第八章:悪という存在。
魔王様とお姫様。
「へぇー。じゃあナーリアちゃんまでその姫って人探しに行っちゃったの?」
「そうなんです……私を置いて行ってしまいました。ぐすん」
なんだか私が寝てる間にいろいろ騒ぎがあったらしい。
勝手にどっか行っちゃってたショコラから連絡が入って、どうやら姫って人と一緒に居るって事が分かった。
それで、なぜかヒルダさんだけ呼び出されて行っちゃって、ナーリアちゃんが大荒れ。
その後アシュリーまでどっかいっちゃって、
「きっと姫の所に行ったに違いないです!」って騒ぎになったらしい。
食堂でしょんぼりとご飯を食べてるステラちゃんが居たから隣に座って話しかけてみたらこんな事があったって教えてくれた。
「ナーリア様ったら私よりその姫の方が……ぐすん」
こんな可愛らしい女の子を泣かすなんてナーリアちゃんも罪な女だなぁ。
「泣いてちゃだめだよ! 常に帰ってこれる場所としてどっしり構えてなくちゃ。むしろこの人無しじゃ生きられないって思わせるんだよ!」
「メアさん……! 私、私……そんな存在になれるでしょうか?」
「なれる! 絶対になれる! おーいアレクのおっちゃんこっちにラーニンとジャーハン! あとブリンとバフェね!」
「おっちゃんと呼ばないで下さい!」
食堂の厨房に向かって大声で注文すると、アレクさんが文句言いながらでかい鍋をぶんぶん振り回し始める。
あれからアレクさんは魔物フレンズ王国専属の調理師長に採用した。
なにせ料理が美味いし人に教えるのも上手。本人も料理作るのが楽しくてしょうがないみたいだからウィンウィンってやつだね。
「め、メアさんそんなに食べるんですか?」
「違うよ。二人分、私が奢るから二人でパァーっと食べて元気出そう!」
「メアさん!」
「ステラちゃん!」
ひしっ!!
そんなこんなで私達は女の友情を深めたのである。
「よっしゃ燃えて来たぜ! いつか絶対俺にっ夢中にさせてやるからなっ!!」
ステラちゃんは突然目に炎を宿し、人が変わったようにオラつきながら、目の前に到着した山盛りジャーハンを胃袋に放り込んでいく。
私はこの子の事を応援してあげたいんだけれど、こういう所がちょっとだけ不安です。
結局その日の夜になって皆帰ってきた。
「まったく! これはわしらに対しての裏切り行為なのじゃっ!!」
「その通りです! ショコラだけが姫を独占して二人でどこかへ行ってしまうなんて……!」
「うるせぇなぁ……そんな事より奴等がどこに行ったか考える方が先だろうが」
「おおすげぇここが魔物の国か!? 思ってたより平和そうだなぁおい! てかアレクじゃねぇか!! コック帽被ってやがるわはははははははははっ!! 腹いてぇ!!」
「また喧しいのが来てしまいましたね……」
「なんと聖竜殿が居るとは驚きですぜ。ご無沙汰しておりやす」
「おお、ゲッコウ殿ではないか! これは久しい。ご健勝であったか?」
……これである。
もうなんていうかわっちゃわちゃ。
サクラコさんって人とゲッコウとかいうカエルの人はそれぞれアレクさん、聖竜さんと知り合いだったみたい。
急にアシュリーとナーリアちゃんが知らない人連れてくるから何事かと思ったよ。
「しかしこの人が今の魔王かい? 確かに姫にそっくりだなぁ」
「あっしの事を覚えてねぇんですかい? 姫さんと同じで記憶がねぇんですかね」
「ちょ、ちょっと待って一人ずつ喋って。とりあえず私が魔王のメアリー・ルーナですはい。んでその姫って人と似てるのは一応自覚してるんだけど外見が一緒なのはいろいろ事情あるんだよ。んでついでに言うと記憶は無い」
私がここで目覚めてから今に至るまでの経過を一通り説明したんだけど、これも何度目かなぁ。ちょっと疲れた。
「とりあえず姫がどこ行ったかわからねぇからあたしらもしばらくここにやっかいになるけど大丈夫か?」
「あ、それは全然おっけー♪ サクラコさんとゲッコウさんだっけ? これから宜しくね」
二人との挨拶もほどほどに、とりあえず今後の事を打ち合わせする事にした。
「姫とショコラの行き先に心当たりがある奴……は多分いないだろうな。あの二人だけでどこかに行ってしまう理由から攻めるしかないな」
そういうのを考えるのはアシュリーに任せればいいか。私が考えたって答え出ないし姫って人の事よく知らないしね。
「しかしあの兄妹だけでどこへ行くと言うんじゃ? もし記憶が既に戻っていると仮定するとどこが考えられるじゃろうか?」
「えっ、記憶戻ってるの!?」
つい口出してしまった。
だって私と同じような状況の姫って人が記憶取り戻してるっていうのは結構重要事項だと思う。
私は取り戻したいとは思わないし記憶戻ったら逆にまずいタイプだけどさ。
「あぁ、遺跡の中で剣のアーティファクト直して、新しい神様も出て来てな。なんやかんやあって姫の記憶の封印自体は解かれたらしい」
ちょっと待ってよ。アーティファクトが直って記憶の封印が解けたっていうのはいい事なんだろうけどさ、新しい神様っていうのはどういう事だ。
「ねぇ、神様って……」
私がそう言いかけた時だ。
外が騒がしくなり、扉を開けて二人の女性が食堂の中へと入ってくる。
私達と目が合うなり、ショコラと一緒にやってきた来訪者……、皆が【姫】と呼ぶ彼女は覚悟を決めたかのように呟いた。
「……みんなに、大事な話があるの」
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