魔王様とニポポンの神。

 

「ニポポンがどうしたって? 何か心当たりでもあるのか?」


「うーん。あるっちゃあるけど無いっちゃない」


 なんだそれ。曖昧な話だな。

 サクラコは眉間に皺を寄せながら「忘れてくれ」と顔の前で手をヒラヒラ振った。


「どんな眉唾話か知らんが一応聞かせてくれ」


「聞いても意味ないと思うが……まぁいいだろう」


 サクラコが聞かせてくれたのはニポポンに古くから伝わる伝承の類だった。


 ニポポンには古くから神が沢山存在する。

 至る所に、と言ってもいい程神が溢れていたのだそうだ。

 なんだそりゃと思ったけれど、ニポポンの考え方で言うと、長く人に使われた品物や、時を重ねた建物、石、もろもろなんにでも神が宿る。

 そういう話らしい。


 しかしながら、その神々は全てが良い物、とは限らないらしい。

 禍神、だったり荒神、だったり呼ばれる気性の荒い神が居る。


 そういう奴等は各地に社を作って祀り、怒りを鎮めているのだとか。


 だからニポポンにある社とかいう場所には本来全て荒神が祀られているという事になる。


 勿論それ自体がただの伝承、言い伝えであり、社はただの形式上の物である可能性は高い。


 それなら何の意味も無いが、万が一社に荒神というのが祀られているのであれば……その力を借りる事が出来ればかなりの戦力になるのではないか……。


 という話だった。


「ショコラ、やっぱりそれは無さそうか?」


「絶対に無いとは言わないけど……可能性は低いよ。今まで誰にも悪用されずに残ってるって方が違和感ある」


 確かにショコラの言う通りで、強い力が眠っているという伝承があるのなら誰も手を出さなかったというのはおかしい。


「ちなみにその荒神っていうのはニポポンじゃ結構メジャーな存在なのか?」


 その質問にはサクラコが答えてくれた。


「荒神もいろいろだけど、有名なのも居て、知名度のある神ならニポポンの人はみんな知ってると思う」


 神の知名度……?

 信仰対象としての偶像か何かみたいだな。……でもちょっと待てよ?

 完全に眉唾だと思っていたディレクシアの過去が本当だったかもしれないんだ。

 だったらその荒神って奴も沢山の嘘に紛れた本当がどこかにあるかもしれない。


「ちなみに有名な神って言うのはどんなのが居るんだ?」


「そうだな。有名どころで言うとやっぱり四神かな。朱雀、白虎、青龍、玄武。これについては出自がニポポンなのかロンシャンなのか微妙な所だが……」


 ロンシャンにも荒神がいるのか? ニポポンと近いようだから伝承なども似通るのかもしれない。


 というかそれよりも。


「聖竜って言ったか? それならうちに居るじゃないか」


「いや、聖なる竜じゃなくて青い龍だよ。……後はだいだらぼっち、金毛九尾、八岐大蛇……あとは」


「いやもういい。というか神がそんなに大量に居る国なのかニポポンってのは」


「ある一定以上の常軌を逸した存在は皆神になっちまう国なんだよ。結局は人がどう呼んだか次第で伝承なんて変わるもんだろう?」


 サクラコの言う事は一理ある。

 結局はどんな存在かではなくどんな存在だと思われて来たか、で言い伝えは変わってしまうものだろう。


 ……ちょっと待てよ?

 俺は何かが気にかかっていた。

 なんだ? 何が気になってる……?

 四神とかいう奴の事か? 

 それとも……。そうだ、最近見たじゃないか……金色の毛に沢山の尻尾が生えた奴を。


「なぁ、金毛九尾ってのはどういう外見かってのは伝わってるのか?」


「金毛九尾ってのはその名の通りで、金色の毛、尻尾が九本あるキツネの事だ」


 狐か……。じゃあ違うか?


 いや待て待て、確かデュクシが連れてたにゃんことか呼ばれてた奴には頭に獣の耳がついてたな。


「なぁ、金毛九尾が人型って事はないか?」


「おいおい魔王さんよ、何聞いてたんだ? 狐だって言ってるだろ」


「そうか……デュクシの野郎が連れてた女がな、頭にこう、獣っぽい耳が生えてて、腕から先はでっかい手で金色の毛がびっしり生えててな、尻尾が九本……」


「おいちょっと待てって。なんだそりゃどう聞いたって金毛九尾じゃねぇか」


 サクラコとショコラが顔を見合わせ、頷き合っている。


「やっぱりそう思うか? だとしたらデュクシの野郎は荒神すらも仲間に引き込んでるって事になるぞ」


 状況は絶望的じゃねぇか。しかも有名って事はそれだけ強力な荒神なんだろう。


「いやいやあり得ねぇって。あたしが言ってるのは荒神の力がなんらかの形で祀られていて、それを利用できないかって話だぞ? 本人が今の今まで生きてるなんて話聞いた事も……しかしよりによって金毛九尾か……」


「どういう意味だ?」


「金毛九尾、九尾の狐って奴はな、出自がニポポンじゃねぇんだよ。他にもニポポン発祥じゃない神は居るんだが、金毛九尾はロンシャンから来て死ぬ時もロンシャンへ行ったと言われてる」


「つまり……?」


「ロンシャンは今では崩壊から立て直す為に一からやり直してるような国だが、以前はかなりの軍事大国だったし科学力も群を抜いていた……何かよからぬ研究をしていたとしても不思議じゃないな」


「……これはメアに連絡とった方がいいかもしれないな。誰か通信機を俺あてに繋いでくれ。今俺のをメアが持ってる」


 俺の言葉にナーリアがすぐさま通信機を取り出し、メアへ繋ぎ俺に手渡してくれた。


「ありがとう。……おいメア、聞いてるか?」


「何よ。何かあったら言えとは言ったけどさすがに早すぎじゃない?」


「ロンシャンの皇女様に聞きたい事がある。悪いが彼女のとこまで行ってくれないか?」


「何ヨ? 魔王がワタシに何か用ネ?」


 でかしたぞメア! 既に合流していたのか。


「単刀直入に聞くぞ、金毛九尾という言葉に聞き覚えはないか?」


「……何故今更その話が出てくる?」


 通信機の向こうから聞こえた彼女の声は、妙な訛りなど一切感じなかった。

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