元魔王が恐れている事。



「へぇ~ここがその遺跡ですか?」


「そう。私が記憶なくして、自分の事をプリン・セスティだと思い込んでた時にサクラコさんと蛙と一緒に来たの」


「なんでそんなに説明口調なんです?」


「いいでしょ別に」


 ここに来たのは私ではなくプリンと思い込んでた私なんだから。

 そこははっきりさせておきたい。


 ……そんな事言ったら私の人間関係全部プリンの時なんだけどね……。

 私って自分で得た物なにかあるのかしら。


「メアさんって面白い人ですよねぇ。ほんと元魔王とか言われてもピンとこないです」


「いーのよ。私が魔王やってたのなんて昔の話なんだから」


「でも自分がやってた魔王を今は違う人がやってるっていうのは何か寂しかったりしません?」


 うーん。びっくりするくらいそれは無いのよね。


「私はほら、いい魔王では無かったし。今の魔王はその辺しっかりしてるからさ。人望もあるし私とは大違いよ」


「……やっぱり寂しそうですよ?」


「うるさいわねぇそんなんじゃないわ。ただ、過去の自分を恥じているだけよ」


 叶うなら消してしまいたい過去だけれど、そんな事は出来ないのだから抱えて生きるしかない。


「私がそこに居ない方が上手く回るならそれでいいじゃない。魔王は奴の方が適任よ」


「そうですか? 私はメアさんも人望あると思いますけどね」


 ……目が腐ってるのかしら。何を見てそんな事を思ったのか知らないけれど……。


「そんな不思議そうな顔しないで下さいよ。だってメアさんが居なくなったら探してくれる人達がいたんですよ? それに、私はメアさんの事頼りにしてますから♪」


「……あんたって、本当に……」


「なんです?」


「なんでもないわよ」


「気になります言って下さいよぅ」


「しつこい。ほら、さっさと遺跡の中を調べてみましょ」


 この子ってば本当に、聖女様なんだから。


 言えるわけないじゃんそんな恥ずかしい事。


「そ、そう言えば……ヒールニントは、友達って居る?」


 私は何を聞いてるんだろう。照れ隠しにしたって他になにかあるだろう。


「友達……ですか? 私には幼馴染のロンザとコーべニアって男の子が居ますよ」


「へ、へぇ……ヒールニントってばその二人とあいつが一緒だったんでしょ? 逆ハーレムみたいなもんじゃない」


 あっ、余計な事言った。絶対今余計な事言った。ヒールニントの顔が曇ってるもん。


「ハーミット様は……友達、とは違いますね。私が一方的に好意を寄せていただけですし……」


「ごめん。そんな顔させるつもりなかった。余計な事聞いたわね」


 反省しないと。もう少し人の心ってやつを分かるようにならないとダメね。


「今はハーミット様はどこにいるか分からないし、ロンザもコーべニアも置いてきちゃいましたけど……でも寂しくはありませんよ」


「そっか、ヒールニントは強いのね」


「違いますって。私が寂しくないのは友達が一緒だからですよ♪」


 ……とも、だち?


「えっ、そんな顔しないで下さいよ……もしかしてメアさんは私にそんなふうに思われるの嫌でしたか?」


「嘘よ。そうやって私を喜ばせてからかってるんでしょう?」


「嘘じゃないですよ……というか今、私を喜ばせてって言いましたよね? じゃあ嬉しいって事ですか!?」


「う、うるさい!」


「照れてるんですか? 可愛いです♪」


「もうっ!! 先に行くわよ!!」


「あ、ちょっとメアさーん、待ってくだ……」



 ……ん? ヒールニント……?


 遺跡の入り口からまだそんなに奥へ歩いてない。

 ヒールニントだってすぐそこにいた。


 なのに、私のすぐ後ろにいたはずなのに忽然と消えてしまった。


「ヒールニント……? 冗談でしょ? どこに隠れたのよ。ヒールニント!?」


 早く出て来なさいよ。私をあんなにからかっておいて、私の感情揺さぶっておいて急に居なくならないでよ。


 万が一、貴女を失ってしまったら私、どうしたら……。


 怖い。大事な人が居なくなるのが怖い。

 失うのが怖い。

 もう何も失いたくない。

 沢山奪ってきて、今更何を言ってるんだろうって自分でも分かってる。

 分ってるけど……。


 だからと言ってヒールニントは、あの子は不幸になっていい子じゃない。


 だから、私が守らないと……私はキャンディママやヒールニントを、大事な人を守るために生き続けなきゃ。


 だから、こんな所で貴女を失う訳にはいかないのに……!


「どこに居るのよヒールニント!!」


 くそっ! こんな事なら、こんな事ならあのアーティファクト返してもらえばよかった!



 今からでもセスティを呼び出す?

 いや、それよりも先にすべき事があるはず!



 私は先ほどまでヒールニントが居た場所に駆け寄り、辺りを調べてみた。


 落とし穴とかそういうんじゃない。

 ここにそんな罠は見当たらない。

 だとしたら……誰かに連れ去られた?


 もしそうだったとしたら……。


 そうだ、ヒールニントの魔力を調べれば。

 この区域の魔力を片っ端から調べたらヒールニントの物が見つかるはず!!


 これは……近くに魔力反応が二つ。

 一つは……ヒールニントだ!


 もう一つは一体……しかも、これは……おかしい。どう考えてもこの魔力量はどうかしてる。


「待ってなさい! 今すぐ行くわ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る