魔王様と神の御心。
デュクシは、そうしてヒールニントを守る為にアルプトラウムになった。
あいつが今どういう状況なのかまでは分からないが、先日の様子を見る限りデュクシであり、アルプトラウムでもあるという感じだった。
それと、もう一つ驚いたのが、アルプトラウムがデュクシと同化する事ができた理由だ。
人と交わって子をなす事は出来ても、同化して一つになるとなるとかなり条件がつくらしい。
普通の人間では神との同化に耐えられないのだ。
なのに、デュクシがその適正を持っていた事は、あいつの規格外のスキルにも関係していた。
デュクシは元々完全な人間では無かった。
……メイディ・ファウスト。今はメディファスの中で眠っている彼女は、アルプトラウムと一つになった筈だった。
だが、彼女は同化する前に自らを分割し、予備を世界に撒いていた。
現代にもかろうじて現存していた幾つかが、意図せず同化してしまった物。
それがアーティファクトであったメディファスであったり、デュクシだったりしたわけだ。
つまりデュクシは先天的か後天的かはともかく、以前から身体の何割かに神を宿していた事になる。
アルプトラウムはそこに目をつけて、ヒールニントを助けるという目的を叶えさせる事を条件に一つとなった。
あいつが言っていた、自分を駒にする方が楽しいという理屈はよく分からないが、アルプトラウムの事など理解できる気はしないので仕方ない。
映像は、二人が一つとなり、ヒールニントを死の運命から解放した所で終わっていた。
最終的にヒールニントが生存している時点に戻ったからこそギルガディアも健在だったのだろう。
よくよく考えれば、自業自得とはいえギルガディアの奴もここで何度も殺され魔族王戦の時には体を弄られて訳の分からない生き物にされて、哀れではある。
しかしロンザやコーべニア、そしてヒールニントの件を加味して考えるとそちらの肩を持つ訳にはいかない。
元々魔族が何を考えているのかなんて分からないけれど、別の空間に隔離されていた魔族をこちらに呼び戻し、メリーをさらってロザリアの身体にした上で洗脳、魔族王に仕立て上げたのは全てアルプトラウムの仕業であり、あいつの道楽の道具だ。
時系列的にそのあたりを仕組んだのはデュクシと一つになる前のアルプトラウム。
メリーに関してデュクシを恨む気は無いが……リンシャオの件はどうにもならない。
責任の所在を考え始めたらきりがないが、メアも言っていたじゃないか。
簀巻きにしてから考えればいいんだそんな事は。
俺が難しい事を考えていたって仕方ない。
しかし気になるのは……これをデュクシがなぜヒールニントに持たせたのか、だ。
わざわざ自分がこんな事になってしまった理由を彼女に伝える理由……?
俺はこれを見た上で皆に意見を求めた。
「皆に一つ言っておく。俺はデュクシを取り戻すつもりだし諦める気は無い。この映像もあいつに何が起きたのかよく分かったし、知れて良かったと思ってる。……だが、分からないんだ。これをあいつが何のためにヒールニントに渡したのか」
意見は幾つか出た。
デュクシはヒールニントに出来る限り関わらないように、忘れるようにと言っていた。だからこれだけ大変な事が起きてるというのを見せて諦めさせるつもりだったのではないか?
俺達がこれを見る事を見越して、ただただ絶望させるために、または見た時の反応を楽しむ為だけにこれを渡したのでは。
確かにアルプトラウムは楽しむだけに生きているような節があるから、無くは無いと思う。
だけど……いまいちピンとこない。
「考えるのは結構だが、それは結論が出るような議論なのか? 憶測しか出来ないなら意味が無いでしょ。問題はこれからどうするかよね?」
アシュリーが話し合いを終わらせるように容赦なく切って捨てる。
こいつの言う事も間違ってはいない。
あれこれ言っていても本当の事はデュクシ本人にしか分からない。
「あの……ちょっといいでしょうか?」
おずおずと手を上げたのはナーリアだった。
「話を戻してしまって申し訳ないんですけど、私には……助けを求めているようにしか見えなくて……」
「助けを求めてる? ディレクシアで見たでしょ。あいつは楽しんでるだけだって」
アシュリーの反論にもナーリアは折れない。
「でもあの馬鹿は今でもヒールニントの事が大事なんです。それだけは間違いない筈なんですよ。なのに、これをわざわざ彼女に持たせるのっておかしくないですか? こんなの見せられたら普通罪の意識で潰れちゃいますよ」
……それだ。俺が気になっていたのは何故彼女に、だったのか。
デュクシにとってヒールニントが絶望する様子なんて楽しめるとは思えない。
それなら俺に渡せばいい。
「……もしかしたら、一番大切な人に……苦しんでる事とか、それこそ、こんなに好きなんだって気持ちを伝えたかっただけなんじゃないの……?」
俯いたままメアが静かに口を開いた。
事実はどうあれ、この場に居る奴でその推論を否定する者は……誰も居なかった。
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