大賢者は分析してみる。
どういう原理で噴き出しているのかとても興味があったのだが、どうやらその威力はかなりの物らしく精霊障壁で受け切ろうとしても高温自体は防げそうにない。
灰にならずともじわじわローストハーフエルフにされるのはごめんだ。
なので、私は瞬時に展開する魔法を切り替える。
「
基本的には相手の魔法攻撃を跳ね返す物なのだが、こと炎相手となると効果が異なる。
目の前に展開した鏡のような障壁に炎は完全に吸い込まれて消えた。
「……な、何をした!?」
そんな驚かなくても今の攻撃くらい防げる人は私以外にも何人か居るって。
「反射して辺りが炎に包まれても嫌だから水の障壁魔法で相殺しただけよ。そんなに驚く事じゃないでしょう?」
もう枯れ果てた森だとしても炎で追い打ちをかけるのはなんか悪い気がしたのだ。
すとっと地面に降り立つ。
ちょっとだけ服がふわりとめくれそうになり慌てて手で押さえた。
こんな奴に見せてやるほど私の足は安くない。
「……そろそろ話す気になったかしら? 言っておくけど、殺す気になればすぐにでも殺せるからね?」
絶句して攻撃の手を辞めたのを、敗北宣言と見なして聞きたい事を投げかける。
「……アンタが本当に魔族だってんならなぜ今更この世界に出て来た?」
「……ふ、いいでしょう。私も我が身が可愛いので生き延びる為に情報を与えましょう」
「御託はいいんだよ。さっさと喋れ」
「恐ろしい女性だ……我ら魔族は大古の昔、魔物から進化した存在です。本来なら魔物の軍勢を率いてこの世界を我らの手に……そういう手はずでした。しかし、パワーバランスの崩壊というのは、一部の連中には面白くなかったようでね」
その一部の連中、というのはどうやら神の事らしい。
話を聞く限り、こいつらは神にとってイレギュラーだった。
想定していない勢力が力をつけ始めた事を問題視した神々はこの世界とは別の空間を創造し、そこへ魔族を追放した……のだそうだ。
「我らが閉じ込められた世界はとても狭い。この世界の四分の一も無いでしょう。敵も居ない。食料も無い。我らは餓死を強要されたのです」
そう語るデッニーロは少々悲しそうな顔になったように見えた。
そう考えるとこいつらはこいつらでいろいろ事情と言う物があるのだろう。
……私には全く関係無い事だが。
「しかし我らはチャンスを待った。いつか来るその日に備えて自らを石に変え、長い時を待ち続けた」
……冬眠する熊かよ。
「それがどうやってこっちにこれるようになったの?」
「……それは、我らを導いて下さったあのお方のおかげ。あのお方は我々を迎え入れて下さった」
……神の作った異空間へと移動し、魔族達をこの世界に引き込む……。
魔王以外に考えられなかった。
もう一つ可能性があるにはあるが、それは考えても結論が出るような事ではないので今はいい。
デッニーロも【あのお方】とやらの姿は知らないらしいのでこれ以上聞く事も無い。
とりあえずこいつらがおそらく本当の魔族であると言う事が確認できたのだからそれで十分。
こちらの世界に来ている魔族の総数を聞いた所で無意味だろう。
こいつに聞いたところでそれを鵜呑みにするのは危険だ。
「やれやれ……私も落ちぶれた物です。生き延びる為とはいえ貴女のような存在にいい様に情報を渡してしまうとは……情けない」
「まぁ、情けないって所には同意してあげるけれど、誰が生き延びられるって言ったの?」
「……え?」
「……は? まさか本当に助かると思ってた?」
「冗談、でしょう?」
「私冗談と寝言は寝てる時にしか言わない主義なの」
「そんな! 約束がちが……」
私はその言葉が終わる前に、魔法で極限まで圧縮した【ただの水】をその口の中に放り込んだ。
「い、今私の口に何を入ればぼっ」
圧縮を解かれた大量の水が一瞬で元の質量に戻る。
外皮は結構硬いみたいだけど内側から弾けたらあっけないもんだ。
私は精霊障壁を傘のように展開し、噴水のように吹き上がった水や、はじけ飛んだデッニーロの肉片から身を守る。
「だーれがそんな約束したんだよ」
私をどっかのお人よしと一緒にするな。
こんな奴生かしておいても世界の害にしかならない。
殺せる時に殺す。
邪魔するなら殺す。
邪魔しなくても殺す。
目に付いたら殺す。
でもわざわざ探すのは面倒だからしない。
それが私のスタンスだったし、今も昔も変わらない。
正直魔物が仲間だとか元魔王が仲間だとか頭がスライムにでもなったかと思った。
私にはまだ、それすら割り切れてはいない。
……それでも何故か……戦意を無くした相手を殺した事に少しだけ胸の内がもやもやしてしまうのは、きっとどこかの馬鹿の影響なんだろう。
私も焼きが回ったもんだ。
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