ぼっち姫、二人の魔王。


 とにかく私はメディファスの言う通りに空を駆け回る。

 魔物達を出来る限り大勢巻き込むように、大きな円を描いて空を蹴る。

 蹴って蹴って蹴って蹴ってたまに魔物も蹴って蹴って蹴り殺してぐるっと一周してきた。


「はぁ……ちょっと疲れた……。これでいいの?」


『肯定。準備は整いました。メリニャン殿の魔法は大丈夫でしょうか?』


「お? うむ、儂の方はいつでも大丈夫じゃぞ」


『では主、予定通りに』


「あいよーっ♪」


 私は急降下して、ちょうど里の前、魔物達の死骸が積まれている辺りに降り立つ。


 アシュリーは相変わらず里の中。ナーリアは屋根の上、ショコラの姿は見えず、ライゴスとデュクシは左右に展開して各自戦っている。


「さて、これからどーすんの?」


 ある程度の魔物達は降下した私を追いかけてきてるけど……。


『ではひっぱりましょう。我はあの魔物達を取り囲むように種を撒いてきました。今それを全て接続します』


 種? 接続……?


「いや、もうちょっと分かるように言ってよ」


『既に主の手にて操作可能なようにしてあります。さぁ、思い切り引っ張って下さい』


 引っ張れって言われても……って、あれ?


 気が付いたら上空にキラキラと光る細い糸みたいなのが蜘蛛の巣状に張り巡らされてる。


 それが、こよりのように混ざり合って私の手の中へ一本に纏まって繋がっていた。


「これ引っ張ればいいの?」


『肯定。思い切りやって下さい』


「おっけー♪ じゃあめりにゃんいくよー?」


「いつでもいいのじゃっ!」


「おっしゃーっ!」


 私はその場でその糸を思い切り振り回すみたいに腕を振るう。


 すると、空に張り巡らされた蜘蛛の巣が魔物達に張り付き、身動きがとれなくなった。


「おっ、メディファスすごいじゃん!」


『もっともっと引っ張って下さい。そのまま一か所に集めてしまいましょう』


「なーるほどねー♪」


 まるで海へどでかい網を投げてみんなで引っ張る漁みたいな感じ。


「おりゃーっ☆」


 思い切りぶん回すと、今度はその蜘蛛の巣が私達に引き寄せられる。

 魔物がびっしりとくっついたまま引き寄せられてくるので、隙間がどんどんなくなって巣の内側にいる魔物達まで巻き込まれてどんどん中央に団子状に押し込められていく。


「めりにゃん、今だよっ!」


 その時、魔物達のさらに遥か上空に何かが見えた気がした。


 誰かが空間転移でもしてきたような感じだけど、太陽が逆光になってその姿まではよく分からない。


「いくのじゃっ! くらえ儂の極大究極至高大魔法!! 大爆殺銀河大爆破ジェノサイディックギャラクティカっ!」


 放たれた魔法が巨大すぎて、

 音が大きすぎて逆にもう何も聞こえない。


 この近距離に居たら鼓膜破れたんじゃないかと心配になるけど、別に治るからいいか。


 むしろめりにゃんは大丈夫なのかなーなんて不安になったけど、それは大丈夫みたい


 とにかく、めりにゃんの掌から放たれた魔法は、以前のような細い線が広がって爆発、というタイプじゃなくて、もう放たれた瞬間から目の前光で溢れて全てを消し飛ばすような魔法だった。


 結果を言えば、蜘蛛の巣に絡めとられた魔物団子はそこに何かがあった痕跡すら一切残さずに消滅した。


「がはははははっ!! 久しぶりに全力でぶっぱなしたのじゃっ! 先代にすら恐れられたヒルデガルダ・メリニャン最大最強魔法の威力を見るがいいのじゃーっ! ひゃーっはっはっ!!」


 めりにゃんは、久しぶりにその最大最強な魔法とやらをぶっ放してテンションがアレになってしまった。


 こりゃあの人影も死んだな。

 もしアレが偶然今現れた魔法だったとしたら可哀そうだけど……。


 ところが、


「……こんな魔法使えたのね。以前は手を抜いていたのかしら?」


 どこからともなく女の声が響く。

 遠くから聞こえてくるような気もするし耳元で囁かれているような気もする。


「なっ、なんじゃなんじゃっ!?」


 めりにゃんも私と同じような違和感と気持ち悪さを感じて背筋がぞわぞわっとしたらしい。


「二人とも久しぶりね。……いや、片方は初めまして、と言うべきかしら? 難しいところね」


 空にまだちらほらと散らばる魔物達の誰か、という訳ではなさそう。


「めりにゃん、ちょっと行くよ」


 私はめりにゃんを抱えてもう一度上空へと飛ぶ。


 私の勘が正しければ、きっとさっき現れた人影だ。


「それにしても五万も居てこの体たらくとは魔物が聞いて呆れるわ。知能も低い能力も低いでは何の役にも立たないじゃない」


 ……居る。

 上空へ戻ると、かなり高い位置にそいつは浮かんでいた。


 ゆっくりと私達と同じくらいの高さまで降りてきたそいつは、


 そいつは……。



 どうみても私とおんなじ顔をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る