第三章:姫と愉快な仲間達。
ぼっち姫、路頭に迷う。
「……うぅ、おなか減った……」
ここどこ? っていうか私誰なの??
気が付いたらよく分からない形の建物の近くに倒れてた。
そこは木造で、全然見た事ない形の建物だったからうまく表現できない。
その建物に続く石畳みたいなのがあって、それに沿っていくと柄杓みたいなのが置いてある手洗い場みたいなものがあった。
覗き込んでみると私の顔がぼんやりと水に映る。
確かに私の顔だ。
そう自信を持って言える。
それは分かるんだけど名前とかどこの誰とかそういう情報がまったく出てこない。
石で出来たライオンみたいなのが二つ石畳の両脇にあって、なんとなくその子たちに挨拶してから敷地を後にする。
結構に長い階段が続いていて、その下の方には人家が見えたのでそこまで行けば誰か私の事を知ってる人に出会えるかもしれない。
階段をゆっくり降りながら自分の事をいろいろ確認してみる。
髪の毛は腰の下くらいまである金髪。
真っ赤なドレスを着てて、たぶん私の持ち物だったであろうシンプルな細身の剣。
鞘とかは無くて、抜き身で近くに落ちてたからそのまま持ってきちゃったけどこれ私のでいいんだよね?
今更少し心配になってきた。
抜き身の剣を持って歩いてたら流石に不審人物だよなぁ。
早めになんとかしないと。せめて布をぐるぐる巻きにするとか。
階段を下まで降りきると、少しだけ林みたいになっていて、その中にある道を進む。
すぐに開けた場所に出て、そこは思っていたよりも賑わっている町だった。
冒険者みたいな人達もそれなりにいるから剣を持っている事自体はおかしい事じゃないんだけど、さすがに抜き身は目立つ。
「おいおい嬢ちゃん。随分物騒じゃねぇか。もしかして魔物でもぶっ殺してきたのか?」
若い冒険者にそんな事を言われた。
もしかしたら魔物と戦って、何かトラブルがあって記憶が飛んじゃったんだろうか?
「私記憶が無くて困ってるんだけど……」
「あ、不思議ちゃんってやつか。ごめんな俺は力になれねぇよ。いいカモみつけろよー」
若い冒険者はとても失礼な事を言ってそそくさと去って行った。
うーん。ここは観光地みたいな感じなのかな?
とりあえず誰かちゃんとした人に話を聞きたい。
「おいてめぇ! ぶつかっておいてシカトか!?」
「あん? なんだいあんた。あたしが誰だかわかってて絡んできてんのか?」
そんな声に振り向いてみれば、綺麗な女の人が大きいモヒカンの人に絡まれていた。
ここは結構人通りのある商店街みたいな場所なのに、ど真ん中で起きた揉め事にだれも興味がないみたいに避けて通っていく。
結局みんな他人は他人、面倒事には関わりたくないんだろうなぁ。
私はどうしてもその横柄な態度が気に入らなくて、男の人の背後から近付き、その膝のうらっかわあたりにローキック。
普通にていっ! と蹴っただけなのにそのモヒカンの人は崩れ落ちていく。
……あれ、私って意外と力持ちなのかな?
そんなに痛かった?
「あの、お兄さん。なんだかごめんなさい。でも女の人に大声で絡みに行くのはちょっとカッコ悪いかなって。もしその人が悪かったんだとしてもね」
モヒカンの最低野郎は私だって女だというのに平然と私に対しても暴言を吐く。
「いってーなてめぇ何しやがるぶっ殺すぞ!」
「いや、そんな崩れおちたまま言われても」
モヒカンは足を抑えながらごろごろ転がりつつ私を睨む。
「ひーっひっひっ! こりゃ傑作だ。あんたの負けだよトサカ頭。こんなお嬢ちゃんにも負けるようじゃあたしに絡もうなんて百年早いっての」
絡まれてた女の人が転がってるモヒカンを爆笑しながら煽る。
「このアマっ! そもそもてめぇが悪いんだろうが!」
モヒカンが飛び起きてそのまま女性に殴り掛かった。
慌てて止めようとしたけど、ふとその女性と目が合う。
まったく怖がってないし、余裕そうに私に微笑みかけてきた。
……これは平気なやつかな。
「もう一度言うけど、あたしを誰だか知ってて言ってんのかい? 知らないようなら教えてやるよっ!」
女性は殴り掛かってくるモヒカンの拳を最小限の動きでかわし、こつんと軸足を軽く蹴る。
軽く蹴っただけにしか見えなかったのだが、モヒカンは悲鳴を上げてその場で、まるで歯車のように高速回転した。
空中で激しく回転したモヒカンが地面に落ちる前に女性はパシッとその足をキャッチし、頭が逆さになるような感じで宙づりにした。
「おっと間違えた」
軽々とモヒカンの身体を宙に放り投げ、今度はちゃんと頭が上になるように胴体部分を掴んでゆっくり地面に降ろす。
「あたしの名前はサクラコ。この辺りであたしの事知らねぇ奴ぁモグリだぜ?」
モヒカンはもう泡を吹いて気を失っていてそんなの聞いて無いだろうけど……。
「あらら。もう聞いちゃいねぇや。レディの話は最後まで聞くもんだって教わんなかったのかねぇ」
そう言って彼女はモヒカンをその辺に投げ捨てた。
あー。これは私が口挟む必要はまったくなかったみたい。
このサクラコって人すっごく強いや。
「……で、お嬢ちゃんは誰だい? そんな剣ぶら下げて……そんな綺麗なナリして冒険者か?」
ふっと目の前からサクラコさんが消える。
目には見えないけれど私の右側から背後に回っていくのが分かったので逆に前に出てそれをかわすと、ちょうど私が居たあたりに彼女の腕が空を切る。
……何しようとしたんだこの人。
「おいおい……嘘だろ? お嬢ちゃん、今のが見えたのかい?」
「ううん、全然。でも気配は分かったよ」
そう言うとサクラコさんは「かーっかっかっかっ!!」と大声で笑うと、私に向かってこう言った。
「気に入ったっ! あんたあたしのとこで仕事しないかい?」
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