魔王の嫁はセクハラ爺をこらしめたい。


「フェイテバリス帝国復興の為に儂らは自分達の物であった土地を返上してもらわねばならぬ。エルフを襲ったのではない。儂等の土地に勝手に住まう不届き者を追い出しただけじゃ」


 老人が語る内容は儂が幼い頃に父上に聞いたおとぎ話に出て来た話と同じであった。


「メリニャン、あいつが言ってる帝国ってまさか……」


「そうじゃ。さすがじゃのう……推測通り、かつて神の使い達が住んでいたという帝国じゃな。詳しい場所などは一切分からぬし、おそらく人間達は知らぬであろうよ」


「そんな過去の遺物が今更なんの用だ? ジジィが神の使いだとでもいうのか?」


 アシュリーが老人を睨みつけると、奴は少しばかり真面目な顔をして言う。


「お前たち……思いのほか事情を知っているようじゃが何者だ? どのみち殺すが少々興味がわいてきたぞい」


「うるせぇ。私らの事なんてどうでもいいんだよ。ジジィはあの糞神の手下かと聞いている!」


 彼女の言葉に老人は目を剥き出しにして放心してしまった。


「な、なんじゃ……と? 今、お主なんと言いおった?」


「はっ、当たりかよ。自分が仕える神様を糞神呼ばわりされて怒ったか? ざまぁねぇな」


「違う、そんな事ではない! 小娘……この時代に神を知っているとはどういう……? まさか、まさかまさかまさか、現存神がおられるとでも!?」


 ……様子がおかしい。アシュリーもそれには気付いたようで、ニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。


「小娘! 答えろ!!」


「なんだジジィ、お前神様に仕えてる癖にお前自身は会ったことも無いのか? 笑えるな」


「ぐぬぬぬ……っ!! どこだ、神はどこにおられる!?」


「知るかボケ! あんな糞神の居場所なんてな、仮に知ってたとしてもお前なんかにゃ教えねぇよ」


「……ふっ、ふふふっ。まぁよい、今は現存神が残っておられる事だけでも十分な収穫よ!! 小娘、お主のおかげで計画は数段早く進むぞい。居る事が分かれば探す事が出来る! 見つける事が出来れば必ずや儂らの力になってくれるはずじゃ!」


 ……何やら面倒な事になって来た。あのアルプトラウムがこやつに協力するかどうかはさておき、儂らの敵である事は確定したようじゃ。


 ……待て、ショコラはどこじゃ?

 アシュリーも儂の視線の意味に気付き、周りを見渡すが、どこにも居ない。


 まさか今度はショコラを置いてきたわけではあるまいな?


 無言で訴えると、焦ったように首を横に振る。どうやらそういうわけでは無いようじゃ。

 とにかく、現状儂とアシュリーだけでこの老人をどうにかせんといかん。


「そこの老人、お主名前はなんというのじゃ? 儂は魔王が妻、ヒルデガルダ・メリニャンである! 名を名乗るのじゃ!」


「……魔王、の妻ぁ? なるほどなるほど。やけに事情に詳しいと思えば……魔物風情に、と言いたいところじゃが魔王の妻と言うのであれば最低限の礼を尽くしてやろうではないか」


 偉そうに……こやつは本当に神の眷属なのか? しかもアルプトラウムの事を知らないという事は別の神に生み出された?

 ……いや、まさか本当に帝国の生き残りか……? 神話の時代の話じゃぞ??


「儂の名はモラヌ・ジャボン・グッシーネ。偉大なる神々に仕えし古都の民の末裔である。……覚えなくてもよいぞよ。すぐに死する運命じゃからのう」


「そうかよ。じゃあ私はアンタの名前なんか覚えないようにするぜ。どうせすぐ死ぬからな……アンタが」


「ほっほっほ。小娘がいいおるわい……ほれ、揉んでやるからかかってこい」


「その小娘相手に揉むとかセクハラジジィここに極まったな」


 アシュリーが馬鹿にするようにモラヌを笑う。


「愚かな小娘よ……今の軽口を後悔させてやるぞい。……しかし、まぁ確かにお主ら見てくれは悪くないのう? 死する前にその身体の隅々まで弄んでくれようぞ」


 うげぇ……このモラヌとかいう老人、本格的にセクハラジジィと化しおった。


「きっめぇジジィだな……よし、お前はぶっ殺す。確定だ」


「やれるものならやってみるがいい。ほれほれ」


 モラヌがこちらに手を翳すと、地面から大量の銀色の液体が奴の前に現れ、だんだんと巨大な虫の形に変わっていく。


「なるほどな、あの虫どもも生体金属だったのか……興味深いな」


「関心しとる場合か! アシュリー、一気にやるぞ!」


「分ってるよ!」


 アシュリーは一撃で決めるつもりらしく膨大な魔力を込めた雷の球体を頭上に精製。それをモラヌと虫に向けて放った。


「ば、ばかもの! あんな物ぶつけたら山が吹き飛ぶぞ!!」


「メリニャンなら自分で自分の身くらい守れるだろ! 私はあのジジイをぶっ殺すと決めたんだ!!」


 んな横暴な……。


 直撃の瞬間、儂は三重に仕立てた防壁を張り、衝撃に耐えようと……したところで雷球はバリバリと音を立て空気に溶けて消えた。


「儂に魔法は利かぬのよ。全ての構成要素が儂には手に取るように分かる」


 一瞬で魔法の構成を分解したじゃと……?

 儂も反する属性の魔法で打ち消す事は可能じゃが魔法その物を分解するなどと……。


「お主等どう見ても魔法以外はからっきしじゃろう? ふふふ……魔法が効かぬのでは勝負あったな。さあ、お別れじゃ!」


「うん、さよなら」

「ほへっ?」


 モラヌは四肢を切り離され、首があらぬ方向へねじ曲がり腹部には短剣が突き刺され、そこから毒を流し込まれたのか、何が起きたのか分からぬといった表情のまま赤紫の泡を吹いて動かなくなった。

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