魔王様と万事屋攻防戦。


「さて、団子も喰った事だしそろそろ万事屋へ行こうか。みんながあたしの帰りを待ちわびてるだろうからな」


 サクラコは少しだけ速足になって俺達の前をぐんぐん進んでいく。


「なんだか師匠楽しそう」


 そんなサクラコの様子を見てショコラがボソリと呟いた。


「そりゃ久しぶりに故郷に帰ってきたらそんなもんなんじゃねぇの?」


「……かもね」


 ショコラはそう言って少し笑った。

 きっとショコラだってサクラコと同じ気持ちなんだろう。



「お前らーっ! 主が帰ったぞ!!」


 万事屋という看板がかかった建物の前まで来ると、サクラコが勢いよく扉を開け放つ。


 一瞬中に居たメイド達が固まったが、すぐにわらわらと入り口に集まってきて、「おかえりなさい!」「遅いです!」「待ってたんですよ!?」みたいな感じでサクラコは綺麗なメイドさん達に一瞬にしてもみくちゃにされて奥の部屋へ連行されて行った。


「おいおい……俺達はどうしたらいいんだよ」


「あの様子だと多分三時間は出てこないから諦めた方がいいね。私達はお茶でも飲みながら待ってるしかない」


 そう言ってショコラはその辺にあるソファに座った。俺もそれに続いて対面に座る。


 三時間とかまじか……あの奥の扉の向こうでは一体何が行われているのだろう。

 とてつもなく興味がある。


 ちょっとだけ覗いてみたい気はするんだが、妹の手前そんな事が出来ようはずも無い。


「おにぃちゃん……そんなに中が気になるの?」


「ばっ、バカな事を言うな。そんなわけないだろう」


「分かりやすすぎるんだよ。やっぱりド変態おにぃちゃんじゃん。なんなら私が……」


「ご遠慮致します」


「ちぇっ」


 一瞬ショコラがソファから腰を浮かせたので慌てて止めた。

 俺は確かに中の様子は気になるし見てみたい気持ちがあるのは否めないが、だからと言って妹に凌辱されたいわけじゃない。


 むしろちゃんと俺の言う事を聞いてくれて助かった。


 ショコラは先ほど団子屋でたらふく食べた事によりある程度満足していたらしく、今は無理矢理俺に襲い掛かってくるような事はなかった。


 本当に助かる。この状況って完全にショコラと二人っきりだから何かあったら俺は間違いなく新しい階段を上ってしまう事になる。


 それだけはなんとしても避けなければ。

 男として妹と、もかなりまずいが、女として妹にというのはいろいろ俺の大事な物が失われてしまう気がする。


 結果、俺はショコラに怯えながら三時間待つ事になった。

 奴が立ち上がってお茶を入れに行っただけでもかなり警戒して間抜けな事になっていただろう。


 なにせこいつが相手だと、転移で逃げようにも一瞬でもタイミングがズレたら俺が身動き取れなくなってしまう。

 以前のように自分の腕をへし折って逃げるというのも毎回通用するか分からないし……。


「……そんなに警戒しなくてもへーきなのに。そんなにビクビクされたら逆にたかまっちゃうじゃん……」


「マジ勘弁して」


「だったら普通にしてて。あんまり私の事誘うと身の安全は保障できないからね」


 脅しか? それは兄に対しての脅しと受けとってよろしいか?


 ショコラは最初、そんな脅し文句を言うだけで大人しくしていたのだが、段々と目を血走らせてきて「ふーっ、ふーっ!」とか鼻息が荒くなってきて俺はいつ転移で逃げようか集中しなければいけなくなった。


 気を抜いたらやられる。


「おにぃちゃん」


「なんだショコラよ」


「……もう、無理かも」


 ガタッ!


 っとショコラが勢いよく立ち上がり、俺の方へ飛び掛かってきそうになった所で……。


 ガチャっ。


「ふぅ……いい汗かいたぜ……お? お前ら何やってんだ?」


「サクラコ! 遅いぞ! 助けてくれっ!」


「……あー、なるほどね。でもあたしも今めっちゃ疲れてるから今からショコラの相手は無理だわ……」


 そんなぁ……やはり、一度ここから逃げるしか……。


「サクラコさぁ~ん、まだ物足りないですぅ」

「待ってください~」


 部屋から先に出てきてしまったサクラコを追いかけて半裸の女の子達が数人出てくる。


 これは、またなんとも……。


「おい魔王さんよ、うちの可愛いメイドを変な目でみんじゃねぇよ」


「す、すまん!」


 慌てて後ろを向いて女子達を視界に入れないようにする。


 サクラコは女の子が好きで男が嫌い、というのをかなり明確に意識しているので俺の事をちゃんと男扱いしてくれるあたりが意外と助かるんだよなぁ。


「あれ、ショコラちゃんも帰ってたの?」

「おっかえりー♪」

「そっちの綺麗な人は?」


「この人は私のおにぃちゃん」


 メイド達の方は見ていないが、おそらくおにぃちゃんという発言に首をかしげている頃だろう。


「気を付けて。おにぃちゃんは今は訳有って女の身体になってるけど中身はド変態の男だからね」


「風評被害だっ!!」


 ざわざわと背後の気配が強い警戒に変化していく。


「カッカッカっ! 間違いなくこいつは男だからな、お前らは絶対近付くんじゃないぞ? 物足りないようならほれ、ショコラが相手してくれるから」


「むっ……ちょうどムラムラしてた。覚悟しろ」


「ひっ」


 女性陣の反応を見る限り、ショコラが相手だと彼女らもいろいろ大変なのだろう。


 ショコラが俺の横をすり抜け、おそらく女性陣を奥の部屋に引き擦り込んだ。


「……ふぅ、また三時間待ちか……?」


「何言ってんだ? ショコラだぞ……? 朝までかかるんじゃねぇかな」


 まじかよあの妹どうなってるの? そりゃ女の子たちも悲鳴の一つもあげたくなるわ。


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