ある魔法使いの苦悩14 サラとお買い物

 私はサラと連れ立って王都に繰り出していた。


 これからしばらくは暮らすことになるので、案内を兼ねながら必要なものを買い出すためだ。


「サラ、私たちがいる新魔法研究所はちょうど王都の中心にある王城に付随しているので、この都市はここを中心に東西南北に広がっているんだ」私がサラに簡単な説明をする。


「今日はその中で西側の商業区に行こうと思う」


 ここ王都はそれほど大きい都市ではない。王城といっても巨大な建造物が建っているわけではなく、王様のいる王宮、騎士団や魔法兵団の駐屯地を囲うように、商業区と工業区そして民家が放射状に広がっている。ちょうど真円に近い形で都市が形成され、大外はすべて壁で囲われている。


 出入り口となる門は南と北にそれぞれ一ヶ所ずつある。私が出入りしたのは南の門だ。


 西地区は商業区で占められ、日々賑わいを見せている。東地区には住居が多く、それほど大きくない都市なので人々は日中はよく西地区に出かけている。


 私たちは商業区に入ると、まずはサラの服を充実させることにした。


 出会った時に荷物を持っていなかったサラは、着ていたワンピース以外の服がなかった。さすがにそれ一枚というわけにもいかない。昨日はサラをお風呂に入れている間にワンピースや下着を簡単に手洗いをして、温暖魔法の効果が込められている物干しに干して乾かしておいた。


 必ず洗濯ができるというわけでもないので、少なくとも三〜四着の予備はほしい。


「サラが気に入るような服があるといいんだけどな」


「うん。わたし……これだけでもいいけど」


「そうはいかないだろう」


「そうなの?」


「そうなの」


 サラは服にあまり頓着はない。ないはずだけど、今までどうしていたのかはわからないが、ずっと着ていたかもしれない服は大きく汚れたりはしていなかった。宝箱の中に本体がいたからなのかもしれないし、特殊な何らかの効果が付与されている可能性もある。


 このあたりは本来は私の専売特許のはずだが、あいにく魔法の研究開発に才能があるとはいえない。同時に解析や分析も苦手としているので、普通じゃないことに対しての原因分析はあまり得意じゃない。


 どうしても必要になれば、アメリア君に頼んでみるという手もあるな。


「とにかく、サラの服を買うからね」


「うん。わかった」


 サラはにこやかにうなずく。ごはんをたくさん食べてひと晩しっかりと寝たからなのか、サラは出会った当初よりも活発な雰囲気になっていた。身体も服もさっぱりしたのも影響したかもしれない。


 元気があるのはいいことだ。


 大きくない都市とはいえ、それは極端に大きくないというだけで、商業区はそこそこの広さがある。お店の数も正確に数えたわけではないが、三桁は余裕である。小さい露天のような店もあるし、独立店舗やそれが集まったモールもある。


 食事が取れるところは比較的近くに固まっている。そのほうがあれもこれもと選べるから、好みが違う場合に都合がいいのかもしれない。わざわざ別店舗に別れないで済むように、持ち帰りで食べられるものが充実しているのも特徴的だ。


 休日の暖かい午後などは、持ち帰り用の食事をこの場で食べている客で溢れている。片手で食べられ、手が汚れないような工夫がされているのが人気の秘訣だそうだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 私とサラは商業区の中では少し奥まった場所にある、服飾関係のお店が集まる場所に足を踏み入れた。


 色とりどりの帽子が並ぶ店や、キラキラと太陽の光を反射しているアクセサリーが並ぶ店もある。さすがにサラには大きすぎる物が多いな。


 大人用の服屋はたくさん並んでいたが、なかなか子供用の服が売っていない。普段行かないからなおさら良くわからない。あたりをつけるのも難しいので、うまく見つからなかったら誰かに聞いてみるか。


 しばらく歩いていたら、それっぽい服が展示されているお店があることに気がついた。案外簡単に見つかって拍子抜けする。


「サラ、あそこならありそうだよ」


「うん。キレイな服がたくさんあるね」


「サラにはなんでも似合いそうだから、選ぶのが大変かもしれないな」


「ファーレンが選んでくれるなら、わたし、なんでもいいよ」


「うれしいことを言うなぁ」


 私はサラの頭をポンポンと軽く叩いた。サラはえへへ、とうれしそうに笑う。


 さて、子供用の服って意外と高かったりするのかな? お金の心配はしなくても大丈夫だとは思うけど、目玉の飛び出すような値段だったらちょっと考えないといけないからな。


 この店は子供用の服で、特に女の子向けのものが多いようだ。見える範囲では七割は女の子向けのスカートやブラウスが並んでいる。バルーン袖のニット素材のトップスやコートなんかもあるな。コートはちょっと季節はずれな気がするけど、服は季節を先取って売るからこのくらいでも遅かったりするのだろうか。


「ねぇ、ファーレン」


「なんだい?」


「わたし、これ着てみたい」


「おっ、さっそくかい? どれどれ……」


 サラが指し示しているのは、裾がフリフリのワンピースだ。腰のあたりがキュッと締まっていてスカート側にかなりのボリュームが作られている。袖は長く、袖口にはリボンが縫い留められている。


 色は今サラが着ているワンピースよりも濃い朱色だ。赤が好きなのかな?


「ワンピースでいいの?」


「うん」


 まぁ、一着だけというわけでもないから、サラがほしいのならひとつはワンピースでもいいかもな。


「他には? 何か気に入ったのある?」


「ちょっと、見てみる」


 サラは、朱色のワンピースをジーッと見ている。サイズは大丈夫そうに見えるけど、あとで試着させてもらおう。私はそのワンピースを店員さんに一旦預かっておいてもらうことにした。


「しかし、想像以上にたくさんの種類があるなぁ」


 この店自体はあまり大きくはないが、陳列数がとても多い。色違いも含めれば百点は超えていそうだ。人の好みは千差万別というけど、子供でも同じなんだな。サラが赤を好むように、ズボンを好む子もいればスカートを好む子もいるだろうし、長さも長短いろいろだ。


「私も自分の服装にこだわりを持ったほうがいいのかもしれないな」


 服に頓着しないので、ある意味ではこだわっている状態になっている。何も考えないでどこでも通用する真っ白なシャツと動きやすい綿製のズボン、その上からいつも白衣を着ている。


 研究室でもこの格好だし、外へ行くときも同じだ。たくさんの道具を詰め込んだカバンを持ち出すかどうかの違いしかない。それで困ったことがないから今に至るまでずっと同じ。


 サラは店内をフラフラとし、気になったものをジーッと見たり触ったりしている。


「うーん……」


 何に悩んでいるのかはよくわからないけど、服選びをしているサラを見ていると心が和む。見ているものを目で追いかけてわかったが、基本的にロングスカートが好きなのかもしれない。しかも、色はやはり赤系ばかりを比較している。


 放っておいたら全部同じような服になっちゃうかもしれないなぁ。


 私もなんとなしにサラに似合いそうな服がないかを物色し始めた。

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