ぼっち姫、過去の片鱗。


「だったらこれを直すのにはどこへいったらいいのかな?」


 エルフの森に行っても意味がないんだったらちゃんと直せる場所教えてもらわないと。


「先程も言いましたが然るべき場所でないと難しいですわ」


 その然るべき場所ってのがどこかを聞いてるんだけど……。


 私の視線の意味にすぐ気付いてくれたのかシリルがその先を説明し始める。


「アーティファクトというのは本来私達がどうにか出来る類のものではないのですが、それが可能な場所というのもありますの」


「それはかなり特殊な場所って事ですかい?」


 カエルさんがなにやら口をパクパクさせながら会話に入ってきた。

 別に今割り込んできてもカエルさんが何か知ってるって事はないだろうにねぇ。


「そうなんですの。例えばアーティファクト工房。これがアレば一番手っ取り早いんですけれどおそらくもうこの時代に存在してないと思うので、それ以外ですとサポート型のアーティファクトを利用して修復するしかありませんわ」


「サポート型……アーティファクトを直すのにアーティファクトが必要なの?」


 そりゃめんどくさいなぁ……でもさっきは場所って言ってたよね?


「サポート型のアーティファクトを用いて破損個所と破損具合を確認して、安置所にて修復いたしますの」


「安置所ってなに??」


 それだけ聞くとただ置いておく場所みたいだけど……。


「それはそのままの意味ですわ。その剣はどこで手に入れたんですの? それが有った場所に行けばいいのですわ♪」


 ……えっと、この剣を手に入れた場所……?


「ごめん、それ私知らないや。ショコラは知ってる?」


「……合流した時にはもう持ってたしどこで見つけたかは聞いた事ない」


 ショコラも知らないんじゃもうアウトじゃん。



「むしろさ、サポート型のアーティファクトが手に入ったら別にこの剣直さなくても記憶戻せるんじゃないの?」


 私がそう言うと、ショコラは少し考えてからよく分からない事を言い出した。


「……それはそうかもしれない。でもその剣はお兄ちゃんにとって大事な物の筈だからそれを直すのを優先して」


 私にとってこの剣が大事な物……武器としてって事かな?


 よく分からないけどこの子が言うならそれに従うしかない。

 必要な情報はこの子からしか得られそうにないんだから。


「おいショコラ、お前が知らなくてもこの剣の入手場所を知ってる奴に心当たりはないのか?」


「師匠……そんな事言われても知らないし。……あ」


 完全に今ショコラが何かを思いついた顔をしたけど、目を逸らして黙ってしまう。


「おいショコラ、お前何か気付いた事あるんだろ? 正直に言わないと今夜も昨日の延長戦だぞ」


「昨日の延長戦? お姉様、それはいったいどういう事ですの!? まさか私を街に放置してお二人でお楽しみだったのですか!?」


「楽しんではない」


「あんなに涎垂らして喜んでたくせに」


「師匠うるさい」


「あぁぁぁ……わたくしのお姉様が……!」


 なんだこの修羅場は。やっぱりこのシリルはショコラにベタ惚れなのだろう。

 こりゃ波乱の展開が……と思ったらそうでもなかった。


「わたしも混ぜてほしかったですわ……」


 あ、それでいいんだ……。


 私はなんというかどっと疲れてしまった。

 ここでまともなのは私だけなのかな?


 カエルさん? いや、あの人もまともだなんて認めないよ。


 ……待てよ?

 お姫様の身体の中に入ってる男で、記憶をなくして女として生きてる私は果たしてまともなのだろうか?


 そうしたら順当に考えると一番マシなのはカエルさんという事になってしまう。


 ……いや、余計な事を考えるのは辞めよう。

 悲しくなるだけだもん。


「混ぜてほしかったなら今夜は一緒に相手してやるから。ほれ、ショコラさっさと教えろ」


「今夜はシリルを差し出すから私は見逃して」


 無表情で平然と連れを差し出すショコラ。むしろ潔くて好感が持てる。


「シリルは頂くけれど、教えなければお前も一緒だ」


「待って下さいまし! お姉様が一緒でないなら私もご遠慮いたしますわっ!」


「うるせぇ! だったら教えなければ二人とも頂くまでだ!!」


「お姉様と一緒なら大歓迎ですわっ!」


「お前ちょっと黙ってろ話が進まねぇ!!」


 思ってたのと違う修羅場が展開されている。


 とりあえずシリルはショコラと一緒でさえあればなんでもいい人なんだなってのがよく分かった。


「……仕方ない。それなら心当たりを当たってみるから皆黙っててね」


 そう言うとショコラは何やらよく分からない球体を取り出すと、それに向かって話かけた。


 通信機だろうか? 結構高価な物だって聞いたけど……。


「ちょっと話がある」


『あっ、ショコラ!? 貴女から連絡くれるなんて珍しいですね……。どうされましたか?』


 通信機から女性の声が聞こえた。

 聞き覚えは……多分無い。


「お兄ちゃんが持ってたメディファスってどこで見つけたか知ってる?」


「えっ? メディファスですか……? そうですね……私が気が付いた時にはもう持ってましたね。多分ニーラクの近くだとは思いますが」


「そう。じゃあナーリアは外れだね」


「ナーリア!?」


 私はついその名前に反応して叫んでしまった。

 ナーリアと言えば私の仲間の一人だった筈。


「っ!! 姫!? 今の声は姫ですよね!? 姫がそこに居るんですか!?」


「さよならー」


 ぷつっ。

 ショコラは問答無用で通信を切った。


「黙っててって言ったよね?」


 ……やっぱりこの子何かたくらんでるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る