姫魔王と恐れていた事態。


 一通り主要な場所を回り終え、王国に帰ってきた私達を待っていたものは……。



「たっだいまーっ♪ ……って、あれ? アシュリーじゃんどしたの?」


「あ、あぁ……あんたを待ってたんだよ。そろそろ帰ってくるだろうってロザリアが……」


 ああ、そういえばロザリアには彼の家を作り直してもらったからね。

 一通り終わってるの知ってるからそろそろ帰ってくるって伝えてくれたのかな。


「それで? わざわざ待ってるって事は何か用事があるんでしょ?」


 アシュリーはなんだか言い出しにくいのか、私から顔を背けてしまう。


「どしたの?」


「いや……ここで話していいものかどうか……」


 アシュリーにしては珍しく歯切れが悪いなぁ。



「そんなに他の人がいると言いにくいような事なの?」


「いや、別に……遅かれ早かれ分かる事なんだがどちらかというと私が言いにくいというか……」


「どうしたんですかお姉ちゃん。私も気になりますし教えてほしいです。何かあったんですか?」


 ナーリアもアシュリーの違和感に良くない事がおきてると気付いたようだ。


「……そうだ、な。分かった……とりあえず先に皆に言わせてくれ。すまなかった。本当に申し訳ない」


 アシュリーがこれでもかってくらい頭を下げた。

 あのアシュリーが。


「ど、どどどどうしちゃったんですか!? お姉ちゃん」


 これは異常事態だぞ。


「まさかアシュリーに渡したザラに逃げられたとか……?」


「いや、ザラはもうある程度調教済みだから心配いらないんだが……」


 ちょっと待って。調教って何?


「少なくとも私とクワッカーには逆らう気力もないだろうよ」


 こっわ。いったい何をどうやったらこんな短時間で……。


「でも、だったら他に何があったっていうの?」


「……ロザリアが……」


 ロザリア? ロザリアに何かがあったの?


「メアリー・ルーナが消えた」


「なんだと!? アシュリー、どういう意味だ説明しろ」


 一瞬で頭がヒヤっとした。

 アシュリーはロザリア、ではなくメアリー・ルーナが消えたと言ったのだ。


「わ、悪い……私はあれからずっと考えていたんだ。本当に魔族王はメアなのかって」


 アシュリーは聡いからな……こんな事ならこいつにだけは説明しておくべきだった。


「それに以前マリスの中に居たロザリアとはあまりに違ったから……」


「それで本人に聞いたのか!? お前はメアなんじゃないかって?」


「ごっ、ごめん……悪かった……。今思えばセスティに確認するべきだったんだ。それに、個人的にはあまり気が進まないがショコラにも……多分あいつは気付いていた筈だから」


 そうだろうな。ショコラは俺達の事について一番理解している筈だ。


 俺かショコラに一言言ってもらえたらそれで済んだかもしれないのに……。


 いや、アシュリーを責めてもしょうがない。

 俺が説明しなかったのも悪い。

 めりにゃんや、アシュリー、そのほか俺の身近な仲間だけにでも独断で教えておくべきだった。


 ロザリアの正体が分かったからって、それを理由に今までの事をすべて無かった事にして排除しようとする奴は居ないと信じてる。


 あいつは過去の過ちをきちんと理解していたし、だからこそ苦しんでいた。

 あいつがしてきた事は本来許されるような事ではないと、あいつ自身が一番理解していたんだ。


 ……だけど今回の事はメア本人の責任だってあるぞ。

 俺は言った筈だ……。罪を隠せば辛くなるだけだってな……。


「ごめん……本当に、ごめん……まさか突然居なくなるなんて思ってなかったんだ。私は別に……追い出したかったわけじゃ……」


 俺は余程怖い顔をしていたのだろうか。

 アシュリーが目の前まで来て、袖をひっぱりながら俺の顔を見上げ、泣きながら謝り続ける。


 ……はぁ。分かってるよ。


「大丈夫だ。アシュリーのせいじゃない」


 涙でぐずぐずになっているアシュリーの頭を優しく撫でる。

 意外とこいつもメンタル弱いんだなぁ……それとも俺を怒らせるかもって事を気にしてるのか?


「アシュリー、それにみんな。あいつはロザリアなんかじゃない。メアリー・ルーナ……俺達が戦ったあのメアだよ」


「なんじゃと……! だって魔族王はメアだって名乗っていたんじゃろうが!」


「めりにゃん、あれはアルプトラウムにメアだと思い込まされているロザリアだ」


「あっちがロザリアじゃというのか……? やはり、あの時の違和感は正しかったのじゃな……」


 アーティファクトの貸し借りの話で誤魔化しはしたが、あの時めりにゃんも気付きかけていたからな……。

 遅かれ早かれこうなる運命だったかもしれない。


 だからこそ、俺がもう少しうまくフォローしてやるべきだった。


「待って下さい……整理させて下さい。つまり、姫の身体に入ってニポポンから旅をしてきたのがメアだったという事なんですよね?」


 少々ややこしくなってきたのかナーリアが頭を悩ませている。


「という事は、あのサクラコさんって人やカエルの人と旅をしてきて、あの時ローゼリアで神と戦っていたのもメア……。本人もその記憶は残っているんでしょう?」


「ああ。奴は魔王の記憶と、プリンとしての記憶を持っていて、葛藤していた……おそらく自分がメアだと気付かれて、みんなにどんな顔していいか分からなくなって逃げたんだよ」


 意外な事に、真相を聞いたナーリアは激怒した。

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