隠者は心から楽しみたい。


『さて、どうする? まさかとは思うがいきなり全力で叩き潰したりはしないだろうね?』


 まさか。そんな勿体ない事するかよ。


 にゃんこ……いや、きつねこ娘だったか? ふざけた呼び名付けやがってめんどくせぇ。とにかく少しは楽しまなきゃな。


『きつねこ娘は我ながらいいネーミングだと思うのだが』


 うるせぇって。


「おいおいおいおいやるのか!? やんねぇのか!? お前がやらねぇならこっちからいくぞゴルァァァァッ!! 切り刻ませろぉぉぉぉぉっ!!」


 剣の束の部分に良く見たら妙な紐が付いていて、にゃ……きつねこ娘はそれを引っ張る。

 すると刃の回転速度が速くなり、バリバリと再び雷属性を纏う。


『どうやらアレで切り替えができるようだね』


「ひひひっ、こいつもゴキゲンだぜぇぇぇぇっ!!」


 きつねこ娘は「ヒィヤッハァァァァっ!!」とかハイな叫び声をあげながら俺に飛び掛かってきた。


 試しにその刃を素手で掴んでみる。


 ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!


 おっ、これはなかなか……。


『君が掴んでも回転を止める事ができないのかい?』


 いや、そうじゃねぇよ。思い切り掴んで砕いちまったら勿体ないから加減はしてるさ。


 だけど、それでも十分な力だ。これだけの回転力と威力を出せる武器ってのは本当に聞いた事が無い。


 確かにこりゃアーティファクトって言われても納得だぜ。

 完全に破壊特化だけどな……。しかも精神汚染付きだ。

 こんな不完全な物を持ち歩いてる時点でいろいろ問題があるんだが、このきつねこ娘はきっと今の姿にはあまりなりたくないのだろう。


 アルプトラウムの記憶によれば金毛九尾というのは神の一種。

 しかもアルプトラウム達とは別体系の神……。


 少なくともアルプトラウム達神はそいつらをまともな神とは認めず、荒神と称していたらしい。


 大昔にはそんなに神ってブランドが安売りされていたのか? と疑問に思ったが、すぐに自分の中にある記憶でその答えは出た。


 神と言えど、ただこの世界に存在する力を持った存在、というだけだ。

 今ではほぼ滅びてしまった強い力を持つ存在達。人々はそれを神と呼ぶ……ただそれだけの事である。


 後の世で、強い力を持つ者達は神と崇められるか悪魔と恐れられるか、大体そのどちらかだ。


 要するにこの金毛九尾って奴も俺達とは違う場所で、違う伝承により神と認定された強者、という事になる。


『主に言い伝えられているのはニポポンやロンシャン方面だけれどね。ユーフォリアの民は知る者などいないだろう』


 奴の攻撃を素手でべしべし受け流しながら考える。


 これだけの力は有るものの、金毛九尾と言えば死んだと言われている。

 万が一生きていたとして、ここに今人間として存在する訳がない。


 すると考えられる可能性は幾つかある。

 金毛九尾を模して、それに近い力を震えるようなシステムを作った。

 ……この場合はただの偽物、見てくれだけのまがい物なのだが……。


『剣はともかくあの鈎爪の攻撃はあまり受けない方がいいよ』


 分ってる。アレはちょっと痛そうだ。


 鋭い爪には禍々しい魔力……ニポポンやロンシャンで言う所の妖力が宿っている。

 あれで傷付けられれば何かしらの異常をきたすだろう。


 勿論そんな物でどうにかなる身体では無いのだが、痛いのは嫌だし直接受けるのは無しだ。



 あの妖力を見る限りとてもフェイクとは思えない。


『ロンシャンの第一皇女シャオランという女は何か大きな研究をしていた。おそらくだが……これはフェイクではなくコピーではないかな?』


 コピーならば本物に限りなく近い。

 しかしそんな物どうやって作る?


 まさか……。


『そうだろうね。金毛九尾が力尽きた地はロンシャンと言われているから……おそらくなんらかの方法でその細胞を培養したのだろう。荒神の遺体を使ってね』


 それを人間に移植するとか狂気の沙汰だ。

 そもそもそんな大昔の遺体が残っているという事自体不自然だが……。


『不自然、ではあるかもしれないがそういうケースが考えられなくもない。例えば今回には当てはまらないだろうが氷に包まれ保存されていたりね』


 どちらかと言えばロンシャンの気候は温かい方だから自然の氷に包まれていたという事はないだろう。


 すると、恐らくもう一つの可能性……。


『……ミイラだろうね』


 死に直面した金毛九尾は洞窟などの、外敵が現れないような場所へ避難、しかしそのまま力尽きる。

 その場所の環境がもし偶然、整っていたとしたら……荒神の身体がミイラとして残っていた可能性もあるかもしれない。


『まぁ、当たらずとも遠からずと言ったところだろうね。さぁ、計らずとも神対荒神となった訳だが……君は随分楽しそうだね』


 そりゃお前もだろうがよ。


 想像以上の相手と出会い、戦闘になると言うのは自分が思っていた以上に胸がざわつく。

 胸が高鳴る。

 高揚する。


 つい勢い任せに殺してしまいそうな程に、楽しくて仕方がない。


『ふふふ……君が私で良かったよ』


 奇遇だな。俺も初めて俺がお前で良かったと思ったところだ!

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