魔王様と謎の人。


 いってーな畜生……。


 腕や足に穴が開いて血がどばどば出てる。


 黒い浮遊する球体から発せられる光線は細いので小さな穴が開く程度で済んでいるが、数が多いからかなり厳しい状況だ。


 あれだけの数を自由に動かしてるってのか?

 もしかしたらあの魔導兵装自体に魔力ブーストのような機能があるのかもしれない。


 さすがアルプトラウムがもたらした技術ってところか……。


 一人で足止めするにも限界があるぞ。どうする……?


『言って置くが我は手伝わんからな。この国がどうなろうと知った事ではない』


「分ってるって。お前に頼れるならとっくに頼ってるくらいには困ってるよ」


『ふん。大口を叩いておいてその程度か? せいぜい死なないようにする事だな』


「俺は死なねーって。安心しとけ。お前に餌はまだまだくれてやるからよ」


『期待しておこう』


 まったくオロチのやつめ……。いざって時はなんとか手伝ってもらおうかと思ってたがその期待は薄そうだ。


 俺が死なないからこそ逆に安心しきってやがる。


 見てやがれよ……デュクシと戦う事になったら思いっきりこき使ってやるからな……。


「さぁ、そろそろ諦めてそこをどけ。私は城に用がある」


「残念だけどそれは出来ない相談ってやつだ。俺を倒してからいくんだな」


 そう言ったはいい物の、先ほどのような力技は通用しそうにない。


 俺が動きを止めたらすぐにでも集中砲火を浴びる。



 どうしたものか……俺は空中を飛び回り、球体からの攻撃をかわし続けていた。


 しかしかわすだけじゃこいつの足止めも出来やしない。

 それに、あの宙を舞う球体は城の方にも攻撃を仕掛けている。

 今はまだアシュリーの障壁がそれらを防いでくれているが、このままこいつが進んでいって直接的な攻撃まで加えられるとどうなるかわからない。


 城に到達するまでにこいつを止めてしまわなければ……。


 その為にはまずあの球体どもをどうにかしないと本体に攻撃するどころじゃないので、なんとか一つずつ潰そうとするものの、これがなかなかに素早くて追いかけてなんとか攻撃をしようとするものの他の多数から光線が飛んで来る。


 これの繰り返しで全く攻めに転じる事ができない。


「くそっ! このままじゃまずいぞ……」


 まさか人間相手にここまで苦戦を強いられる事になるとは思ってもみなかった。


 アルプトラウムの技術が使用されている時点で純粋に人間を相手にしているという感じはしないが、それでも動かしているのはリンロンだ。


 仮にも魔王である俺が、こんな情けない姿を晒していては他の連中に示しが立たない。


「メディファス! 久しぶりにやるぞ!」


『了解! いつでも大丈夫です!!』


 俺はめりにゃんのような器用な事は出来ないので一つずつ魔法をかけていく。


 メアと一体化した時の記憶、そしてメアとして過ごしてきた間に引き出しから得られた知識などを活用し、出来る限り強力な魔法を上乗せしていくが……。


『主、このやり方ではこちらの負担が大きく処理しきれません。三種類が限度です』


 やはりメディファスに魔法を付与する時はこちら側が全属性をまとめあげて一つの魔法として付与するくらいじゃないと限界があるって事か……。


 基本的に物理任せの自分を悔いるが、出来る事と出来ない事がある以上出来る事で戦うしかない。


 炎、雷、光魔法の三種類に厳選しメディファスに付与。


『……こちらでブーストをかけます!』


 頼んだぞ!


 俺に出来る最大限の魔法剣だ。

 これでもダメなら俺に打つ手はなくなってしまう。


「うぉりゃぁぁぁぁっ!!」


 球体をかわし、再び本体へ加速スキルを使用して一気に距離を詰め、振りかざしたメディファスを思い切り振り下ろす。


 再び多重構造の障壁に阻まれるが、一枚めはあっさり突破できた。

 しかし、二枚目で止まる。


「まだまだぁぁぁぁっ!! メディファス! もっとだ!!」


『了解!!』


 既にメディファスにブーストをかけてもらってるんだからこれ以上はかなり厳しいのは分ってる。

 だけど、このまま終わってたまるか!!


 背後から光線が飛んで来るが今は無視。

 背中に直撃し、マリスが防いでくれたはいい物のかなりの衝撃が身体を襲う。


 しかし、止める事はできない。このまま……!


 バギッ。


 ゆっくりだが障壁にヒビが入った。

 しかしあと少しという所で停滞してしまう。


 メディファスでの魔法剣と障壁がせめぎあい、身動きが取れないうちにどんどん光線が俺を目掛けて放たれる。


 マリスで覆われていない部分にも直撃し、足首から下が持っていかれた。


 くっ、やっぱりダメなのか……!?

 これ以上ここでねばれば俺が攻撃に耐えられなくなって回復待ちになってしまう。


 諦めて一度離れようと思ったその時、俺に狙いを定めていた球体が一つ、消し飛んだ。


「なっ、なんだと!? どこからの攻撃だ!?」


 リンロンが巨大な礼装を器用に使いこなし辺りを探る。


 俺も障壁と格闘しながら改めて攻撃が飛んで来る方向を見た。


 てっきりメアかと思ったのだが、少し高めの建物の上でこちらに狙いを定めているのは……。


「ナーリア……?」


 こちらがナーリアに気付いた時、彼女から通信が入ってきた。


「姫ッ! 細かいのは私に任せて下さい! 姫はそのでかいのを!!」


「……任せていいんだな?」


「勿論です! 任せて下さい! いけますね、サヴィちゃん!」


『もっちろんです~♪』


 サヴィちゃんってなんぞ?

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