ぼっち姫、イガグリとトゲトゲ。
やがて地上の魔物達も森を突き抜けて里の入り口に群がり始めた。
「こっちもそろそろ出番のようじゃ。セスティ、遠慮はいらぬ。やってやろうぞ」
うっすらと目じりに光る物が見えたけれど、それは見ないふりをして魔物の群れを見据える。
一時はめりにゃんの声明で混乱していた飛行部隊だったけど、今は再び隊列を組みなおして眼前に迫っていた。
「お久しぶりですなヒルデガルダ様」
やっぱり飛空部隊を率いている幹部が居たらしく、先頭に居た鷲だか鳶だか、とにかく鳥っぽい魔物が魔物の群れを一端止め、めりにゃんに話しかけてきた。
「おお、お主はイガグリじゃのう。儂の前に立ち塞がるなら死んでも恨むでないぞ」
イガグリ……?
確かに頭の天辺のあたりが茶色くて毛がツンツンしてる。
だからイガグリなのかな?
「イガグリじゃなくてイガーグルですよ! ……本当に貴女と言う人はいつもいつも適当な名前で……。正直貴女の事は嫌いじゃないんんですけどね、わざわざ味方をしようとは思いません……だから、申し訳ありませんがこれでサヨナラです!」
そのイガグリが手をスッと動かしたかと思うと物凄い速さで何かが飛んできた。
針みたいな物で、めりにゃんを狙っての攻撃だったけれど私がそんなの見過ごすわけないよね。
目の前でぱしっとそれを摘まむと、イガグリは「なんだとっ!?」とか驚いていたけれど、めりにゃんはまったく動じてないし瞬き一つしてなかった。
私が止めるって分ってたのか、私が何もしなくてもこんなのどうにでもできたのか。
「のうイガグリよ。お主は元魔王であるこのヒルデガルダ・メリニャンと……このプリン・セスティをなめ過ぎではないか?」
「ひ、ヒルダ様はともかく……その小娘は一体なんなんです!? 私の暗器針をいともたやすく……」
「お取込みの所悪いんだけれど、こういうのを相手に反応させずに刺したいんだったらこれくらいスピード出さなきゃダメだよ?」
すとんっ。
「な、何を言って……え? あれ……? う、うわぁぁぁぁぁっ!! いつの間に……っ!」
イガグリは自分の眉間に針が刺さっている事に数秒遅れで気付いて、慌ててそれを引き抜き懐から何か小瓶を取り出して飲み干した。
「ハァ……ハァ……なるほど、確かに貴女もお強いようですね。しかし私の針を不用意に素手で掴んだのは失敗ではありませんか?」
うーん。大体分かったけど説明してあげた方がいいのかなぁ。
「どうせあれでしょ? その針に毒が塗ってあって、素手で触るだけで皮膚から吸収されて死ぬとかそういう話でしょ?」
「分かっているのなら話が早い。そろそろ効果が出てくる頃合いですよ。残念ですが貴女はこの序盤で退場です。お疲れ様でした」
「あー。うん、お疲れ様でしたっ♪」
私はめりにゃんを小脇に抱えて地面を全力で蹴った。
一瞬にして目の前にイガグリのイガグリが迫り、私はそのまま開いている方の手でイガグリのイガグリを鷲掴みにして、走った際の勢いを奴の頭を掴む事で相殺した。
ごぎゅるっ。
イガグリの首の強度より勢いの方が強かったみたいで、そのまま奴を中心にくるっと一回転するみたいになって首が捻じれてしまった。
「……ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……。って、もう返事できないみたいだね」
ちょっと幹部としては情けない殺し方をしてしまった。
ごめんね?
「よっし、じゃあマリス。こいつの首輪食べていいよ」
私のドレスの胸元辺りががぱっと開いてイガグリの首輪をごっきゅごっきゅかみ砕いていく。
って、それはいいんだけどなんでここから開くかな!?
胸元の部分が伸びてっちゃったら隠すものがないでしょーが!!
「おいお前ら今見ただろー?」
周りに居た魔物達を問い詰めると、一生懸命首を横に振るばかり。
まだ自分たちの指揮をとっていた幹部が一瞬で死んだ事も把握しきれてないようだったけれど、タダ見は万死に値するのだ!
「めりにゃん行くよっ!」
「おうなのじゃっ!」
私達は魔物達の群れの中へと飛び込む。前方から相手にするより中央に飛び込んで全方位敵ってくらいの方が何も考えないでぶち殺せる気がするんだよね。
とはいえこの時まで剣を用意できなかったのは流石に失敗だったなぁ。
私は魔法で戦うよりやっぱり剣で戦う方が好きだし、剣が無いからメインは殴る攻撃になっちゃうのでリーチが短い。
めりにゃんは私の腕に自分の腕を絡ませながら、まるで空中をスキップでもするかのように……踊りを踊るようにクルクルと回って私達の周囲に一本魔力の筋を描く。
「めりにゃん、何これ」
「ふっふっふー。慄くがいいのじゃーっ!」
私達をくるっと取り囲む線が発光して……。
「
めりにゃんがやたらと軽快に魔法を唱え、その線から物凄い勢いで長くて細い針が物凄い勢いで周囲の魔物達をくし刺しにしていく。
「からの~、
魔物達に突き刺さった針に沿って電撃が襲う。
針が刺さっていた魔物達はうめき声をあげる暇もないくらい一瞬で真っ黒になって風に崩され舞って逝った。
完全に開き直っているのか、それとも無理をしてるのか分からないけど
めっちゃ満面の笑みで
「どーじゃどーじゃすごいじゃろー♪」
と腕に絡みついてくるめりにゃんの頭を、とりあえず撫でまわす事にした。
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