魔王様の大いなる野望。
「よーっしみんな食べていーよっ☆」
私はクリエイトした食器に作った料理を入れて同じくクリエイトでスプーンを作り皆の前に並べた。
今回作ったのはズィチューという料理で、簡単に言ったら煮込みとスープの中間みたいな料理だ。
私の好物の一つで、ローゼリアに居た幼い頃はこれをよく食べていた記憶が……。
……記憶??
頭の中によぎった幼い頃の記憶は、意識した瞬間に消え去った。
えっと……。
私今どこに居たって?
ついさっき間違いなく幼い頃過ごした場所を頭に連想していた筈なのに、今は全く出てこない。
「こ、これを食べるのか……? 本当に大丈夫なんだろうな?」
「でも結構いい匂いがしていますよ」
おうまさんとぽんぽこさんが顔を見合わせながら恐る恐るスプーンですくう。
そういえば全く気にして無かったんだけどみんなちゃんと物を掴める手があって良かった。
おうまさんとか手が蹄だったらスプーンなんか持てないもんね。
他の人達はまだ私の事が怖いらしく料理と私の顔をチラチラ見比べながら、誰かがとにかく一口食べてくれるのを待ってるみたいだ。
そんなに不味いもんじゃないのになぁ。
こんなに食べるのを躊躇われるとさすがに軽くショック。
そんな中ろぴねぇだけはその様子を目を細めてニヤニヤ眺めていた。
「ほらほら魔王命令だよっ! まずは一口食べてみて! それと味の感想は正直に言う事。何言われても私は絶対に怒らないし危害は加えないよ」
そこまで言ってやっと皆スプーンを手に取る。
「ではまず私が……うっ」
「おいどうした!? 大丈夫か!?」
「……ホーシア、いいから一口食べてみなさい。我々が今まで食してきたものがネズミの死骸か何かのように思えてきますよ」
心配そうに見ていたおうまさんにぽんぽこさんが早く食べろと進める。
ホーシアっていうのがおうまさんの名前らしいけど別におうまさんでいいよね。
「お前がそういうなら……って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
おうまさんがめちゃくちゃなオーバーリアクションで立ち上がる。
「おいてめぇら食え! とにかく一口食ってみろ!!」
おうまさんの一声で一人また一人と口に運び、皆それぞれよく分からない言葉を叫びながらどんどん料理を口に運んでいき、全員すぐに完食してしまった。
「どーよっ!」
「メアリー様が作っていた料理、これほどとは思いませんでした……。確かにこれを安定的に供給できれば文句のある魔物はおりますまい」
ぺんぺんがそう言いながらからっぽになった容器の中をスプーンでしゃかしゃかやっている。
もう食べ終わってるのに。
ここの魔物さんたちは本当に肉は肉、野菜は野菜としてしか食べた事がなくて、加工によってそれがもっともっと美味しくなる事を知らないんだ。
人間なんかわざわざ食べなくたっていいって分ってもらえるならなんだってするよ。
「どう? 料理っていうのはこれだけじゃなくてもっともっといろんなのがあるんだよ? 食べてみたと思わない?」
「もっとたくさん? これよりおいしいものもあるんですか?」
おずおずと、鳥人間みたいな姿をした魔物が口を開く。
今まで様子を見るだけだった人達がいろいろ私に質問してくれるようになって、私はそれ一つ一つに丁寧に答えてあげた。
「だからね、私が最終的に目指したいのは、自分たちで野菜を栽培して、家畜を自分たちで育てて管理して、完全な自給自足が出来る魔物の国を作る事なんだよ」
ざわめきながらも、みんなの目に輝きが灯っていくのが分かる。
なんかこういうのって嬉しいなぁ。
「料理は覚えれば誰だってできるようになるし、料理を専門で作る人達っていうのも用意したりして、完全に独立した魔物の王国を作ろうよ。ここにさ。……どうかな? 反対意見のある人いる?」
「私は賛成やで。メアのやろうとしてる事は多分そう簡単にできる事じゃないんだろうけど、私はそういう楽しそうなの大好きさね。それに……友達の事手伝うのは当然やろ?」
ろぴねぇがそう言ってウインクする。
一つ目でウインクするから目を閉じてるだけなんだけれど。
頼りになる友達が出来てうれしいな♪
「ろぴねぇありがとう♪ みんなはどうかな?」
……それぞれの顔を見渡すと、一人、また一人と「賛成です!」「俺も!」「楽しそうだしな」「不安はありますが……」みたいな感じで、なんと、最終的に全員が賛同してくれた。
「……みんなぁ……私めっちゃ嬉しいよ。私頼りない魔王だけれど、みんな力を貸してくれるかな?」
私の言葉に、その場にいる全員が立ち上がって「うぉぉぉ!!」と拳を振り上げた。
うわぁ、なんかすっごく体育会系の香りがする。
とにかく、これで私の野望に向けて一歩前進ってやつなのだぜっ☆
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