくれ」


「そう言えばこの子には……妙な技があったものね……気を付けるわ」


 初めて俺達が戦った時の事を思い出したのだろう。

 あの時はショコラが最後の希望になっちまって、最低な方法でメアを蹂躙した。


 結果的にショコラは動けなくなってしまったが、あの時の事は確実にメアの記憶に刻まれている。


 軽くトラウマになってるかもしれんし。


 いや、でもあの時メアの奴ショコラを持ち帰るかどうか悩んでたよな……。


「おい、メア……くれぐれも、妙な扉は開くなよ」


「扉……? 貴女何を言ってるの?」


 俺の言ってる意味が分からないままである事を祈るよ。

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