魔王様が恐怖を感じるタイプの女。
「そう言えばメディファスはリンシャオと会った時の記憶があるって事か?」
『いえ、記憶はありません。故障中でしたからね。しかし記録ならば残っております。遡って参照する事は可能です』
なるほどな。意識が無くとも記録はし続けてきた訳だ。大したもんじゃないか。
『……』
照れるとすぐ黙る。
『照れてなど……』
はいはい。まずはその魔力の方向へ行ってみるか。
リンシャオはともかくそこに大きな魔力反応があるっていうのが気になる所だ。
「……いや、待てよ? 個人の魔力が判定できるのならメアがどこにいるのか教えろよ」
『……』
『……』
「おい、二人とも黙るな。なんか言え」
『メアリー・ルーナは特別です。本人が無意識にやっているのか、分ってやっているのか不明ですがそういった事は判別しかねます』
『あだすも同じだべ……あの女はなんも分んねぇべさ』
くっ、こんな所であいつの特異性が邪魔をしやがる。
「じゃあその大きな魔力っていうのがメア可能性もあるのか?」
『あり得ます』
『んだんだ』
お前ら意外と仲いいな……。
「それがメアであろうとなかろうと、そちらに何かがあってリンシャオがいるのは間違い無いんだ。とにかくそこへ行ってみよう。案内は頼んだぞ」
『了解』
『あだすに任せるべ!』
『いや我が』
『あだすが!!』
「どっちでもいいから頼んだぞ。今はあれこれ騒いでる余裕がないんだ」
『了解』
『すまんべさ……』
案内に従って俺はどんどん奥へと進んだ。
二人の言う事は大体同じなんだがそれぞれ好き勝手に発言するからかなりややこしいというか騒がしいというか……。
『もうすぐだべ!』
『その扉の向こうです』
よっし、乗り込むぞ!!
扉を思い切りぶち抜こうかと思ったが向こう側がどうなってるか分からないので安全策を取って普通に開ける事にした。
そこにはやたらと大きな柱が一本。
「……これだけ、だと?」
「誰かイルのカ!?」
無駄に広い部屋に大きな柱。そして……。
その柱の裏から少し妙な喋りの女性の声が聞こえた。この喋りはリンシャオだ!
「リンシャオ! ここに居るのか!?」
「早くこっちニ来るネ!!」
リンシャオの声がする方に回り込むと、簡易的な檻のような物が置いてあり、その中にリンシャオが捕らえられていた。
「鬼神セスティ……ちょうど良かったネ。早くワタシをここから出すネ!!」
檻に近付いてみると、かなり簡素な造りで特に罠もなさそうだったので格子をバキっと二~三本へし折る。
「相変わらず凄い力ネ……」
「……相変わらず?」
直接俺がリンシャオと会った事があっただろうか?
メアの話ではいろいろ聞いていたが……。
「私は……ロンシャンの第二皇女ヨ。あの時の様子はこの眼でしかと見テいるネ」
「あぁ、エンジャードラゴンの件か。あの時は悪かったな。もっと早く対処出来てればロンシャンがあそこまで崩壊する事は無かった」
「……ふん。そうなって居たらとっくにユーフォリア大陸は火の海だっただろうけどね」
「急に素の喋りになるの辞めろ。内容が内容だけに笑えねぇよ」
「それハ失礼したネ」
そう言いながら彼女は檻からぴょんと飛び出て、ツルツルした不思議な素材の服をパンパンと叩き埃を落とす。
「これでも結構急いでるんだ。必要な事を教えてくれ。まず人質はどこにいる? お前をここに閉じ込めたのは誰だ? それと魔導兵装ってやつを操ってるのは誰だ?」
「一度ニ聞かれてモ困るネ。……ワタシをここに閉じ込めたノハ、当時ロンシャンの技術顧問をやっテいたウォンという男ネ」
「技術顧問か……そいつが魔導兵装も操ってるのか?」
リンシャオは軽く頭を横に振って続けた。
「操る装置を作った、と言うノガ正しいネ」
そう言ってリンシャオはあのバカでかい柱を指差した。
「なるほどな。それならこいつをぶっ壊せば……」
「辞めておくネ。それを壊せばコノ飛空艇は爆発ヨ」
この空飛ぶ船は飛空艇、というらしい。
「ならどうする?」
「慌てるナ。私ナラ止められるネ」
それは好都合だな……。
「デモ少し時間がかかるヨ」
「ならそのウォンって奴と人質の場所を教えてくれ。そっちをどうにかしてくる」
「そうネ、それならココとは真逆ヨ。ウォンもおそらくそっちネ」
……俺があの穴から飛空艇内に入って右を突き進んできたんだから、あの時左に行くのが人質の方向だったか。
「この飛空艇にはどのくらいの戦力が乗ってる? お前をここに置いて行くのはさすがにまずいよな?」
「心配無用ネ。ここに来るマデに誰か一人でも遭遇したカ? 皆魔導兵の中ヨ」
「味方まで全部動力源扱いか……そのウォンって奴は大分狂ってやがるな……」
リンシャオはその言葉を聞いてクスっと笑った。
「ソレはソウと、ここにはダレが来てるネ? お前だけカ?」
「いや、メアも来てるよ。あいつ一人で先に行っちまいやがったからはぐれてるんだ」
「なるほどネ……なら早く合流スルなり人質を解放スルなりするといいネ。こいつはワタシが責任持って対処しとくヨ」
ウォンって奴に対してかなり怒り心頭なのか、リンシャオは凶悪な笑みを浮かべていた。
「じゃあ悪いけど頼んだぞ。全部終わったら迎えに来るから」
「こっちはゆっくりでいい。少し時間がかかると言っただろう? それにここからの脱出法には心当たりがあるからな」
だから急に素になるのを辞めろって。
こいつのこういう所にとても恐怖を感じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます