聖女様は魔王のセンスを疑う。
「じゃとりあえず行きましょ」
私は、そういうメアさんの袖をぎゅっと掴む。
「……なに?」
いや、キョトンとされても困るんだけど。
「だってここ崖の下だし、上まで連れてってもらわないと……」
「あぁ、そうだったわね。貴女って凄い人だけどほんとにそれだけなのね……」
「大きなお世話ですーっ!!」
失礼しちゃう! でも私には本当にこれだけなんだから何を言われてもしかたない。
今は、凄い人だって言ってもらえただけでも喜んでおこう。
それにしても……今のメアさんの姿は今までと全然違って違和感が凄いけれどこれはこれで綺麗。
薄い水色の髪の毛、目がとても大きく宝石のような瞳をしている。
服装はメアさんのままだけど。
どこかの貴族のお嬢さんとかだったのかもしれない。
そう考えるとやっぱりお家騒動とか?
「さ、じゃあまずはどうする? ここの人達に聞き込みでもしてみる?」
「そうですね……ハーミット様の事が何かわかるかもしれませんし」
それから私達はハーミット領……現ハーミットの町を歩いて、いろんな人にハーミット様の事を聞いて回った。
結論から言うと彼の居場所に繋がる情報はどこにもなかった。
ハーミットの町は、いい言い方をすれば古き良き町並みが残っている場所で、悪く言えばとても年季の入った風景が広がる町だった。
人々に彼の事を聞くと、大抵の人達が「ああ、あの人ん家の……まさか勇者になっちまうとはね……」みたいな反応で、あまりいい感情を持っているようではなかった。
以前ここを統治していた彼のおじい様がすこぶる評判が悪く、その影響で彼の評価まで下がっているというのが聞き込みで感じたこの町の印象。
本人ではなく身内のしてきた事で評価をつけるなど愚の骨頂ではあるけれど、こういう小さな閉じられた社会だと仕方ないのかもしれない。
しかし、彼がここを出てからどれだけ苦労して勇者とまで呼ばれるようになったのかも知らずに悪口をいうような連中は滅びてしまえばいいのに、なんて思ってしまった。
人々を助ける事が私の生きる意味だった筈なのにそんな事を思ってしまうのはとてもいけない事だと思う。
だけど、今の私の生きる意味は違うのだからそれくらい思ってしまってもいいよね?
だから改めてもう一度言わせてもらう。
「こんな町滅びろぉぉぉっ!!」
「うわっ、びっくりした……どうしたのヒールニント」
町を出るなりそんな事を叫んだ私に驚いたメアさんが私の肩に手を置いて、とても心配してくれた。
「あのね、今の私の感情を例えるならば、町の住人がみんな揃ってキャンディママの悪口言ってるような感じなの」
「あぁ……今すぐ滅ぼしてやろうかしら……」
「分ってくれて嬉しいです」
「ちょっと待ってて、全員ぶち殺してくるから」
「待って、それは待って、ちょっとほんとに待って下さいってば!!」
「……何故止めるの?」
本当に不思議そうに聞いてくるから怖いこの人!
今本気で皆殺しにしようとしてたよね!?
「滅ぼさないの……?」
「滅ぼしませんっ!!」
「じゃあどうしよっか……全員半殺しくらいに……」
「しませんっ! とりあえずここは外れだったので次はセスティ様に聞いてみたいですね……メアさんもその姿だったら大丈夫なんじゃないですか?」
「……どうだろ。多分この姿でも見破る人が何人かは居るわね……念のために外に居る事にするわ。一応、魔物フレンズ王国で調べるだけ調べたら王都へ行きましょ」
そうだった。とりあえずレオナさんの事もあるし、早めに襲撃者の方を何とかしないと……。
でも今の所は死んだことになってるわけで、少しは猶予がある筈だから……まずは魔物の国に……って、え?
「今なんて言いいました?」
「だからその次は王都に……」
「いや、その前です」
「……魔物フレンズ王国で調べるだけ調べたら……」
「それ、それです! なんですか魔物フレンズ王国って……」
「あんたがこれから行く魔物の国の名前だけど……?」
……酷い国名。
だけど、考え方によってはとっても平和そうな名前ではある……のかな?
これから行く場所って……どんなところなんだろう? メアさんが今までいた場所。魔物達の王国。
魔王は人間だし、セスティ様だけど……でもほかの国民ってみんな魔物な訳でしょ?
私一人で行って襲われたりとかしないかな?
魔物に囲まれたら間違いなく死んじゃう……。
でも魔物はもう人間を襲わないって聞いたし、覚悟を決めて行くしかないよね。
本当は変装もしたんだからメアさんに一緒に来てほしかったけど、どうやらそれは無理みたいだから自分でなんとかしないとだよね。
「覚悟は決まりました。……その魔物フレンズ王国? までお願いします」
「わかったわ。でも一つだけ忠告ね、魔物フレンズ王国って国名を馬鹿にしない事。それさえ守れば生きて帰ってこれるわ」
……不安が増したんですけれども?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます