ぼっち姫、自分の秘密に迫る。
「えー、なんか怪しい」
「全然そんな事ないって。あんた冒険者だろ? だったらいい仕事斡旋してやるからさ。報酬は依頼料の八割、二割こっちに収めてくれればいいさ」
うーん。とりあえず何も分からないままだからもう少し情報の収集をしたかったんだけど……。
「ちょっと待って。その前に、おねえさんは私の事知ってる? 全然記憶がなくて困ってるんだけど。そもそも私戦えるのかな? その口ぶりだと仕事って結構荒事でしょ?」
サクラコさんはなんだか可哀想な子を見るような目でこちらの様子を伺っている。
疑われてるのかなぁ。ほんとなのに。
「えっと、じゃあ名前とかは?」
「わかんない」
「どこから来たとか」
「わかんない」
「その剣は?」
「拾った。多分私の」
サクラコさんは眉間に手を当てて、うーんと考えこんでしまう。
「でも、だ。あんたがかなりの実力があるのだけは分かるよ。私の気配を察知出来る奴なんて見た事ないからね。戦えるのは間違いないと思う。じゃあ働きながら情報を探したらどうだい?」
サクラコさんはそう言って私に手を差し出してきた。
一応信用してくれた、って事でいいのかな?
だったら協力者は居た方がいい。
「じゃあ、お願いしていいですか?」
その手を握り返す。
「よしっ。じゃあ契約成立って事で♪ 住む所も面倒見てやるから安心しな。……って、おいてめぇら見せもんじゃねぇぞ散れ散れっ!」
モヒカンを退治したあたりから道行く人達が沢山こっちをチラチラ見てきていたんだけれど、サクラコさんが空いてる方の手でしっしっと民衆を散らした。
「じゃあとりあえず私の万事屋に案内しよう。私はカオルコ・サクラコ。これから宜しく」
え? カオルコ? サクラコ? どっち?
「皆はサクラとかサクラコって呼ぶよ。あんたは?」
「えっと、名前分からないんだけど……」
「あぁそうだったな。何か持ち物にヒントないのか? 身分証とかが有れば完璧だけど」
でも私持ち物って言っても……剣一つ持ってるだけだしなぁ。
ん? そこで服の一部が少し硬い事に気付いて触ってみると、どうやらデザイン的に分かりにくくなってるけど、ポケットがあって中に何かが入ってる。
私はそれを引っ張り出してみると、何かカードみたいなものだった。サクラコさんもそれを覗き込んでくる。
「えーっとなになに? プリンっていうのかあんた。プリン……セスティ……?」
私の名前はどうやらプリンって言うらしい。
いまいちしっくりは来ない。
何か他の呼び方で呼ばれていたような……。
「あれ、サクラコさんどうかした?」
サクラコさんが難しい顔で固まってる。
「これ……お嬢ちゃんの身分証だよね? ……顔も乗ってるし間違いない……しかし、これは……しかも特別発行身分証? 印は……アレクセイ!?」
この身分証は確かに私の顔が転写されていて、間違いなく私の物だっていうのは分かったし名前もこれで確定だろう。
でもサクラコさんがこんなに驚いている理由がちょっと分からない。
「ねぇねぇ。もしかして私の知ってるの?」
「いや、君の事を直接知ってる訳じゃないが……いろんな意味で君がどこの誰なのか分かったよ」
えっ? 身分証みたら分かるってもしかして結構有名人だったのかな?
もしかして犯罪者だったりして……。
「君はね、勇者パーティのメンバーだよ。プリン・セスティ。鬼神として恐れられていた人物だね。まさかこんな少女だったとは思わなかったが……」
「鬼神!?」
何それ怖すぎ!!
でも犯罪者じゃなくてよかった……。
でも私って勇者様のパーティメンバーになるくらいに強いの?
全然実感がわかないんだけど……。
「そして、この身分証は通常の手続きで発行されたものじゃない特別な物だ。だからこそ君が鬼神セスティである事の証明にもなりえる。なにせここに印を押して身分証を作成した人物は元王都の総騎士団長、アレクセイ・バンドリアだ」
アレクセイ・バンドリアだ。って言われても……その人知らないから凄さがわかんないんだけど。
総騎士団長って言うくらいだから騎士団で一番偉い人?
あ、でも元って事は……一般人じゃん。
「そして、だ。これが一番私にとっては重要な事なんだけどね。少し前まで私が個人的に面倒みていた少女がいたんだが、その子の名前はショコラ・セスティ。君の妹だよ」
「な、なんだってー!?」
「いや、君全然驚いてないじゃないか」
なんだってー! と言ってはみたものの、自分に妹が居るって事も実感わかないしなぁ。
でもでも、偶然私の妹がサクラコさんの知り合いだったっていうのは大きな前進では?
「でもおかしい事があるんだよ。ショコラは確かに君を探しに旅に出た。……というよりそう言って私の元から逃げ出したんだが、あの子はいつも言っていたよ。お兄ちゃんを探さないと。ってね」
……なんじゃそりゃぁ。
私ってお兄ちゃんなの?
プリンなんて可愛らしい名前なのにオカマちゃんだったの??
ショックすぎて自分の正体に近付いた喜びなんてまったく感じる余裕がなかった。
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