魔王様はやたらと狙われる。


 サヴィちゃんとかいう謎の声がとても気になったが今はそんな事に構っている場合はない。


 球体はナーリアの攻撃を避ける為にさらにその、スピードを上げた。


 リンロンは突然現れたナーリアよりも俺の方を脅威として認識しているのか、ナーリアの方に球体を三つ、それ以外は相変わらずこちらへ向けていた。


 このままじゃ結局俺は打ち落とされてしまう。

 ここまで障壁を破壊しているのだからこのまま突き抜けてしまいたい。


 マリスで守られている部分ならくらっても痛いだけで済む。

 この障壁をぶち抜くまで、運よく耐えられれば……!


 バギンッ!!


 よっしもう一枚!!


『三体ですかぁ~舐められたもんですねー』


 サヴィちゃんとやらの声が聞こえてくる。通信を繋いだままだったか。


 というかほんとに誰だお前。さっきの建物の上にはナーリアしか見えなかったが。


『こいつらに目にものみせてやりましょうマスター! こいつら耐久値低いですよ! 散光モードに切り替えますので一気にやっちゃいましょう♪』


「そ、それだとどれを狙っていいのか……」


『大丈夫! マスターは全部に当てるつもりでぶっ放して下さい☆』


 なんだ? 何を話している。

 散光モード? あの三体を纏めて打ち落とすつもりか??


「わ、わわ分かりました! では……サヴィちゃん、頼みますよ!」


『あいあいさーっ! ふぁいあーっ!!』


 視界の隅で物凄い光が炸裂した。まともに見ていたら一瞬視界を奪われていたかもしれない程の光だ。


 ギュィィィン!!


 ナーリアが放った光はいくつも枝分かれし、近くに迫っていた三体を瞬時に破壊した。


 こりゃすげぇ破壊力だ! ナーリアのやつあんな武器をいったいどこで……!


『ちょっ、え!? マスターってばあの三体を狙ったんじゃなかったんですかーっ!?』


「全部に当てろと言ったのは貴女ですよ!」


『ほぇ~っ、マスター流石です! でも一撃あの赤ドレスの人に向かってたので補正しておきましたよ♪』


 そんなよく分からないやりとりを聞いている間に、俺を取り巻いていた黒い球体が全て打ち落とされた。


 マジかあいつ……!


「えぇーっ、姫に飛んでっちゃいましたか!?」


『はい。それはもう直撃コースでした♪ なのでそれだけ私の方で補正しましたのでご安心をっ☆彡』


 ナーリアのやつ……俺を打ち抜くところだったって事か……?


 その件については後でお説教するとして、だ。


「ナーリア! よくやった!!」


「ひっ、姫……!! 有難きお言葉です!!」



「なんなんだあいつは! あんな武器の情報はこちらに回って来てなかったぞアルプトラウムめ!!」


「お前も驚いたか? 俺もだ。俺すら知らない情報をお前が知ってるわきゃねーだろうがよっ!!」


 バギィィィン!!


 よし残りあと一枚!!


「舐めるなぁっ!! こんな所で私の道は、ロンシャンの道は途絶えない!」


 障壁をあと一枚の所まで砕いたところで、ふいに目の前から障壁が消え去る。


 しまった!!


 俺は全力でメディファスを障壁にぶつけていたのでそれがスカされた形になって前につんのめってしまった。


「鬼神セスティといえど、私は負けないっ!!」



 体制を整える前に、魔導兵装の巨大な拳が俺を横から殴りつける。


「ぐあぁっ!」


 いってぇな畜生!! 体のダメージは骨が半分砕けたくらいで済んだが脳みそがシェイクされて吐き気がすごい。

 吹き飛ばされた自分の状況が把握できずバランスを取り直す事も出来ない。


 錐揉み状態のまま受け身も取れず地面へ叩き落されてしまった。


『だーりん無事だべか!?』

『主ご無事ですか!?』


「あ、あぁ……無事、とは言えないがすぐ治る。それより……」


 頭がはっきりしてきた。

 あんな巨大な兵装を器用に操りやがって……。


 せっかくもう少しで障壁をぶち抜ける所だったのにリンロンにしてやられてしまった。


「おいメディファス! もう一度だ! 今度はあの黒い玉っころも出てこないだろう」


『いえ、それは見通しが甘いようです』


 メディファスの言葉に上空を見上げると、魔導兵装の背中から次々とあの球体が再び空へ放たれた。


 ちっ、さっきは多すぎると操作しきれなくなるからあの数だったって事かよ!


 俺は通信機に向かってナーリアに指示を飛ばした。


「ナーリア聞いてるか? お前はとにかくあの玉っころを全部打ち落とせ! 期待してるぞ!」


「か、かしこまりましたーっ!!」


「あとそこのサヴィちゃんとかいう奴!」


『おや? なんです? お姫様』


「おっ、お姫様とか辞めて! とにかくっ、どこの誰だか分からないけどナーリアの事頼んだわよ!」


『やっぱりお姫様じゃないですかー』


「うっさいわね! とにかく、二人とも頼んだわよ!?」


「お任せ下さい!」

『まっかせてー♪ マスターのマスターの命令なら頑張っちゃうよ☆』


「わ、私のマスターだなんてそんな……」


 なんだか長くなりそうな予感がしたのでそっと通信を切った。


「さて……どうしたらいいかしらね。って言っても同じ事やるしかないんだけどさ」


『一撃であの多重障壁を粉砕出来ないのは痛いですね』


 それよそれ。私に仕える魔法なんて限界があるし……組み合わせを変えてみる?


 さっきが炎と雷と光だったから、今度は水と風と闇とかで行ってみようか。


「よっし、そうと決まればもう一回チャレンジよ!」


 予めメディファスに魔法をかけながら地面を蹴った。


 瞬間、目の前が真っ白な光に埋め尽くされて、極度の悪寒の中、ギリギリで、ほんとにギリギリでナーリアからすっとんできた攻撃を回避した。



 なんであの子は外すと必ずと言っていいほど私を狙ってくるんだ……。

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