魔王様の非情な優しさ。


「おじさん! 大丈夫!?」


「いやぁ……アホみたいな数の魔族が城に入ってきやがってさぁ……おじさんもう死んじゃうかと思ったよ」


 あの魔族が言ってる事は本当だったんだ。

 城は今どうなって……。


「うふふ……貴女の焦るその表情、とてもいいわ。今更城へ向かった所で遅いんじゃない? きっと皆死んでるわ」


「うるさい! そんなの行ってみなきゃわからない!!」


 城には幹部さんだって居た筈だ。

 そう簡単に死ぬわけ……。


「その魔族のねーちゃんの言う通りだぜ。もうみんな死んじまった」


 フラフラしながらおじさんがそんな事を言い出したので私の感情は爆発してしまう。


「嘘よ! そんな、みんなが死んだなんて……信じない!」


「それがよぉ……みんな死んでるぜ。死んでるのは魔族の方だけどなぁ? イッヒッヒ」


 そう言いながらおじさんが私の頭を撫でる。


「……どう、いう事?」


「つまらない嘘ね。あの数の魔族を相手に貴様らが撃退出来る筈もないわ♪」


「おいおい蝶々のねーちゃんよぉ。城に入ってきた魔族ってのは全部で二十四匹だよな?」


「……そう、ね。確かそれで合ってる筈よ……でもどうして正確な数を……まさか、嘘でしょ?」


 どういう事? 城に魔族が二十四匹も入り込んでいたなんて……。


「じゃあ間違いなく全滅だぜ。俺がきっちりぶっ殺しておいたからな。……俺も死にそうだけど……」


 おじさんはうつろな目でそれだけ言い切ると、白目を剥いて倒れこんでしまった。


 慌ててその身体を受け止め、おじさんに回復魔法をかける。


「おじさん……貴方が?」


 おじさんは気を失ってしまったらしく答えない。


「どうやら、城に入った魔族は全滅したらしいわよ? これで本当にお前ら二人だけみたいだね」


「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」


「ど、どうすんだよ! ここは退いた方が……」


「何言ってるのよ。逃げたら私達殺されるわよ!?」


「だ、だったらローゼリアに行った奴等に混ざって帰還すれば……」


「そ、そうだわ! あの人はきっと私達の顔なんて覚えてないんだからそうすれば生き延びられるかも……!」


 何かごちゃごちゃ言ってるみたいだけど、私はこいつらを生きて返す気なんてない。


「話は終わった?」


「今日は、ここ、このくらいにしておいてやるわっ!」


「そんな寂しい事言わないでよ」


 私は転移魔法を使い蝶々女の背後に現れ耳元に囁く。


「ひっ!?」


「とりあえずさ、逃がすわけなくない?」


 私は蝶々の羽根をむしり取り、飛べなくなったその身体を地面に蹴り落とす。


 もう一人、既にすごい勢いで逃げようとしていた昆虫っぽいゴツゴツした魔族には、クリエイトで作り出した巨大岩石を頭の上あたりに転移させてそのまま地面とサンドイッチしてやった。


「たっ、たすけて……たすけて……私、私だってこんな事、やりたくてやってた訳じゃ……」


 地面に着地すると、蝶々女が泣きじゃくりながら命乞いをしてくる。


「ちょっと聞いてもいい? ローゼリアに魔族が行ってるってどういう事?」


「お、教えたら……たすけて、くれる?」


「いいから早く話せよ死にたいの?」


「ひぃっ……わ、分かったわよ……。ローゼリアには、今でも沢山のアーティファクトが眠っているらしいの。私達のほかに、それを回収しに行ってローゼリアを拠点にするために派遣された魔族が……」


 ローゼリアを拠点にする?

 確かローゼリアってぺんぺんが教えてくれた話の中に出てきた国だった気がする。


 どの辺にあるのか私は良く知らないけれど、そこに魔族が集まるっていうなら一思いにぶち殺しに行くのも悪くないかもしれない。


「ね、いいでしょ……? 私の事、助けてくれるわよね?」


「その羽根ってまた生えてくるの?」


「……えっ?」


「羽根はまた生えてくるのかなって」


「この、羽根は……もうダメよ。再生する機能は私もってないし……でも私は羽根なんてなくてもいいから死にたくない……」


 ふぅん。


「私が許したとするでしょ? で貴女は羽根が無いから徒歩しかないわよね? その状態でこの国の中を歩いて外に向かうとして……出口にたどり着くまでに誰かが貴女を殺すと思うけれど」


「そ、そんな……! おねがい。出口まででいいから私を……」


「保護してって? 冗談でしょ? 私は本当なら殺してやりたいくらいなのよ? 殺すのやめてあげるからほら早くどっか行きなさいよ」


 私はそれ以上の事をしてやる気にはなれない。

 むしろ飛べなくなっただけで命乞いをしてくるような奴がこれ以上生きていてもどこかでのたれ死ぬ気がするから殺してやった方がこいつの為だと思うけれど……。


 本人がこれだけ生きたいって願うなら好きにさせてやる事にした。


 どうやら地面に落ちた時に足も怪我したらしく、片足を引きずりながら国の出口の方へ歩いていく。

 ここから数キロは王国内だよ。頑張ってね。


「ぎゃぁぁぁっ!! たっ、たすけ……」


 ……。


 あーあ。

 まさか五十メートルも歩かないうちに低級な魔物に殺されちゃうとはね……。


 低級って扱いになってるけどさ、それでもみんな必死に生きてるんだよ。

 あんたらがここに来た時にあの子は家族を殺されたんだ。


 殺されても文句は言えないでしょ?


 自業自得。哀れとは思わないわ。

 殺されるから殺す。

 まるで今までの人間と魔物の関係のよう。


 そう考えると少し複雑な気持ちになるけれど……。


 私のアンニュイな感情は、とつぜんお尻を何者かに撫でられた事で一気にどこかへ行ってしまった。

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