ぼっち姫、わたしとわたし。


 結局私の服はすぐに黙ってしまって、それからは剣で刺しても無反応。


 というかむしろ刺さらない。


 どんだけ強靱な布で出来てるの?

 むしろ布なのこれ? 

 喋ってたし何か動物とか、むしろ魔物とかそういう類なのかな?


 流石にちょっと考えちゃうよね。


 でもよく考えたら防御力って意味では恐ろしく優秀って事だし、私が最初から着てたものだからもともとの所有物なんだろうし、まぁいいか。っていうのが本音。


 あと、これはとても重要な事なんだけれど、匂わない。


 丸一日着てたわけだし洗わなきゃとも思ったんだけど、不思議な事に一切汚れないし匂わない。


 だからといってずっと着てるのもなんだか気持ち悪いのでいろいろ実験してみた。


 まず洗えるのかどうか。

 村に帰ってから村長さんの家に一日泊まる事になったので、お風呂の時に試しに水ぶっかけてみた。


 そしたら「きゅきゅーっ!!」と服が勝手に暴れ回って大変だった。

 しかも水を完全に弾いてる。本当になんなんだろうこれ。


 一応濡れたタオルで表面を拭いてあげたら気持ちよさそうにしてたのでお手入れ方法はこれであってるらしい。


 しばらくするとまた喋らなくなる。

 寝てるのかもしれない。


 やっぱり服というよりは生き物として考えていた方がいいだろう。


 お風呂からあがると、私達の部屋の隣、チェリオさんの部屋の中からなんだかすごい悲鳴が聞こえてきたけど、どうせサクラコさんだろう。


 報酬の足りない部分とやらを補填している最中なのだ。

 私は知らない。

 見ないし聞かない。

 何も無かった。

 そう、何も無かったのだ。


 そういう事にしておこう。


 そういえばあのカブトムシは洞窟を出ると自分からサクラコさんの背中を離れ、散り散りになっていく魔物達を追いかけるように飛んでいった。


 サクラコさんはちょっとだけ寂しそうにしていたが、あの子も相当おっかない思いをした事だろう。


 ちなみに蛙さんは村長さんの部屋で寝る事に。

 ほんと仲いいなお前ら。


 なので今私は与えられた部屋に一人きり。


 布団に手足を広げて転がりながらいろんな事を考えてみた。


 私の事で分かっている事は、

 どこかの姫、かもしれない。

 金髪で見た目かわいい。自分で言うよ? だって可愛いし。

 でも胸はあまりない。

 ショコラって妹が要る。

 だけどショコラからすると私はお兄ちゃんらしい。


 お兄ちゃんってなんだよ。せめてお姉ちゃんだろ……。


 んで何日か前にここからすっごく離れた場所で魔物の群れ、そして魔王と戦った。


 気が付いたらこんな所で記憶を失って倒れていた……。


 このくらいかな。

 後何かあるとすれば、王都の騎士団で以前総騎士団長をやってたアレクセイとかいう人が多分私を知ってるっぽいって事。


 王都は自然と情報や人が集まりやすい場所だし、行けば何かしらの情報が分かるんじゃないかなって事。


 だから私の目指す場所はまず王都。

 それからサクラコさんが行こうとしてるエルフの森。


 まだまだ前途多難だけれど分った事もあるから、希望はある。


 願わくば、記憶が戻った時に私がまだ私でいられますように。


 記憶が戻った途端にこの間の記憶がなくなっちゃったりとかっていうケースもあるらしい。

 蛙さんがそんな事を言っていた。


 だから、思い出したら昔の私は戻るかもしれないけれど今の私は居なくなってしまうかもしれない。


 そしたら私の存在ってなんだったんだろう? ってなる。


 一番いいのは前の記憶を取り戻しつつ、今の私の記憶も持っている事なんだけど、そればっかりは記憶が戻ってみないと分からないし、私も気になるから思い出したいとは思ってる。


 嘘。


 本当はこのままでもいい。


 だけど、きっとダメだって、私の中の何かが騒いでいる。

 身体がそう言ってる。


 きっとこのままで居たら私はずっと過去の事を気にしながら生きていく事になるだろう。


 そんなのは嫌だ。

 だから、怖いけれど私は私を取り戻す。


 そして、私を私として消さずに持っていく。


 そう、決めた。



「ふぅ~。いい汗かいた♪」


 サクラコさんが呑気な事を言いながら部屋に入ってきた。


 よく考えたら今夜この人と同じ部屋で寝るのか。


 万が一何かあったら、この夜の事だけは記憶から消えてしまっても構わない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る