聖女様は脳筋をなんとかしたい。

 

「おいおいどうなってんだこれは」


 街が眼下に広がってくると、そのあちこちから火の手が上がっているのが分かった。


「これメアさんがやったんですかね?」


「いや、さすがにあいつでもいきなりここまでは……いや、やりかねねぇかもな」


「貴女達遅いわよ」


 私達の目の前にメアさんが転移してくる。

 レオナさんの外見ではなく、元通りのメアさんの姿に戻っていた。

 彼女はとっても楽しそうな笑顔。早く暴れたくてうずうずしてるみたい。


「何があったのか説明してくれるか?」


「何があったって言われても……変な獣がきて大暴れしはじめたのよ。都合がいいから放置してるけどアレはいったいなんなの?」


 獣って言うと……さっき私達の上空を飛んでったあのもふもふの奴だ。


「とりあえず何か分かった事があるなら教えてくれ。わざわざ潜入してたなら少しくらい情報持って来たんだろう?」


「そうね……ここに居る奴等が古都の民って奴等だって事と、何か良からぬ事を企んでるって事、それと……もう全面戦争が勃発中って事くらいかしら?」


「待て待て。全面戦争って何がどうなってそうなった? あの獣のせいなのか?」


 メアさんはその綺麗な髪をぶるんぶるんと左右に震わせて否定した。


「違うわ。あの獣は今さっき来たんだもの。来るなり暴れ始めて、奴等の注意が私から削がれたから都合いいなーって」


「あの、メアさん……じゃあどうして全面戦争なんて物騒な事になっちゃったんですか?」



 私はなんとなくわかっていたけれど、念のために聞いてみた。


「そりゃあアレよ。こいつらの親玉をぶっ殺しちゃったから?」


 ……もう、バカ!


「頭から先に潰したか! いい仕事するじゃねぇか」


 もう、みんなバカ! 脳筋っ!


「そうじゃなくて! レオナさんがここに連れてこられた理由とか、いろいろ聞き出すんじゃなかったんですか?」


「あー、そんな事もあったわね」

「まぁ後で調べりゃいいだろ」


 ダメだ、この人達とは根本的に考え方が違いすぎて反論するのも疲れる……。


 受け入れるしかない。


「って訳で、ここの連中はみんな変な力を持ってるから最初から油断せずに本気で潰しなさい。女子供も容赦しなくていいわ」


「なんでだよ。さすがに女子供は殺しちゃまずいだろ」


 女子供以外でもむやみな殺生は辞めてほしいんだけど……。言っても無駄だろうなぁ……。



「馬鹿言わないでよ。私だってそう思ったから小さな女の子を助けてあげようとしたの。そしたらそいつ中身はジジィだったのよ!? ここに居る連中はみんなヤバい思想に染まってるしガキもガキじゃないし本気で殺そうとしてくるわ」


 ……私の方が間違っているんだろうか。

 こんな所で私のような甘い考えの人間が口を挟んだらきっと迷惑をかけるんだろう。

 思ってたよりここはヤバい所だ。


「そうか。それなら……外見が子供っていうのは戦うのに抵抗あるけれど、遠慮してたらこっちがあぶねぇな。古都の民って奴は一人でも意外と面倒だったからよ」


 既にセスティ様は戦って苦い思いをした事があるらしく、二の腕あたりをさすりながらブルブルっと寒気に耐えていた。


「あんな思いはもうごめんだからな。そうと決まれば本気で殲滅だ。レオナとヒールニントはどうすっかなぁ」


「それなら私がここに強力な結界を作っておくわ。誰にも壊されない程のね。そこから出ない限り安全よ」


 メアさんってすっごく便利。沢山魔法使えるし。

 私達がさっき外に居た時にメアさんが居たら外に結界張られて閉じ込められて終わりだったかもしれない。


 だけど、今ならまだ間に合う。


「メアさん、ちょっといいですか?」


 私はメアさんに小声で耳打ちした。

 彼女は驚いていたし反対もしたけれど、私が本気なのを知って「勝手にしなさい」と呆れ顔。


「ほら、こっちの事はやっとくから貴女はさっさと戦いに行きなさい」


「そうか、すまないな……じゃあ行ってくるぜ!」


 セスティ様は猛スピードで街の中を走り回り、あちこちで爆発音が聞こえてきては建物がガラガラ崩れていく。


「ヒールニント、本当にいいの? 死んでもしらないわよ?」


「はい。構いません……私、どうしてもやらなきゃならない事があるんです」


「あっそ。でも私は貴女のボディーガードなんだから、一緒に行くわ。異論は認めない」


 メアさんってなんだかんだ優しいんだよなぁ。

 本当は一人でって思ったけど、確かに一人じゃすぐに死んじゃうんだろう。


「すいません。よろしくお願いします」


「あ、あの! 私はどうしたら……!?」


 レオナさんが一人で慌てているのを見て、メアさんはとっても面倒そうな顔をした。


 そこは面倒だと思っても顔に出さないであげてよ。ここには彼女を助けに来たんだからさ。



「えっと……じゃあ私達が助けに来るまで絶対にじっとしている事、守れる?」


「守ります守ります!」


「じゃあここに居て万が一があると困るから、結界に閉じ込めて外に放り出すわね」


 えっ、結局また外に出すの?

 さっきここに結界張るって……。


 私がそれを聞くと、

「暴れるのに邪魔だし、万が一結界壊されたら困るしそれでいいじゃん」


 と、やはり面倒そうにレオナさんを光の球体に包み込み、どこかへ転送した。

 きっと山の麓にでも転がっているんだろう。


 結界壊されたら困るし、って言ってたけど……暴れてついうっかり自分で壊さないように、の間違いだと思う絶対。



「さぁ、あの子の事はおいといて……貴方の女を見せる時がきたわよ」


「……っ、はい!」

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