魔王様と蛙を脅す妹。


「では……あの方々はフロザエモン様の側室の方……という訳ではないんですのね?」


 サクラコが今にもゲッコウをぶっ叩きそうな勢いだったので注意を促した。


「我慢しろって。あっちにもいろいろ事情があるみたいだから! あとショコラも! その短剣をしまえ! 物騒な事するなよ!?」


「……分かった」


 ショコラのやつ何しようとしやがった? まったく油断も隙もありゃしない。

 こいつらにだって……そう、それなりにいろいろあるんだろう。知りたくもない事情がきっと。



「ゲコ美さん、この方々は……」


 ゲッコウがゲコ美に俺達の事を簡単に説明した。

 今荒神を探して各地を回っている事も。俺が実は男だという事も。


 忘れがちだが、それはきちんと説明して回らないと完全に女だと思われれば思われる程俺の意識が正常に保てなくなるのだ。説明大事。



 チャコはゲコ美が現れてから俺の足に隠れるようにしがみ付いて離れない。


 どうやらピンク色の蛙が怖いらしい。ゲッコウは平気でゲコ美がダメな理由がよく分からないが。


「……そうだったんですのね。でしたら……貴方がたにだったら……託したい物があります」


 お、これはもしかして……なかなかいい流れに入った気がするぞ。


「それはそうとゲコ美さん、どうしてそんな服装でここに居るんですかい?」


 いやそれは今どうでもよくね?

 今ゲコ美大事な話しようとしてたよな?


「それは……あの事件の後瀕死の私をここの管理をしていたお婆さんに助けられて……」


 あー、今更話を戻せと言いにくい雰囲気になっちまったじゃねぇかこの蛙野郎……!


「おいピンク蛙そんな事はどーでもいいから話を進めろ」


「ちょっとショコラさん!?」


「おにぃちゃん止めないで。私今結構イライラしてるから」


「ちょっと妹君、ゲコ美さんにあんまり失礼な言い方は……」


「うっさい蛙ぶっ殺すぞ。それ以上口を挟むならお前の目の前でピンク蛙が悶え散らかして二度と普通の道に戻ってこれないようにしてやるから」


「げ、ゲコ美さん……この人を怒らせちゃならんです。先程のお話の続きをお願いできやすか……?」


 ショコラのおかげで話が本筋に戻ってきたけれどこれはお兄ちゃんとして褒めてやるべきなのかそれとも……判断が難しい。

 とりあえず、ショコラがとんでもない奴なのはよく分かった。


「フロザエモン様……この方々は、その……大丈夫、なのですよね?」


 ゲコ美がショコラをかなり警戒してしまったが、ゲッコウが「大丈夫です。信じて下せぇ」と説得して、やっと大事な話を聞ける流れに戻った。


「実は……ここには以前ロンシャンの方が来て徹底的に調べていったんです」


 やはりここにもロンシャンの調べが入っていたのか。……まぁここが一番大きいっていうなら調べるのは妥当だろうけれど。


「こちらに危害を加えるような事は有りませんでしたが、あの人は……恐ろしい目をした人でした。優しい言葉の裏できっと悪い事を企んでいたに違いありません」


 このゲコ美の審美眼がどの程度の物かはさておき、ちょっと気になる事があるな。


「ここを調べに来たっていうのはどんな奴だったんだ?」


「……数人の兵士と、女性が一人……そう、確か皇女様、と呼ばれていました」


 皇女……?


「おい、そりゃまさかこう、糸目の背の小さい女じゃないだろうな?」


 サクラコも俺と同じ事を思ったらしい。


「いえ、違います。背は高かったです」


 リンシャオじゃ無いと分かってサクラコは胸を撫でおろした。

 やはり知り合いが一枚噛んでるかもっていうのはいい気分じゃないからな。


「そうなるとリンシャオが言ってた、姉上……ってところだろうな。遮って悪かった。続きを頼むよ」


「はい。その人達はこのギズモオオヤシロを隅から隅まで調べ尽くして、大事なご本尊を奪って行きました。お婆さんは抗議しましたが武器を向けられてしまうと逆らえず……」


「それが荒神だったって事か……」


 そう俺が呟いたのを聞いてゲコ美がその大きな瞳をぱちくりしながら首を横に振った。


「いえ、ここに有ったのは古い物でしたが、有名な彫師が彫った人間大の木造です。特別変わった物ではありません」


「なんでそんな物を……」


「ここにはそれしか無かったからです」


 ……って事はここも外れ?


 いや、さっきゲコ美は言っていた。

 託したい物がある、と。


「なるほど、見せかけのお宝を掴ませて帰らせたのか。婆さんやるじゃねぇか」


 サクラコは腕組みしながらそんな事を言ったけれど、多分婆さんが抗議したのは本気だったと思う。


 この場所にとってその木造は大事に安置されていた物なのだから。


「それで、さっき言ってたよな。ここに……まだ何かあるんだろう?」


「……はい。実物を見た事は有りませんが、お婆さんから託された物です」


 よしよし、それだ。

 これで希望が繋がった。

 チャコもきちんと荒神だが、能力の程はいまいち分からないからな。数は多い方がいい。


「では……オオヘビ様の元へ案内致します」


 蛙の次は蛇かよ……。

 この国はそんなんばっかりか?


 案の定ショコラが眉間に深い皺を寄せていた。

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