ぼっち姫、奪還と消失。
「うおぉぉ! 次は誰であるか!? かかってくるのである!!」
「なんだこの化け物!!」
「気持ち悪ぃ!!」
「頭がぬいぐるみの化け物が! 化け物がぁっ!!」
「弱いっ!! こんな奴等しかおらぬのであるか!?」
観客席の方でらいおん丸が頭ぬいぐるみ状態で暴れている。
あいつが今まで何をやってたのかも気になるし、どうしてこのタイミングでここに来ることが出来たのかも後で聞かなきゃいけない。
だけど今は、そんな事よりも大事な事がある。
「お前ら不甲斐ないぞ? ここは俺達に任せておけ! 俺は紅の聖騎士ロンザ!」
「ボクは大賢者の弟子コーベニア!」
「私は大神官ヒールニント!」
「小賢しいのであるぅぅぁぁあ!!」
「「「へぶっし!」」」
らいおん丸が一撃で三人纏めて蹴り飛ばし、どこかで見た事があるような三人組は意識を失った。
「らいおん丸! あの子たちを任せたわよ!」
私はなんとか動くようになった体を起こそうとして、ここでやっと手足を縛られている事に気が付いた。
何か手錠と足枷のような物で拘束されてるみたいだけど、これくらいなら今の私でも壊せる。
手足が自由になったし檻をこじ開けて、よろよろする体に無理矢理命令を出す。
少しでも前に進んで。
早く行かないとリュミアが、リュミアがどこか行っちゃう。
せっかく会えたのに。
やっと、やっと……。
『主……おそらく勇者リュミアは、もう……』
「うるさい。そんなの分からないじゃない」
『ですが……』
「うるさいったらうるさい!!」
その後もごちゃごちゃうるさいメディファスを完全に無視して、会場になっていた部屋を出る。
そこは広い通路になっていて、見た感じ王国騎士団が成金親父共を拘束していた。
多分あの身なりのいい連中はオークションの客だったんだろう。
あいつらをぶっ殺せないのは悔しいけど、あのクズ共を一網打尽にできたんなら我慢しよう。
それよりリュミアを探さないと……。
「セスティ殿!! こんな所で貴方に会えるとは……やはり勇者の言っていた事は正しかったんですね」
聞き覚えのある声に振りかえると……。
「……テロア? じゃあここの騎士団は……」
「はい。勇者リュミアの要請で私が団長に頼み込み第三部隊を率いてきたという訳です。しかしナランでこのような取引が行われていたとは……」
勇者リュミアの要請で……?
「り、リュミアは……? 今リュミアはどこに!?」
「それが……私は引き留めたのですが、もう俺は勇者を辞めたんだと言って……気が付いたらどこにも姿が見えないんです」
「セスティ! セスティ……儂を置いていくなんて酷いのじゃ……」
「うぅ……頭痛いっす……何がなんだかさっぱりなんすけど誰か説明してほしいっす」
「我もやる時はやるのである! 救出作戦大成功なのである!! テロア殿! ご協力を感謝するのである!」
テロアと会話していても意味が無いので、リュミアを追うために外へ出ようとした時、会場の方からみんなが私を追いかけてきた。
「みんな……とりあえず、無事で良かったわ。でも私は……」
そこで、皆の後ろに表情暗く立っているナーリアの姿を見つけた。
「姫……申し訳ありません。私の、……私が軽率だったせいで、皆を、そして姫まで……危険に……」
……そう、ね。
私は今、
……ううん。
もう、一人じゃなかったんだった。
「ナーリア」
「ひゃっ、ひゃいっ」
声が上ずってる。
怒られると思ってるのかな?
「おかえり。無事で良かった」
「うっ……姫……ひめぇぇぇっ……」
ナーリアが私に飛びついてきたけど、今の私はまだかわす元気も、それを受け止める元気もなかった。
いつかみたいに押し倒される形になっちゃったけど、私の胸に顔をうずめて子供みたいに泣きじゃくるナーリアを見ていたら怒る気にもなれないよ。
リュミアの事は、そう、諦めるつもりは無い。
絶対に追いかけて見つけてみせる。
だから、慌てなくてもいい。
今はみんなが無事だったんだからそれでいいんだ。
「よしよし。すぐに助けてあげられなくてごめんね。私まで捕まっちゃって……情けないわ」
「我、がんばったのである。褒めてほしいのである」
らいおん丸がしょんぼりしているけど、私はそんなに優しくない。
「らいおん丸、そもそもどうしてめりにゃんがさらわれたのかな? あんたその時何してたの……?」
「うっ……それは、その……街が気になって少しだけ様子を見に……」
「なんじゃと!? 儂が我慢していたのにライオン丸だけ勝手に出歩いておったのか!? 信じられん……裏切りじゃ。ライオン丸に裏切られたのじゃ……」
「ち、違うのである! これには理由がっ!」
「問答無用なのじゃぁぁぁぁっ!!」
既にただのぬいぐるみに戻っているらいおん丸は、怒っためりにゃんに顔をぐにぐに引っ張られて「ひゃめひぇほひぃのへはふぅ」とか言ってる。
私にはなんとなくだけどらいおん丸が何をしてたのか分かる気がする。
そして、まだ終わってない。
私にはなんとなく心当たりがあった。
「ナーリア」
まだぐずぐず言ってるナーリアの頭を優しく撫でて、強く言葉を紡いだ。
「全部、終わらせよう」
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