魔王様と変態の根城。


「ヒヒヒッ! 今の聞いたかよ!」


「聞いてない聞いてない私何も聞いてないから!」


 走る私の背後からアシュリーがからかってくる。


 まさかそんな大問題があったなんて考えてもいなかった。


 まぁ、大丈夫だよ。

 男が女になるくらいきっと大丈夫! なんの問題も無い!


「まぁ……命が繋がったんじゃし、多めに見てもらうしかないのう……」


「男から女に……まるでセスティ殿のようであるな」


「カカカッ! 違いない!」


 アシュリーのその笑い方何とかならないの?


 完全に悪者っぽい笑い方なんだよなぁ。


「もうその話はいいから! 性転換しちゃったのはもう忘れて! シロは新たな人生を歩み出したの!! それでどうやってクワッカー探す?」


「それなら私がどうにか出来るかもしれないな」


 そう言うとアシュリーがアナトミー骸蟲の死骸を摘まんで何やら魔法をかけた。


「今のは何をしたんじゃ?」


「こいつに残されてる魔力の色を確かめたんだ。後はエリアサーチでこれと同じ色の魔力を探すんだ」


「エリアサーチと言うと……アレクが使っておったなぁ」


「なんだって? サーチ系魔法の中じゃなかなか高等な方だぞ? あいつそんな魔法まで使えたのか……」


「でも魔法はあまり何種類も使える訳じゃないとかなんとか言っておったのじゃ」


「ふむ……補助系特化型ってところか。まぁあれだけの剣の腕があれば攻撃魔法は必要ないだろうしな」


 アレクさんの話はどうでもいいんだけど、その魔法を使えばクワッカーを見つけられるって事だよね?


「アシュリー殿、頼むのである。もう悲しい犠牲は増やしたくないのである」


「へいへい。随分とお優しいぬいぐるみなこって」


 悪態をつきながらもアシュリーはエリアサーチを発動させ、神経を集中させる。


「あー。これはちょっとめんどくせぇな……一番大きい反応、これがクワッカーなのは間違いないとして、それ以外に小さな反応が二十はあるぞ……」


 その二十という数の小さな反応は、バラまかれているアナトミー骸蟲の数を意味する。


「どうする? 全部回って蟲引っこ抜くか?」


「かなり時間かかるだろうけど……お願いできるかな?」


 私的には無駄な殺生はしたくないし、多分動物達が宿主なんだろうけどなんとか助けてあげたい。


「はぁ……こっちも随分優しい魔王様だぜ……じゃあ片っ端から反応のある所へ転移するからお前がなんとかしろよ」


「ありがと。アシュリーちゃん♪」


「おまえ……次それで呼んだら絶対手伝わねぇからな」


「ご、ごめん」


 やっぱりアシュリーを怒らせるのは出来るだけ控えよう。



 そして、アシュリーが案内してくれる先へ次々と飛んでは野生生物、虫、王国に集まらずはぐれとして生活している魔物、そして間に合わず発症してしまった物達から全部蟲を引き抜いて回った。


「……ふぅ、これで全部?」


「ああ。これで終わり。後はクワッカーだけだ。でもさすがに私もこれだけ転移を繰り返して結構魔力消費激しいからクワッカーと戦うつもりなら私は見学だ」


「うん、それでいいよ。わがまま聞いてくれてありがとね」


「けっ。礼なんか要らねぇよ。それよりさっさと終わらせて美味いもんでも食いに行こうぜ」


「それは賛成じゃのう。儂もパーティの途中で抜け出してきてしもうたのでまだ全然食い足りないのじゃ」


「我も腹は減ってきているのである。蟲も始末して、あとはクワッカーをどうにかしたら安心して魔物の国へ行けるというものであるな」


 この人達よくそんな元気あるなぁ。

 私全然食欲わかないんだけど……。


 あ、そうか……。私今日ずっと内臓とかばかり凝視してるからそりゃ食欲もなくなるってもんだよね……。


「さて、じゃあ準備はいいか? 最後の転移だ。私は本当に高みの見物させてもらうからそのつもりでな」


「任せるのである。我が撃滅してみせようぞ」


「儂はほとんど疲れておらんからのう。任せるのじゃ」


 ライゴスさんとヒルダさんがいれば私も少し休めるかな?


 さすがにちょっと疲れてしまった。


 転移した先は岩山にくり抜かれた洞窟みたいな場所。


 魔法で明かりを付けながら奥へ進むと、洞窟っぽかったのは入り口だけで、すぐに人工的な施設のような壁面が現れた。


「これは……随分立派な研究所であるな……」


「流石魔王軍屈指のマッドサイエンティストと言った所じゃのう……」


 コツコツと足音が響く廊下を進むと扉が目に入る。


「……おいこいつ舐めてんのか?」


 アシュリーが怒るのも無理はないだろう。


 入り口には、


『はぁ~い♪ 御用の方はこのスイッチを押してねん☆』


 と書いてあった。


 私でも軽くイラっとしたよ?


「ひ、ヒルダ様……? クワッカーというのは……」


「あー、うん。基本的には変態じゃ。覚悟しておくのじゃ」


 そんな覚悟したくないなぁ。


「とにかくスイッチ押せって言うんだから押してみるか」


 特に何も考えずにヒルダさんがスイッチを押してしまう。


「おいメリニャン、こういうのは普通罠だと思わないのか?」


「……すまんのじゃ」


 様子見のつもりで、ヒルダさんの後ろに居た私とアシュリーが見事にガッチョンと檻に閉じ込められてしまった。


「まぁ丁度いい。どっちみち手伝う気なかったんだしさっさと片付けて来いよ」


 こんな所出るの簡単だろうにアシュリーは面倒そうに檻の中に座り込んでしまった。


 ほんとこの人変な人だ。

 きっとこの中に居るクワッカーって奴もアシュリーとおんなじようなタイプのヤバい奴なんだろうな。


「……今なんか失礼な事考えてただろ」


 エスパーかよ。

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