らいごす君の大驚愕。


「ところで、そのグリ蔵とやらは今どこに避難させているのであるか?」


「んー。そうだな……ここから大体半日くらい歩けばつくと思うぞ」


 我は一瞬絶句してしまった。


「ちょっと待て、すぐ近くに居るんじゃないのであるか?」


「当たり前だろ。そんなすぐ近くに居たら避難の意味がねぇだろうが」


 ……まぁ、それもそうであるのだが……。


 さっきの流れだとよしこれからローゼリアに向けて出発だ! みたいな雰囲気だった気がするのである。


「だからとりあえずグリ蔵の所までは案内してやるからそこから先はグリ蔵と仲良くやってくれ」


「う、うむ……しかし、案内とは言っても我の足では」


「ほらよ」


 ライノラスが我の首のあたりをひょいっと摘まみ上げてそのいかつい肩の上に乗せた。


 こいつ……。我の知らない間にこんなにも……。

 その身体つきは我の記憶にあるよりも一回り大きく、逞しくなっているように感じた。


 我は少しだけ羨ましくなってしまったのである。


 普段から元の身体で居る事が出来なくなってしまった我は、自由にこの身を鍛える事も出来ない。


 一時的に本来の力を開放する事は出来るが、そこから先への伸びしろが止まってしまっているのと同じである。


「ライノラス……お前、いい身体になったのであるな」


「うひっ!? な、なんだてめぇいきなり気持ち悪い事言うんじゃねぇよ!!」


 気持ち悪いとはどういう事であろうか。我はただ純粋に褒めただけだというのに。


「いや、我はお主の素晴らしい身体をだな……」


「ひぃっ! 辞めろ辞めろなんか変な意味にしか聞こえねぇんだよ!」


「変な意味とはどういう意味であるか?」


「分んねぇならもう黙っとけ! とにかくグリ蔵の所まで行くぞ」


 ライノラスはそう言うともう肩の上の我には目を合わせてくれなんだ。


 こいつが何を考えているのかは分からぬが、どうせろくでもないような事であろう。


 気にするだけ無駄である。


「……って訳でな、今はその王国に魔物が集結してるってわけさ」


 数時間ほど歩き続けていると段々話す事も無くなり、やがて話題は最初の魔物の王国の事に戻ってきた。


「なるほど……大体の流れは分かったのであるが、お前は本当に魔物達だけでやっていけると思うのであるか? 我にはそこが疑問なのである」


「うーん。そこは難しい所だけどな、人間の協力者も居るしなんとかなるんじゃねぇの?」


 話の中にも出てきた人間の協力者。ライノラスもそれがどこの誰だかまでは知らないとの事だったが、ちゃんと作物の栽培などについてもある程度知識があり、幹部連中も協力的であったと。


 我にはそこが気になるところなのである。例えばホーシアなどは気が荒いし人間と協力などと簡単に納得したとは思えない。


 万が一魔王メアリーが本当に今までの事を忘れ、かつ人間との共存を望んだとしたなら……無理矢理いう事を聞かせる事は可能であろう。


 なにせ逆らったらそれは死を意味する。


 ペリギーなどは何度殺されかかった事か。


 しかし、もし魔物達を力でねじ伏せ無理矢理命を盾に言う事を聞かせているのだとしたら、そんなものはすぐに破綻するであろう。


 我慢できずに魔物は人を襲う。人を喰らう。

 そういう物だ。


「そうそう、あいつらの国で食った飯は美味かったなぁ。それに触発されて今は俺も家で自炊して料理作ってるんだぜ」


「料理!? お前がか!? 考えられん……」


 確かに、我々魔物は食べ物をそのまま食べる事しか出来ない。

 しかしそれは、する事が出来ないのではなく知識として、概念として調理するという考えが存在しないのだ。


 それを魔物達が文化として取り入れたのならばどうか。

 人を襲う事を辞めてでも手に入れるべき価値があるだろうか?



 ……我はかなり人間側の考え方になってしまっているからあまり比べても仕方がないのかもしれないが、我がその立場だったら……。


「料理、か……。確かに、心揺らいでしまうのはわからんでもないのである」


「魔王はよ、そりゃ幹部連中から大人気だったぜ。あれは心から信じてついて行こうって奴の目だ。勿論知能も低い下級な奴等はそうはいかねぇけどよ、それこそ本能で逆らったりはしねぇよ」


 ……魔王メアリーはいったいどのようにしてあの曲者揃いの幹部たちを味方につけたのであろう。

 少しだけ興味が出て来た。


 もし本当に魔王が我の知っている魔王で無くなったのなら、それは新しい世界の始まりを告げるほどの革命である。


 しかし、現状魔族なんて連中が蔓延り始めたら……人間からしたら魔族と魔物の区別などつくまい。


 魔物側は苦境に立たされる事となろう。

 その辺の事はどう考えているのであろうか。


 もしも魔物達が平和に暮らせる王国が出来るというのであれば、魔王は憎けれど……成功してほしいとは思う。


「おい、ついたぞ」


 ライノラスがピューィと口笛を鳴らす。

 あの口でそのような器用な事が出来るのが意外だ。


「おーよしよし。迎えに来たぞ。家に帰る前に一仕事頼まれてくれるか? こいつをローゼリアまで送ってやってほしいんだ。ローゼリア分るよな?」


 グリ蔵はそれなりに知能もあるらしく、きちんとライノラスの言葉にうなずいてはこちらをチラチラ見てくる。


「グリ蔵とやら、是非……よろしく頼むのである」


 我の頭をグリ蔵がガブリと咥えた時はヒヤっとしたが、そのままぽいっと背中に放りなげてくれた。


「ふん。元幹部かなにか知らんがせいぜい落ちないようにしがみ付いている事だな。その玩具のような身体が砕け散っても保証はせんから覚悟せよ」


 しゃべったぁぁぁぁ!!

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