ぼっち姫、切実な願い。

「それで、めりにゃん。どうやってニーラクの村の様子を知る事ができるんだ?」


「そ、そうじゃそうじゃ。ニーラクの村……どのへんじゃろうのう。えぃっ。スクリーン!」


 めりにゃんが掌を頭上に翳し、魔法を使った。

 投影魔法、だろうか?


 俺達の目線より少し上くらいの高さの空間に映像が投影された。

 最初はこの遺跡の上空が映っていたが、めりにゃんが「うーん。こっちじゃろか……」などと言いながら場所を調整していくと、やがてニーラクの村の上空が映る。


「……やはり魔物が来ている」


 ニーラクの村は大量の魔物に囲まれていた。

 あちこちの家から炎が上がっている。


 くそ、守るって言ったのに結局こうなっちまったか……。


 いや、待てよ?

 不自然に一か所だけ何の被害もない場所がある。


 村長の家だ。

 村長の家だけ、なんだか不思議なバリアのような物に守られている。


 誰かが村長の家だけを防御している?

 それなりの高レベル防御魔法のようだ。

 あのように空間ごと守るタイプは俺には使えない。

 誰か神聖系の魔法を使える人間が援護に来たのか……?

 いや、恐らくそんな偶然は無いだろう。

 だとするとテロア?……あいつ魔法剣士だったのか?


 確かに騎士団長ともなればそれくらいできてもおかしくはない。

 おそらく村人を村長の家に運び込んでそこだけを集中的に守る事に徹したのだろう。


 じゃあ外で戦闘しているのはライゴスだけか?


 いや、今弓矢の軌跡が見えた。

 あの二人も戦場に出ている!


「めりにゃん、あそこの、ほら人間が二人戦ってるだろ? そこを映してくれ!」


「わかったのじゃ。ちょっと待っておれ」


 めりにゃんがまた微調整を加え、今度は低い目線からの映像が映る。


 目の前には大勢の魔物。

 そして二人だけで戦うデュクシとナーリア。


 ライゴスはどこへ行った?

 まさかとは思うが一人で逃げたか、あるいは既にやられてしまったのか…。

 いや、出会ったばかりだがあいつは信用できる。一人で逃げるなんて事はないだろう。

 そして、デュクシ達が生存しているのにライゴスだけが先にやられてしまうというのも違和感がある。

 二人を守るために、というケースが無い訳ではないが近くにそれらしい体が倒れている様子も無い。


 そうなれば、恐らく二人を巻き込まない場所でやっかいな奴を相手にしているのかもしれない。


 俺の想像を肯定するかのように、デュクシのずっとむこうの方で炎の柱があがった。


 あれは確かライゴスの風神なんとかいう技だ。確か炎舞だか炎斧だかそんな感じのやつ。


 ライゴスの心配はいらないだろう。

 それより、デュクシとナーリアだ。

 この二人がこの数の魔物を相手にできる筈がない。


 ヒヤヒヤしながら二人を見ていると、めりにゃんが俺の手を握る手に力を入れて「あれが……セスティの仲間なのじゃな?」と呟いた。


「あぁ。俺と違ってまだまだひよっこ冒険者だからこのままじゃ死んじまうぜ……なんとかしないと」


 しかしこの現状、俺に出来る事はない。

 ここの出入り口が開き次第飛び出して全力で駆け付けたところで、間に合うだろうか?


 それまで二人があの数の魔物を相手に生き延びられるだろうか?


 唯一の望みはライゴスが、今戦っているであろう相手を早々に片付けて助けに入ってくれる事だが……。

 その後も奥の方で爆炎が上がっている所を見ると手こずっているようだ。


 俺は、二人がすぐにでも殺されてしまうと思った。


 思ったのだが、実際はそうはならない。


 もしかしたら二人は俺が出発した後ライゴスに手ほどきを受けたのかもしれない。


 デュクシはしっかり炎の魔剣を操り、時に炎を飛ばし、時に刀身に纏わせて魔物達を倒していた。


 ナーリアはと言えば、なんだかもの凄い勢いで風属性魔法を纏った矢を撃ち続けては飛空系の魔物をガンガン撃ち落としていた。


 あいつ……ちゃんとクリスタルツリーの弓を使いこなせるようになってるじゃないか。

 クリスタルツリーの弓には大地から吸い上げた魔素が大量に詰まっている。

 無尽蔵という訳にはいかないだろうが、あの弓はその魔力を攻撃に変換し、あのような事も出来るのだ。


 俺がもっときちんと使い方を教えてやればよかったのかもしれないが、魔剣と違って弓は使った事が無いのもあり、余計な事を中途半端に吹き込んで困惑させても仕方ないという理由からナーリアには弓の力を伝えていなかった。


 ライゴスから教わったのだろうが……それにしても初めてにしてはかなり使いこなしている。

 意外と器用な奴だったんだな……。

 それに、高威力の弓とあいつのスキルは相性がいい。たまにどこに飛んでいくのか分からないのが恐怖だが。

 デュクシもまだまだ危なっかしいところがあるが善戦している。


 だが、いくらあいつらが戦えるようになったからと言っても、どうしようも無い相手というのは居るものだ。


「せ、セスティ! まずいのじゃ。あいつはガシャドと同じく幹部候補じゃったボアルドじゃ!」


 魔物の群れの中からゆっくりと前に出てきた巨漢を見てめりにゃんが叫ぶ。


 ガシャドと同程度の力があると考えた場合あの二人に勝ち目は無い。


「おいメディファス! まだか!?」


『現在処理中。残りおよそ四十二パーセント』


 遅い。

 やっと半分より少し進んだ程度だっていうのなら到底間に合わない。


 ライゴスは何をやってる。早くこいつらの所へ来てやってくれ!


 ギリギリと歯を食いしばる俺を、めりにゃんがそっと抱きしめた。


「めりにゃん?」


「大丈夫。きっとうまくいくのじゃ。……自分の仲間を、信じてやるのじゃ」


 しかし……まだあいつらは……。


 いや、信じてやる。信じてやるから、せめて俺が帰るまででいい。なんとか持ちこたえてくれ。


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