ぼっち姫、戦いの終わりは労働の始まり。


 うげげげっ、なんだこれっ!


 言葉もうまく出せないし、身体が動かない。


 さっき何が起きた?


 ストーカーが一瞬消えて、気が付いたら目の前に居て、びっくりして切りかかったらなんかチクっとして身体動かなくなって倒れた。


 めっちゃ全身痺れてる。


「ふっ……これが鬼神セスティだと? 俺の動きにはなんとかついてきていたようだが、俺の攻撃はほんの少し当たればそれで充分なんだよ。これで名実共に俺が最強だ! 土壇場で逃げ出したキングなんかよりも俺が!」



「ふぅ……びっくりしたー! 今のなに?」


「聞いて驚け! 俺が調合したポーロスベアすらも一撃で身動き取れなくする痺れ薬だ。ほんの少量でその威力……今は念のために通常の三倍の量……を……」


 なるほどなー。

 痺れ薬ってこんな感じなのか。

 初体験の事っていろいろ面白い。


「あ、あれーセスティさん? なんでもう立ち上がってるんです……?」


「え? 知らないよそんなの」


「知らないって……えー?」


 私だってよく分からないし。要は毒だよね?

 大型の魔物にも効くような毒くらってすぐ動けるってのが異常な事くらい自分でも分る。


 だけど、もう動ける理由を教えろって言われてもわかんないものはわかんない。


「私にはそんなもの効かんのだ!」


「なんだってー!!」


 面白いくらい驚いてくれるなぁこの人。


「じゃあ取り合えず私が試したい事試してみてもいいかな?」


「ち、ちょっと待って下さい! あの毒が効かない時点で俺、もうどうしたらいいか……だから、そ、その……俺のまむぐぐぐっ!!」


 負けって言われそうになったから魔法でブーストした高速移動でその口の中にその辺からひょいっと手ですくいあげた土を詰め込み、耳元でストーカーにだけ聞こえる程度の声で囁く。


「えっと、こういうの慣れてないから単刀直入に言わせてもらうけど、降参したら殺すから。しなければ半殺しくらいで済むと思う。どうする??」


 ストーカーは口の中の遺物に呻きながら、私の事を涙目で見つめ首を横に振る。


「え、それって私の提案が飲めないって事? 死にたいって事なのかな?」


「んー! んー!?」


 さらに首を横にぶんぶん振る。


「どっちだよ。降参はしない?」


「うー! うー!」


 今度は首を縦に振った。


 そっか。じゃあもうちょっと付き合ってもらおうかな。


「殺しはしないよ……多分。だから一応そっちも本気で向かってきてほしいな。もしかしたら勝てるかもしれないよ? ほら諦めたらそこで試合終了だってば。がんばれがんばれ♪」


「お、鬼……」


「鬼じゃなくて鬼神だってば☆」


 覚悟を決めたストーカーが物凄い速さで私の周りをクルクル回り始める。

 その姿がやがて六人くらいに増えた。


 高速移動で残像を作ったのかとも思ったけど、そんな単純な話じゃないみたい。

 ブーストした動体視力で見るとちゃんとそれぞれストーカーの姿をしてる。


「分身の術!! こうなりゃヤケだ! やるだけやってやるぜ!!」


「あー。喋ったらダメじゃん。声出てるの一人だけだよ」


 私はぐるぐる回っているうちの一人の頭を鷲掴みにして闘技場の反対方向に向かって投げる。


 気持ちよくカッとんでいったストーカーは地面にぶつかるとそのままゴロゴロ転がり反対側の壁に激突して砂ぼこりをあげた。


 よし、今のうち今のうち。


 私は自分の剣に、攻撃魔法をかけてみた。

 あの魔法剣士の……なんだっけ、ドリア人さんがやってたみたいなのを試してみたかったんだよね。


 飛び道具がダメなら武器に魔法をかければ魔法剣になるし、この剣って魔法をブーストする機能があるらしいからかなり威力が出る気がするんだよね。


 何をやろうか迷ったけど、何か一つ頭に浮かんだのがあったのでそれを試してみる。


 えーっとなんだっけな……。


 おーろら……おーろらさいじぇふぉりお?

 まぁ名前なんていいや。

 私はその魔法の構成だけは何故か頭に残っていた。


 今ふと思い出した感じだけど。


 確か火、水、風、土、光、闇、そして………えっと、この世界のマナ、あと……自分の魔力かな。

 その七つを螺旋状に絡めて剣を包み込むように纏わせる。


 すると剣が凄まじい七色の光に輝き始めた。


 なんだか背後が騒がしい。

 サクラコさんの声が聞こえる気がする。


 今いいところだから邪魔しないでよ。


 私はストーカーが吹き飛んだ方向へと剣を振り上げて……。


「おいてめぇら!! 命が惜しかったら今すぐそこから逃げろ!! 早くしないとマジで死ぬぞ!!」


 サクラコさんが実況の人の音声拡大用の魔道具を奪って騒ぐ。


 そんな大声出さなくてもいいのに。

 私はこれをちょっと試したいだけだってば。


「とりゃーっ!」


 私は全速力でストーカーさんが転がってった方へ突っ込み、剣を振り下ろした。






「かっ、かんわきゅーだいっ!!」


「それでごまかすんじゃねぇ!!」


 サクラコさんに頭を殴られた。結構痛い。

 私だって本当に反省してるのに。


「くくくくッ。凄い凄い。良いモノ見せてもらったネ。死者はとりあえず一人も出なかった。大怪我したのは何人かいるケド」


 私の一撃はギリギリでストーカーからそれていて、彼は無事らしいのだが、そのまま闘技場の客席を一直線に吹き飛ばしてしまったのだ。


 地下にある闘技場だからあちこちヒビが入って倒壊しそうになり大混乱。


「どっちにしてもほら、勝ったんだから船を……」


「それはまた別ネ。こっちは大損害ヨ。この莫大な修理費、きっちり請求させてもらうネ。こき使ってやるカラ馬車馬のごとく働くヨロシ」


 私、サクラコさん。そして蛙さんはその後闘技場の修理費を払うために何か月もリンシャオさんに無理難題を押し付けられ、酷い足止めをくらう事になってしまうのだ。


「私こんな事してる場合じゃないのに……!」


「お前のせいだろうが! 無茶苦茶やりやがって!」

「こればかりは姐さんが正しいですぜ」


 うぅ……。


「みんなが私をいじめるよ……」



 またサクラコさんに頭を叩かれた。

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