魔王様と赤い巨竜。
「あ、あの……メア?」
「んー? どうしたの? さすがにこの量の魔物相手だからビビっちゃった?」
ナーリアちゃんは私の後ろを歩きながら、ちょっと眉間に皺を寄せながら、私に質問を投げかける。
「それは……勿論あります。ですが、それより気になっているのが、どうして私などをお供に選んだのですか? おそらくあの中では一番戦力的に……」
あぁ、なんだそんな事を気にしていたのか。
「ナーリアちゃんは自分の事を低く見過ぎだと思うな。少なくとも私はすっごく頼りにしてるし、後ろにいてくれたら心強いよ?」
「で、でも私は……一人では弓矢が……」
「だったら尚更でしょ?」
彼女は「えっ?」と不思議そうに眼を丸くした。
「だってさ、私ほら、死なないし。ぶっちゃけ一人でも何とかなるとは思うよ? だけど一緒に戦ってくれる人が居た方が楽しいし心強いでしょ? それに前に居るのが私ならナーリアちゃんは余計な事気にせずどんどん矢を放てる。一石二鳥じゃない?」
「……ぷっ」
笑った。
というか噴き出したな?
「ちょっと、なんでそこで笑うの?」
「あー、いえ、すいません。なんだか姫と話してるような気がしてしまって」
「姫ってセスティって人でしょ? 取り込んだ時にもしかしたら私の中にその人が少し混ざっちゃったのかもね」
そんなふうに、ただ冗談を言っただけだったのだが。
「それは意外と正解なのかもしれないですよ? だって本当に今の貴女は私の知っている魔王メアではなく、私が尊敬している姫のよう。……でも貴女を他の誰かに重ねるなんて失礼でしたね。すいません」
別にそれはどうでもいいんだけどさ。
「そんなに似てる?」
「ええ、外見が似てるのもあるかもですけど、どちらかというと考え方や思い切りの良さ、そしてなんだかんだと人がいいところですね」
人がいい、と言われてもピンとこないなぁ。
魔王がいいの方がしっくりくる。
私はすぐにヒルダさんに魔王を返上するつもりだったけれど、彼女はどうやら魔王として戻る気はないらしい。
そのまま私に押し付けてきたのはちょっとどうかと思うんだけど、少しほっとしてる自分も居るんだよね。
私はこの国が好き。
この国に暮らす人達、魔物達が好き。
だから、私が魔王で居られるのならばそれはとても嬉しい事なんだよ。
まだこの国に居ていいんだ。みんなと一緒に居られるんだ。ってさ。
「その姫のおかげで今の私が有るって言うなら……感謝しないとね」
「しかし、もし姫がここに居たら今の貴女を見て何と言うでしょうか。想像するとちょっと面白いです」
そこまで言って、彼女は少し寂しそうな顔になった。
そうだった。私は馬鹿か。
姫のおかげで今の私がある? それをこの子に言う事の意味が分かってなかった。
だって今、その姫は……。
「実際、姫は今どうしているのでしょう……? あの身体に入っているのが姫だとばかり思っていたので……それが違うとなって、どこに行ってしまったのかが不安です」
そう、食堂に現れた彼女は姫じゃなくて、ロザリアだった。
という事は、依然として私の中に取り込んだままの可能性も出て来てしまう。
そしてもう手遅れという可能性だってある。
ロザリアがやってくるのがあまりに突然だったから失念していた。
これはナーリアちゃん達だけの問題じゃない。
私が、この先この国を纏めていく資格があるかどうかという問題にも発展してしまう。
少なくとも、本当に姫、セスティを助ける事が手遅れで、不可能だったとしたら……。
私はこのまま皆と一緒にいるなんて出来ない。
きっとナーリアちゃんの顔を見るたびに胸が苦しくなるだろう。
だから、心から願う。
みんなの姫が、プリン・セスティが無事でありますように。
「その辺の詳しい話もロザリアに聞かないとね。あの子は何か知ってるみたいだから」
「……そう、ですね……。だから、その為にも……」
うん。今はそれを最優先に考えないとだよね。
「さっさと姫を見つける為にも、こんな本番前の些細なトラブルさっさと片付けてしまいましょう!」
「はい! 私も微力ながらお手伝いいたします!」
うん、ナーリアちゃんもいい顔になった。
この顔を絶望に歪めたくはない。
この戦いが終われば必然的に答えが出るだろう。
ロザリアがどこまで知っているかにもよるけれど、きっと何かしらの答えが出る。
もし私を犠牲にする事で姫を取り戻す事が出来るなんて事になるなら、私は躊躇わずにこの身を差し出そう。
ナーリアちゃんには内緒でね。
この子が一番気にしそうだから。
だから、とにかくどんな手段を使ってでも私に出来る事をする。
プリン・セスティを取り戻す。
「メア! あれを見て下さい! 何か大きいのがきます!!」
視界を埋め尽くすほどの魔物の大群が迫っているが、その上空を大きなドラゴンが飛行して突っ込んでくる。
「ガハハハハッ! 俺様はギルガディア! 貴様が魔王か! 手合わせ願おうッ!」
そう言いながら真っ赤なドラゴンが私目掛けて突進してきたから思い切りビンタしてやった。
「ぶぼげらぁぁぁあっっ!!」
勢いが治まらずその巨体が地面をごろごろ転がっていって百メートルくらいで止まる。
頭は私の足元近くに転がってるけどね。
「うわーびっくりした!」
「……多分びっくりしたのはあちらだと思います……」
ナーリアちゃんが頭だけになったドラゴンを指さした。
「えっと……げるなんとかさんごめんね?」
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