お姫様と邪魔な強い人。
私が魔族達と戯れていると、その場に足を踏み入れる人の姿があった。
……何? こんな所に、このタイミングで旅人がくるなんて事もないでしょう?
可能性がゼロとは言わないが、少なくとも遠目にもここの魔族や、王国を攻める魔物の大群は視界に入る筈。
それでもここへ向かってくるという事は……敵?
「久し、ぶりだな……姫」
「えっ?」
そいつは魔族達など一切目もくれずに私の元へ向けて歩き続けた。
私を姫と呼ぶ時点でこいつはプリン・セスティの仲間といったところだろうか?
それにしても、この状況でこの落ち着きようはなんだ?
違和感を感じる。
この状況でも生き延びる自信があるのか……それとも、魔族自体に脅威を感じていないのか。
「……しばらく会わないうちに、雰囲気が、変わった……いや、……お前……」
どうする? 私がプリンの振りをする事に意味があるとは思えない。
だとしたら、こいつは敵か? 味方か?
「……いったい、何者……だ?」
「貴方に言っても仕方ないでしょうが、私はこの身体の持ち主、とだけ言っておきましょう。それで伝わるかしら?」
「……ローゼリアの姫君、か……?」
これは話が早い。ある程度の事情を把握している人ならば……。
「今この王国は人造魔物の大群と、魔族に襲われているわ。貴方のいう姫はプリン・セスティでしょう? 彼はじきに現れる。そして……この国を救う事がそれに繋がる……だから」
「言われずとも……、俺、はこの国を、守る……大事な人が中に、いるからな」
魔族達は突然現れた大男を、中心へと招き入れる。私ともども打ち滅ぼす為に、輪の中へ入れてしまった方が好都合だと思ったのだろう。
「貴方……戦力的には期待してもいいのかしら?」
「無論、心配……要らない」
そう言われても会った事も無い人の事だし完全には信用しきれない。
それにもしこの人に死なれて後々面倒な事になっても困るしなぁ。
正直なところ邪魔だった。
私一人だったらどうにでもなるのに、こいつの事を気にしながら戦わなきゃならないってなると結構なハンデ……。
どぼがんっ!!
その巨漢に、一人の魔族が襲い掛かったが、一撃の元に消し飛んだ。
「……強いのね、貴方」
「愛故に……俺は強くあらねばならぬ……」
うわぁ……こういう人苦手だなぁ……。
でも破壊力には一切問題なさそう。
ただし、それは当たれば、であって……動きが遅すぎる。
「貴方の強さは分かったけれど、貴方に死なれてはいろいろ困るし……不本意だろうけれど力を貸すわ」
私はその巨漢、拳闘士に素早さが上昇する魔法をかけた。
正確には身体の重さを限りなくゼロにする魔法を。
「む……これ、は……」
「体重が乗らないなんてこともないから安心して。あくまでも貴方が自分の身体の重さを感じなくなってるだけよ」
「ふん……余計な事、と言いたいところだが……早く倒して会いにいかねばならん人がいる……!」
それだけ言うと、その巨漢はまるで小動物のように身軽に魔族達の間を駆け抜け、彼が通り過ぎた所にはぽっかり穴ができた。
要するに、道を塞いでいた魔族は粉々になっていた。
……思っていたより強いな。
でも……今の一瞬で三匹持っていかれた……。
ちょっとやりすぎじゃない?
私の楽しむ分はちゃんと取っておいてもらわないと……それにこいつ、どこかに急いでるみたいだからほっといたら全部殺されちゃう。
「ねぇ貴方、誰かの所へ行きたいのよね? その人どこに居るの?」
「む……? おそらく、皆が避難している場所に一緒に、居る……はず」
「そう、じゃあ城の中ね。貴方を城の前まで転移させてあげましょうか?」
「それは助かるが……ここの魔族はどうする?」
「あのね、もともとここの魔族達は私が遊んでやろうと思ってここに連れてきたの。だから一人で十分なのよ」
「……しかし」
あーもう。私なら大丈夫だって言ってるのになぁ。
「もう面倒だから城まで勝手に転移させるね?」
「ま、待て……」
「あっちにも沢山の魔物が襲ってきてるから、貴方はそっち担当してよ。その方がバランスいいし、守りたい人を近くで守ってあげて」
「……うむ、かたじけない」
かたじけないとかどこの人だよ。ニポポンでしか聞いた事ないって。
とりあえず私はまだ何か言いたそうにしてる男の人を城まで転移させた。
……あ、まだ名前も聞いてなかったけど結局あの人なんだったんだろう?
敵じゃないなら別にいいけどね。
「さぁて、ちょっとトラブルがあったけれど気を取り直して楽しみましょう? それと念のためにもう誰もここから出入りできないようにしておくわ」
私達が居るこの空間に広めの結界を張る。
城のやつほど強力なのじゃなくて、ただ出入りを禁じる為の簡易的なやつ。
「これで邪魔者は入らないから……あと三十匹くらいはいるわよね? ほら、私が遊んであげるからかかっておいでなさい」
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