魔王様の王国防衛戦。


 上空から王国を見渡すと、あちこちで爆発が起き、炎が広がっていく。


 その様子を見ていると、燃え広がる炎とリンクするかのように体の中から怒りの炎がわき上がる。


 しかし、私の理性が消し飛んでしまわなかったのは……各地で障壁が生まれるのが目に入ったからだろう。


 あちこちで先ほどの攻撃を防いでくれた人達がいる。

 各地で魔物達と戦ってくれていた人達だろう。

 だから、その人達が居なかった区域だけの被害で済んでいるはずだ。


 そう思うと、怒りと共に感謝の気持ちがわいてくる。


 みんな、無事でいてくれてるよね?

 そっちの消火とかは任せていいよね?


 はぁ……。深く深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そう、この国は私だけじゃない。皆が居るから……。


 だからこの国は死なない。潰れない。落とされたりしない。


 だから私は目の前の戦いだけに集中しよう。


「あら、思ったより落ち着いているのね? てっきり激昂して襲い掛かってくるものかと思っていたのだけれど? それとも私が思っているよりもこの国に対する思い入れは低かったのかしら?」


「分ってると思うけれど……」


 魔族王の言葉は分かりやすい挑発だ。しかし、わざわざロザリアが私を気遣ってくれたのは意外だった。


「大丈夫。この国は大丈夫だから」


「……あっそ。ならいいわ」


 とりあえず私がやるべき事が何かっていうのを見誤る所だった。


「ねぇ、もう一回動き止められる?」


「出来るけど……同じことの繰り返しだからきっとさっきよりも短い時間しか無理よ」


「それでいい」


 私は魔族王の背後へ転移し背中に蹴りを入れた。


「いったいわね……馬鹿の一つ覚えのように肉弾戦ばかり……貴女はもう少し戦い方というものを……ん?」


 再び彼女の身体を茨が縛り上げる。


「まさかあの子まで馬鹿の一つ覚えを……」


「残念、今回はそれでいいんだよ」


 一瞬で十分だ。

 私は魔族王の肩にトンと触れ、そのまま先ほどロザリアが魔族達と戦っていた場所まで転移した。


「……なるほどね。私を国から遠ざける事が目的だったって事? どちらにしても貴女を倒してすぐに戻るわよ?」


「やれるもんならやってみなさい。私は今かなり怒ってるからね、簡単に倒せるとは思わないでよ」


 そう、出来るだけ冷静に、怒りの炎をコントロールしてみせろ。

 勢い任せに怒り散らしても動きが単調になるだけだ。


「ちょっと、移動するならそう言っておきなさいよ! どこに行ったかと思ったじゃない」


 ロザリアが遅れて転移してきた。


「貴女もちゃんとすぐに到着したじゃん。見つけられると信じてたから置いてきたんだよ」


「あっそ。信頼してくれてありがとうとでも言えばいいのかしら?」


 ほんとにロザリアは私を下に見てるような感じがある。

 別にそれはどうだっていいんだけど、一緒に少し戦ってみた感じ、本当に実力は大したものだ。


 きっと私一人でどうにもならない相手だとしてもロザリアが協力してくれればなんとかなる気がしてくる。


「とりあえず貴女に強化魔法かけてあげるから一気にやっちゃいなさい。もう身体壊さないようになんて甘い事言うんじゃないわよ」


 そう言ってロザリアが私に何か魔法をかけてくれたのだが……。


「うっわなにこれ……これならやれる気がしてきた!」


「だといいけどね」


 そう言ってロザリアは自分自身にも同じ魔法をかける。


「じゃあ同時に行くよ!」

「はいはい」


 私が真正面から魔族王へと魔法を放ち、それを受け止めた所へロザリアが背後から切りかかる。

 あれ、あの剣今までどこに持ってたんだろ?

 どこか異空間にでも収納してたのかもしれない。


 剣での攻撃を直接受け止めるのは嫌だったのか魔族王が身体をそらしてかわす。その隙に脇腹へ思い切り回し蹴り。


「二人でちょこまかされると鬱陶しいわね……」


 彼女は私の足を受け止め、膝のあたりにちょんちょん、と指を這わせる。

 それだけで私の足は穴だらけになってしまった上に、妙な毒を流し込まれたらしく修復に時間がかかっている。


「よそ見してる場合?」


 ロザリアがいつの間にか上空に作り上げていた大量の氷の矢が魔族王へ向けて降り注いだ。


 その下方に落下していた私にもかなりの数の矢が降って来た。


「あわわわっ!! 数多い痛い何これっ!!」


「バカ! なんで貴女までくらってるのよ!」


 仕方ないじゃんか! 丁度私が下に落とされた時にそんな攻撃してくる方が悪い!!


「くっ……!?」


 上空を見ると、私と同じように魔族王が矢に貫かれ、刺さった部分から身体が凍り付いている。


 私もそれで今めちゃくちゃ痛い思いをしてる訳だけど、本当だったらこの隙に追撃をかけられたのに……。


 私はとりあえずこのままだと邪魔になっちゃうので気合で上空に転移しつつ身体に刺さった矢を全部引っこ抜いて身体を修復した。


「仕方ないわね……」


 そんな様子を見ていたロザリアが呆れたように呟き、自分だけで魔族王へと追撃。


 先程の氷の矢を今度は風魔法と共に、勢いを増して魔族王へ放つ。


「その魔法はなかなか面白いけれど……もう遊び相手をするのも飽きて来たわ。二人がかりでその程度ならこれ以上期待するだけ無駄ね」


 追撃をことごとくすり抜けながら魔族王はロザリアに迫る。


 目の前まで迫った所でぴたりと魔族王が止まり、


「……障壁を細かい網目状に張り巡らせてるの……? 気付かず突っ込めば細切れってわけ? こんな質の悪い障壁よく思いつくわね」


 と眉間に皺を寄せながら、目に見えない何かをすり抜けるように背後へ転移し、ロザリアの背中に指を突き立てた。


「内側からじわじわ石にしてあげるわ」


「残念だけど私そういうの効かないのよ」


 ロザリアが笑いながら魔族王の腕を引きちぎった。


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