姫魔王は情緒不安定。


「わ、我であるか!?」


「そうよ! こんな所通れるのらいおん丸くらいでしょ? とりあえずさっと中を調べてきて。リュミナって人の無事だけでも確認しないと。もし誰も居なかったら無理矢理押し通る」


 ザラもまさかここから中に入ってくる奴がいるとは思わないでしょ?


 らいおん丸に調べてもらって、中にザラが居れば即乗り込む。

 いなければとりあえず中に入っていろいろ調べる。


 万が一リュミナって人が中に居た場合、呼びかけに答えないのはおかしいから何か理由があるかもしれない。

 それも調べてもらおう。


「偵察任務、重要だよ? 出来る?」


「わ、我はきっちり仕事をしてみせるのである!」


 らいおん丸はそう言いながらドアの脇についている小さな動物用の入り口をくぐっていく。



「まだやろか……?」


 まだ入って二分も経ってないよ。

 でも待ちきれないのはろぴねぇだけじゃなく、めりにゃんも俺の手を握る力が強くなっているし、ナーリアなんてわかりやすくソワソワしている。


 ……まだかな。


 バンッ!!


 小さいドアの方が勢いよくあいて、ゴロゴロと何かが飛び出してきた。


「た、たたたた大変なのである!!」


「どうだった? 慌てずにちゃんと報告して」



 私はまずらいおん丸を落ち着かせる事にした。

 慌てて言葉足らずだと妙な行き違いがあるかもしれないから。


「き、ききき金髪の人間が倒れているのである!!」


 ドガァッ!!


 私はらいおん丸の言葉が終わる前に、ドアをぶち破っていた。


 私は、どうしてか分からないけど、一瞬で誰よりも冷静さを失っていた。


「どこ!? どこにいるの!?」


 もしここに住んでるのがリュミアだったら?

 リュミアがザラに殺されていたとしたら。


 私は、どうしたら……。


 鼓動が早くなる。

 なんだか息苦しい。


「む、向こうの部屋なのである!」


「リュミナさん! 大丈夫ですか!?」


 背後からイムライもどたどた追いかけてくるのが分かるけど構ってられない。


 そして……。


 らいおん丸が頑張って開けたらしきドアの隙間から、綺麗な金色の髪が……。


「リュミナさん!」

「リュミア!!」


 私が部屋へ飛び込むと、ベッドの脇にその身体が転がっていて、髪の毛が床に広がっていた。


「リュミアっ!! リュミアしっかりして!!」


 微かに身体が上下している。


「まだ息がある!! 回復魔法を……!」


 必死に私は回復魔法をかけるが起きる気配は無い。


「なんで? 起きてよ……!」


「落ち着け! この人はリュミアじゃない! リュミナさんだ!! それに……どこも怪我なんてしてない」


 ……へっ?


 確かによく見るとリュミアより線が細いような気がする。

 というか華奢で、とても元勇者とは思えない……。


「リュミアじゃ……ない?」


「その人は女性だよ」


「女? リュミアが女……?」


「落ち着けって。リュミアじゃないんだ。君と違ってれっきとした女性だよ」


 ……リュミアじゃ、ない。

 リュミアじゃ……。


 落ち着け。

 深呼吸しなきゃ。


「セスティ……しっかりするのじゃ!」

「セスっちどうしたん!?」

「私……私は……」


 いや、しっかりしろ。

 やっぱりこんな所にリュミアは居なかった。

 偶然似たような身長で、金髪のリュミナって女が居ただけだ。


「姫……まさかその方、勇者リュミアだったのですか?」


「いや、人違いだ。慌ててしまってすまない。俺はもう大丈夫だ」


 俺の様子がおかしくなったのを見て皆が狼狽している。

 もっとしっかりしないと……。


「少しは落ち着いたか?」


 イムライが俺の肩をぽんぽんと叩く。



「あ、あぁ……取り乱してすまん。でも怪我も何も無いならこの……リュミナ? さんはどうして……」


「いや、それが……このリュミナって人は」


「ぐごがぁぁぁぁ……ずびびびび……んぁ……もっと酒もってこぉぉい! ……ふひひ……」


 ……あぁ、説明はもういいや。大体分かった。


「御覧の通りでね、非常に酒癖が悪い」


「あ、そう」


 説明しなくていいってば。


「おいメディファス。反応は本当にこの家からなのか?」


『肯定。間違いありません』


「セスティ殿! こちらに来てほしいのである!」


 ライゴスがまた何かを見つけたようだ。

 っていうかさ、ライゴスが最初に女の人が倒れてるって言えば俺は勘違いしなかっただろうし、そもそも生きてるのか死んでるかをちゃんと調べておいてくれたらそれで済んだんだ。

 まぁ急に人が倒れてるのを見たら錯乱するのも分かる気はするが……。


 ライゴスはどうも事実確認みたいな事をおろそかにしがちなんだよな。

 そのせいで俺はどうでもいいドキドキを味わう羽目になってしまったじゃないか。


 未だにリュミアが絡むと精神状態が安定しないのはなんなんだ?


 俺はまだリュミアに何かを期待してるのか?


 何処で何をしているのかも分からず、一切俺達の前に姿を現しもせず、おそらく今この世界で起きている問題も何も理解していないであろうリュミアに何を期待してるというんだ。


 もう俺は一人では無いし、本来の身体だって見つけた。

 一時は元の身体に戻る事さえできた。


 今世の中には新しい勇者とやらもいる。

 何と言ったか、確か……そう。


 勇者ハーミット。


 ……ハーミットだぁ??

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