魔王様の理想の王国。
魔物フレンズ王国はとてもいい滑り出し。
ディレクシアとの同盟にもこぎつけたし、視察に来てくれたナーリアちゃん、ステラちゃん。あとなんとか言うおじさんもみんな驚いてた。
魔物達がこんなふうに皆で自給自足生活を頑張ってるなんて簡単には信じられないよね。
なんとかここまで進めてきた私だって、実感がまだわかないもん。
だけど、これは私一人の力じゃなくて、ろぴねぇとかぺんぺんとかおうまさんとか、他の幹部さん達とか。
みんなの頑張りがあって素敵な王国が作られようとしている。
やっと形になってきた所なの。
これで王都の協力があればもっともっと流通も広がって、魔物が怖くないって人間も少しずつ分かってくれて、そしたら。
そしたら……。
きっと世界はもっともっと素敵な物になるはず。
私が追い出してしまったというヒルダさんもここに戻って来てくれる筈だ。
私の役目はそこで終わり。
そこからは、どうしようかな。
あちこち一人旅でもしてみるのも悪くないかもね。
でも……、それよりもまずは今目の前にある問題を解決しないとだよね。
現在魔物フレンズ王国は魔族に襲撃されている。
あらかた片付けたけど、今回は随分本格的に攻め込んできたなぁ。
さすがにこれはもう放っておくわけには行かない。
魔族も本格的に世界で暴れ始めるだろう。
それまでにディレクシアと連携がとれる所までいけたのは良かった。
あともうちょっと遅かったら、全部魔物のせいにされて目の敵にされていたかもしれない。
「さて……お前達はどうする? やるなら容赦はしないよ」
私が残った魔族を相手にそんな事を言っている頃、なんだか向こうの方が騒がしく感じてチラっと右手後方を見てみると、ナーリアちゃんとなんとかいうおじさんが魔族と戦っていた。
いや、戦っているのはジービルさんか。
魔族の攻撃が彼の頭をとらえるが、次の瞬間魔族はジービルの一撃で倒れた。
……驚いた。あの人あんなに強かったんだ?
元々ジービルさんとリルルさんは空気の綺麗な場所を求めてこの王国の近くを旅していた。
私がその時に見つけて声をかけたんだけど、最初はすっごく警戒されたんだったなぁ。
そりゃこっちは魔物の王国だから当然なんだけど、一生懸命説得して、モリーさんという人間も協力してくれてるって話したら、そのお爺さんと話をさせてくれって言ってついてきてくれたんだった。
詳しくは知らないけれど、あの人達はもしかしたら顔見知りだったのかもしれない。
モリーさんの話を聞いてジービルさんもお試しで滞在するって話になった。
一週間もするとここの豊な緑と、綺麗な空気を気に入ってくれたらしくそのままこの国に力を貸してくれることになった。
リルルさんは肺か呼吸器に病があって、それを治す為にいい土地を探して故郷から出て旅をしてたんだってさ。
二人は夫婦らしい。
いいよねーお互いを想いあって結ばれた二人。
あの人達はとてもお互いの事を尊重しあって大事にしてる。
私は人体の部品を組み替える事も自由にできるし、そっくりそのまま同じように健康な身体を作る事も出来る。
だから私は治してあげようと思ったんだけど、それはリルルさんの生まれた里の理念に反するとかで自然治癒を目指す事になった。
自然の中に生き、自然と共に死ぬ。
確かそんな感じだったかな。
結果的に彼女とこの土地は相性が良かったらしく快方には向かってる。
だけど、大切な人が病気なら、なりふり構わず治したいってなる物だと思ってた。
私には少し難しい感情だけど、ジービルさんはその思いも自分の中に抱えたまま、リルルさんの信念を尊重してあげてるんだ。
なんだか素敵な関係だよね。
あの人達も今では私の国の民だ。
魔物さんたちも、人間も関係なく私の、私達の国の大事な国民。
その人達が幸せに暮らすためのこの場所を誰にも壊させはしない。
「もう一度聞くよ? もうお前達二人だけみたいだけど……まだやるの?」
あと二人だけ。
とにかくこいつらをやっつければ……。
「ふふふっ。確かに……ここまでの被害が出る事は想像もしてなかったわ。だけど、いつ誰が……これで全部だって言ったのかしら?」
背中に蝶々のような羽根をはためかせた魔族が嘲るように言った。
「……どういう意味? 伏兵がいるとでも言うの?」
「もう言っても構わないでしょう。私達は正面から攻める、いわば囮よ。本隊はこの倍の数……裏手から城に攻め込み、今頃この国の中枢を落としている頃だわ。魔王は城の中だと思ったけど……逆に城は落としやすかったでしょうね」
なんてことだ。
魔王である私はここに居るのだから王国が落ちる事は無い。
だけど……城の中には沢山の魔物達がいる。
それに、もう一人の人間も、そこに居た筈だ。
この国で今人間の被害を出すわけには……。
「おーい魔王ちゃーん」
ふと、今心配したばかりの人間のヘラヘラした声が聞こえて振り返ると。
傷だらけで全身から血を噴き出した人間が、こちらによろよろ歩いてくる所だった。
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