第四章:収束点。

元魔王が向かうべき場所。


「なんだかよく喋る魔族じゃったのう」


「えぇ、聞いて無い事までベラベラと良く喋ってくれたので面白い情報がいくつか得られましたが……それにしてもあれほど情報管理意識がないとは組織の末端として自覚が足りなすぎるのではないかと……」


 この男が何を言っているのか儂にはよく分からんのじゃが、あの魔族がお喋りだったのは間違いない。


 それは間違いないのじゃが、恐るべきはこのアレクという男じゃ。


 遭遇した魔族はわしが知っている魔物達とはまったく違っていた。


 あきらかに魔王軍幹部クラスかそれ以上の実力を兼ね備えていたと思われる。

 しかもあの獰猛さを考えると、かなりの強敵なのは間違いなく、セスティなどならともかく、苦戦を強いられると思っておった。


 しかし実際戦いが始まってみればどうじゃ。

 あの巨大な魔族の攻撃を軽々と二本の剣で受け止め、あの硬そうな皮膚を易々と切り裂き、物の数分で細切れにしてしもうた。


 目立った魔法は使用していなかったように思うが、おそらくあの刀身には魔法をかけていたのであろう。


 或いは、何か特別な魔剣の類か……。


 どちらにせよこのアレクセイ・バンドリアという男がただものではない事だけははっきりした。


 戦闘が始まる前にいろいろとあいつが喋ってくれていたおかげで情報が手に入ったが、そうでなければ聞き出す暇もないくらいじゃ。


 いや、その辺りもきちんと考えた上での行動だったのじゃろう。

 最初はあの魔族に声をかけ、やたらと、相当力のある魔族とお見受け致しますが……とか持ち上げまくっていたから、手加減しながら戦うよりも聞くだけ聞いて必要なくなったら殺すくらいのつもりだったのじゃろう。


「ふぅ……しかし疲れましたね。こんな魔族が山ほどいるのであればなかなか苦労しそうです」


「よく言うのじゃ……。あれだけの力を見せておいてその発言はただの嫌味に聞こえるのじゃ」


「いえいえ。そんな事はありませんよ。私はどちらかというとスプリンタータイプでして。もうそれなりの歳ですし持久戦には向きません。ですから一気に戦いを終わらせる必要があったのです」


 モノクルをくいっと持ち上げ、位置を直しながらそんな事を言っておるが、本当はどうなのやら……。


「実際問題早く貴女に力を取り戻して頂く事が先決ですね。私だけでは一対一なら負ける事はありませんが取り囲まれると些か面倒ですから」


 負ける、とは言わない辺りがこの男の底知れぬところじゃのう。


「お主騎士団の総騎士団長、だったかのう? それほどの力と地位がありながら何故……」


「私はもう歳をとりすぎました。私などに頼らなければならない騎士団ではないでしょう。だからこそ私は私なりのやるべき事をやるだけです」


 淡々と、まるで台本を読むようなそのセリフに若干のひっかかりは有る物の、頼りになる事だけは間違いない。


「それで、先ほどの魔族が話していた事を総合してみましょうか」


 そうじゃのう。

 まず、何者かが異空間で石になり生存していた魔族たちをこの世界に呼び込んだ。

 その者が何者なのかは分からぬが、魔族はあの方、と呼んでいた。

 おそらく魔王かあの神かどちらかじゃろう。


 そして、今現在魔物達が何やらおかしな動きを見せている事、そして魔物と魔族は一切接点を持たず、完全に別の目的で動いている事。


 これは少々疑問が残る。

 てっきり魔王が動いているのなら魔物と魔族でさらに強力な軍勢を作っているのかと思ったのじゃが、どうやら違うらしい。


 魔物が何をしようとしているのかも気になる所ではある。

 もしかしたら魔王メアは魔物を見限って魔族を新たな手駒に選んだ可能性もある。


 その辺はまだ情報が不足しているのではっきりとはしないが、少なくとも次の儂らの目的地は決まった。


 あの魔族達は今世界に散らばるアーティファクトを集めようとしている最中だったらしい。

 そして、今魔族達が狙っている場所、そこにはアーティファクトがある可能性が高いらしい。


 儂等はそこへ向かい、アーティファクトを手に入れる。それが封印解除に役立つかは分からぬが、儂に扱えるものならば儂も役に立てるようになるからのう。


「ここからだとまだかなり距離がありますから行き方を考えなければいけませんね」


「そうじゃのう。しかし目的地がはっきりするだけで、全く当てが無かった今までよりはよっぽど前進したと言えよう」


 わしも、わしが出来る事をせねばな。


「いざゆかん、ローゼリアへ!」

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